die13話 休日の過ごし方
土曜日、私が経験する初めての学校が休みの日、私はリリーこと琳と寮の玄関でユーユこと友実を見送っていた。
そこには、きれいな所作の美人な女性が立っていて、ユーユこと友実はその女性のところに小走りで向かっていった。
ユーユこと友実は私達の方へ振り返り、大きく手を振って、その女性と歩いて去っていった。
「あれ、ユーユのお姉さんなんだって」
さっきの女性についてリリーこと琳が教えてくれた。
「あぁ、あれが噂の」
「アヤヤに続き、ユーユまで帰っちゃったね」
先程、アヤヤこと亜矢が家に帰り、見送ったばかりである。それに加えてユーユこと友実まで帰ることになるとは。
それで今はリリーこと琳と二人きりなわけだ。
「それで」
「うん?」
私が言うと、リリーこと琳はこちらへ顔を向けて首を傾げてきた。
「お前は帰らなくていいのか?」
私が訊くとリリーこと琳は。
「うん、あたしはいいかな。それより、ヒビッチも帰らなくていいの?」
と、私に訊き返した。
「私もいい。お父様に極力帰るなと言われたから」
私はリリーこと琳から目を逸らし、最後の言葉をぼそぼそと誰にも聞こえないように呟いた。
「え?なんだって?」
「分からないならいい」
どうやら聞かれていないようだ。
よかった、と私は胸を撫で下ろした。
「えぇ?教えてよヒビッチ~」
リリーこと琳は、アヤヤこと亜矢のように私に抱き着こうとするが、私はするりとそれを躱す。
「えぇ⁉躱すのそれずるくない⁉ねぇ⁉だったら何でアヤヤは避けないの?」
リリーこと琳は私に抱き着けず、バランスを崩しかけたが、立て直して、それから大声でまくし立てた。
「玄関ではお静かに!お迎えを待っているんですか?静かに待っていてください。迷惑です」
通りすがりの教師に注意されてしまった。私とリリーこと琳は揃って頭を下げて中に戻る。
「ほら、怒られちゃったじゃ…ん?」
リリーこと琳が急に視線を駐車場の一角に動かして、そう声を上げた。
私もリリーこと琳が向いた方向に首を動かすと、高級そうな車に乗り込む一人の女子生徒の姿をとらえた。
そして、目立たないが、その女子生徒の傍に一組の男女がひっそりと佇んでいるのを見つけた。
「あれは確か……」
「あぁぁぁぁ、世純先輩だ~~~!帰るのかな?」
私を遮ってリリーこと琳は興奮する声を出した。
「おぉ、興奮気味だな」
私はリリーこと琳に若干引き気味で返した。
「えぇ?ヒビッチ知らないの?近所の学校にも世純先輩の噂が広まっているほどなのに」
リリーこと琳は高速でまくし立てる。
「わ、私はその噂を知らないから……」
「それはね……」
また誰かに注意されるのが怖い私は、リリーこと琳の背を押して玄関を後にした。
殺し屋は目立ってはならない。目立ってしまうとそれだけ多くの人間の視線を集めてしまう。顔を覚えられてしまうということだ。情報のやり取りも、本来は内密に静かに行われるものだ。だがこれはどうだ、リリーこと琳は興奮していて、無意識のうちに声が大きくなっている。まぁ、彼女達は殺し屋、裏社会の人間ではないのだから気にしなくて当たり前だが。
私はリリーこと琳を学生寮の中に押し込んで興奮冷めやらぬ様子で、世純先輩という人物の噂について教えてくれた。
「世純先輩はね、グラドルの娘さんなんだって、どこからその情報が来たのかは分からないけど、芸能人の子供なんだよ。すごいすごい!っていうか何でヒビッチ制服なの?今日お休みだよ」
実際、私は花咲学園の制服を着ていた。
「お休み……?」
「うん、今日学校休み、だから普通に私服でいいんだよ」
キョトンと首を傾げる私に、リリーこと琳が教えてくれた。
「あれ?どうしたのこんなところで」
靴箱で外履きから内履きに履き替えるところで、塔弥という男子生徒に呼び止められた。
「あれ?塔弥くんも帰るの?」
塔弥という男子生徒は私達とは反対方向に歩いてきていた。
「うん、お母さんが迎えに来てくれるんだ」
歩いて帰れる距離と言えば距離ではあるんだけどね、と塔弥という男子生徒は苦笑する。
「じゃあ、また月曜日に」
そう言って塔弥という男子生徒は玄関の外に出ていった。
「じゃあヒビッチ、着替えてなんかして遊ぼ?」
リリーこと琳は無理矢理私を部屋に押し込み、部屋着に着替えさせて廊下に出る。
「っていうか、ヒビッチの私服黒⁉」
そう、私の今の、というかいつも服装は、いつでも闇に溶け込めるよう、黒や黒っぽい色ばかり着ている。まぁ、昼では逆に目立ってしまうが、殺し屋は闇に紛れて仕事をする職種のため、黒や黒っぽい色を選ぶのは必然だった。仕事用の服装もあるにはあるが、それはそれである。
「まぁ、いつもこれだからな、汚れても大丈夫なように……」
「えぇ……?」
私としては普通の受け答えをしたはずなのになぜか引かれてしまった。
「分かった。今度四人で服買いに行こう」
私は一瞬首を傾げて、そして微笑んで言った。
「あぁ……」
するとリリーこと琳は目を見開いていた。
「どうした……?」
「あぁ、ヒビッチってさ来た時から大分変わったよねって思ってさ」
そんなことを言うリリーこと琳に私は首を傾げる。
「そうか?」
「うん、笑顔が自然になった」
私としては全く分からないが、もしかしたらそれは恐らく殺し屋としての適応力の高さだろう。
「そうか……で、何をするんだ?」
私はそう曖昧な返事をして、リリーこと琳に訊ねる。
以前は休日だからといって部屋でゴロゴロしていたわけではなく、積極的に仕事を探そうとしていた。
「あ、じゃあ、あたしの部屋でゲームしようよ」
手をパンと叩いてリリーこと琳とユーユこと友実の共同部屋に招き入れた。
リリーこと琳とユーユこと友実の共同部屋は以前見た通りだった。
「なんだ、これ」
テーブルに置いてある何かを除いては。
「あ、これ、ユーユ忘れていったな。あぁ、もぅ」
リリーこと琳はテーブルに置いてあるものを手に取ってため息を吐いた。
「で、なんだ、これ」
「あぁ、ヘアアイロンだよ」
桃色のⅤ字型の何かを手に持ったままリリーこと琳は教えてくれた。
「それにしてもヒビッチってこんなに髪さらさらなのに、手入れどうしていたの?」
リリーこと琳が私の髪を持って訊いてきた。
私は考えるような仕草をして。
「お母様にそう言えば何かやられていたな」
「そのお母様って、どっちのお母さん?」
そのへああいろん?をテーブルに置き直してリリーこと琳は振り返って訊いてくる。
「お父様やお母様は新しい方だな。私は生みの親のことはあまり覚えていないから」
「え?そうなの?」
リリーこと琳は驚きの声を上げる。
「言っていなかったか?あぁ、世純先輩とかいう奴には言ったのか」
「とかいう奴って、まぁいいや、早速やろ?」
リリーこと琳はテレビのところにしゃがみ込んでガサゴソと何かをし出した。
「あったあった、はい、これ」
そして私は何かを受け取った。赤色のそれは半月のような形をしていた。
「なんだ?これ」
「ん?コントローラー、もしかしてヒビッチゲームしたことない?」
リリーこと琳は青色の私が手渡されたものと同じ形をしているものを持って私に訊く。
リリーこと琳はテレビの電源を点けて、慣れた様子で操作していく
ゲームのホーム画面が映し出されると、リリーこと琳はソフトを起動させる。
リリーこと琳が選んだゲームは様々なキャラクターが戦うゲーム。
「あぁずるいずるい、何でそんなコンボ決まるの⁉ヒビッチ初心者だよね⁉」
「案外楽しいな。この感覚、癖になりそうだ」
私はそのゲームにはまり込み、ほぼ一日中このゲームにのめり込んだ。




