die15話 ラブレター?
翌日、登校して靴箱を開けると、靴箱の中から一枚の紙がひらひらと落ちてきた。私がその紙をキャッチすると。
「それ、塔弥様からのラブレター?ヒビッチ羨ましすぎるじゃーん」
騒ぐユーユこと友実は案の定リリーこと琳に取り押さえられる。私は靴箱の隅からどこかへ歩いていく見覚えのある生徒を見かけた。
「手紙じゃ~ん。開いてみれば~」
アヤヤこと亜矢の言う通りにその場で手紙を開いてみる事にした。
「…休み、食…に来てください。あなたの事を知りたいです。……より」
私が読める字だけを見るとそう紙には書かれていた。
手紙を読んで首を傾げる私に、見かねたアヤヤこと亜矢が代わりに手紙を読んでくれた。
「昼休み、食堂に来てください。あなたの事を知りたいです。えっと…これなんて読むんだ?見たところ名前っぽいけど…世…?まぁ昼休み食堂に行けば分かるでしょ~」
「塔弥様…何でヒビッチが好きなの~?」
「それ本人に訊けば?」
リリーこと琳がユーユこと友実にそう訊くと。
「やだよ緊張する」
ユーユこと友実は視線をリリーこと琳から逸らして、もごもごと口を動かした。
そして昼休みの時間がやってきた。
私以外の三人が緊張した様子で食堂の前に行くと後ろに気配がした。その気配は私の背後で止まり。
「だーれだ?」
と言ってきた。
「しー、あなた達は言っちゃだめよ」
声の主はアヤヤこと亜矢達にそう言うと、アヤヤこと亜矢達は「分かりました…」と遠慮がちに言った。
振り向いて確認したいが、生憎と私の目はその人物に隠されている。その為、私は声だけで当てなければならない状況だった。
「はぁ~、さすがの私だって誰でも一々覚えられるわけじゃない。降参だ……」
私はそう言って両手を上に挙げる。その人物は「しょうがないわね」と言って手を私の目から離した。
「じゃーん、世純先輩でした」
そう言って世純先輩は私の目の前に出る。
バカなのか?こいつは元殺し屋で遊んで、私がマナーを守らないような奴だったらもうとっくに死んでいたはずだ。
「というか、世純先輩がこんなことするなんて意外ですね。いつもなら私達のことなんか興味ないって言うはずなのに」
「あぁぁぁぁ、もう!梓紗ってば昔毎日こんなことをショウにしていたの?恥ずかし過ぎるじゃない!」
世純先輩は顔を赤くして手で顔を覆ってもごもごと何か言っていたが、コホンと咳払いをして立ち上がった。
「確かに、あなた達のことは興味ないわよ?でもね、その子は別」
そう言って世純先輩は私の事を指差す。
「え?ヒビッチ……ですか?まさか、あの手紙を入れたのって」
「そう、私がやったの。立ち話もなんだし、食堂で話しましょうか。でもまぁ、私はその子にしか興味ないんだけど」
私の腕を掴んで席に向かう世純先輩。
「さて、何食べたいの?その前にあなたの名前を教えてくれるかしら?」
「響……」
「なるほど、響、ね……何頼んでもいいわよ。あの日替わりメニューでもいいし、私も毎日それ頼んでいるし、一人前も二人前も変わんないから」
やはりお金持ちってすごいな。でも一応私だってお金はある。まぁ、出る金はあっても入る金はないが。ん?待てよ。蓮山グループの社長を私は殺した。ということはこいつも出る金はあっても入る金はないはず……。
「じゃあ、私も先輩と同じで……」
「分かったわ」
そう言って世純先輩は立ち上がり、注文をしに行った。しばらくすると注文を終えた先輩が帰ってきてため息を吐きながら言ってきた。
「何であんたは注文しにいかないのよ」
「え、だって場所取りは必要だってユー…ユが……」
「はぁ~、あんたってば律儀ね。わざわざ場所取りなんかしなくても、私が通してって言えば皆すぐに道を開けるのよ。私にケンカを売る価値ないって皆分かってんのよ。私なんかに逆らったりケンカでも売ったりでもしたら社会的に終わるって皆分かってんの。サルじゃないんだから。頭を使えば簡単に分かることよ」
世純先輩が顎を動かした先には、花咲学園高等部の制服を完璧に着こなした男子生徒が控えていた。
この男、どこか何かに似ている気がする。
「それよりもあんた、自分で注文しに行きなさいよね。もしかして、私が全部やってくれるとか思っていた?私は奢るなんて一言も言ってなんかいないんだから」
「いや、そんなことは微塵も思っていないが、では私も注文しに行ってくる」
私は注文しにカウンターへと向かい、注文をし終わった後、あの端末を渡された。私が戻るや否や世純先輩が。
「で、なぜ私があなたをここに呼び出したかなんだけど、あなた、記憶喪失でしょ」
いきなり何を言い出すかと思えば、私が記憶喪失だと?
「あなたを見ているとね。なぜか幼馴染に重なっちゃうのよ。悪い⁉」
こいつ、感情がコロコロ変わるな。大丈夫か?
「私は記憶喪失じゃ……」
『祈……』
私の頭に私の知らない記憶が流れ込んできた。
祈?私は祈じゃない。だが、もしかしたら……。
「どうしたの?」
「私は、私は記憶喪失じゃない……ただ、過去がちょっと思い出せないだけで……」
「それが―――」
その時、世純先輩の端末から料理の完成を告げるブザーが鳴った。
世純先輩は立ち上がり厨房の方に向かう。なんとなく私も彼女に付いていく。
「世純ちゃん、いつもお世話になってるよ」
料理を取りに行くとおばちゃんなる人物が世純先輩に話しかけてきた。
当の世純先輩はふん、と鼻を鳴らして料理を受け取っている隙に私は席に戻り、制服を完璧に着こなしている男に話しかけた。
「死に」
この言葉に男はきょとんとしていたが、すぐさま「祝福を」と言った。
「(ふむ、お前、機関の人間か)」
先ほどの言葉は私の所属していた機関にのみに通ずる暗号である。
「(ではあなたも)」
私が声を小さくしたので男もつられるようにして声を静めた。
男は私と話している時も目は常に世純先輩の方へ向いていた。
「(私は元だ)」
「(なるほど、私は家系が殺し屋なのですが、僕は世純お嬢様の専属執事兼ボディーガードをやらせていただいています。まぁ、その件でお嬢様の男の幼馴染の方が変われ変われうるさいのですが、その幼馴染の方は世純お嬢様ともう一人の女性の幼馴染お二人に対して少し、いえかなり愛が……)」
世純先輩が席に戻るとすぐさま私達は話をやめ、世純先輩は、料理を一口含んだ。
「で、話を戻すんだけど、それが記憶喪失なんじゃないの?」
「それ…とは……?」
「だから、自分の過去が思い出せないんでしょ。さっき言った過去が思い出せないってところよ。私の幼馴染も実は記憶喪失でね。今はもう一人の幼馴染に任せているんだけど、実のところ寂しい。私が何を言いたいのかというとね、なんか分かるのよ、それっぽいの。今は会っていない。もう何年も会っていない。だけど、もう一人の幼馴染から経過報告?みたいのが送られてきて、だからなんか分かるのよ。そういうの」
記憶…喪失。私は殺し屋、元、殺し屋、お父様に拾われる前の事は、あまり覚えていない。唯一、覚えているのは私の実の父親と母親らしき人物が目の前で殺された、ということだけ。当時の私は、いや、小学三年生だった私た、ちは、見てしまった。お父様がその人達を殺している所を…私が今覚えている範囲での最古の記憶はそれだった。
「さて、そんな重苦しい話は終わりにしましょう」
「(お嬢様、この者は信用できるのですか?)」
聞こえているぞ。殺し屋の家系の奴。
「別に信用の問題じゃないわ。この子にちょっと梓紗の面影?みたいなのが見えたから話しかけただけよ」
「はぁ、くれぐれも私以外の者は過度にご信用なされませんように、おっとショウ様や梓紗様以外の者は、でしたね。申し訳ございませんでした。時にお嬢様、ショウ様とは……」
「亮真!」
世純先輩が喝を入れると、亮真と呼ばれた男は何事もなかったかのように背筋がまっすぐになった。




