die12話 校長登場!
何だかんだありながらも私達は夕食を食べ終わり、今は井上教師に連れられて廊下を歩いている。
「で、どこに行くんだ……?」
私は今、井上教師に連れられて廊下を歩いている。
「敬語、とれていますよ」
「済まな……ごめんなさい……」
「よくできました。ちゃんと敬語を言えた響さんには特別に教えてあげましょう。今から校長室へ」
こうちょーしつ?本当に訳の分からない言葉が淡々と、頭が痛くなりそうだ。正直あいつらの言葉は本当によく分からない。さっきのイチコロだってそうだ。普通に殺すのと何が違うのだろう。一撃必殺的な意味か?
すると井上教師はとある部屋の前で立ち止まり、その部屋の扉をノックした。
「どうぞ」
あれ?この声、どこかで聞いた事があるような。
「失礼します。校長先生」
井上教師は扉を開けると一礼をして中に入った。続けて私も入る。私とこうちょーとやらの目が合った途端、こうちょーとやらが目を反らした。
「えー…井上君、とりあえず君は退室してもらえるかな。聞き耳も立てずにお願いするよ」
「は、はぁ…」
「分かったの?返事は?」
「は、はい」
そう言って井上教師はその部屋から立ち去った。
「え、えーっと……リリィ…様ですよね」
「やはりお前だったのか。ベレータ」
「う、噓…ですよね。リリィ様が私のコードネームを………」
このベレータという人間は機関の人間であり、私に憧れて機関に入ったという、機関の人間の中でも異色の入り方を成し遂げた。そんな彼女の技能はハッキングであり、私が教えた数少ない教え子でもある。
「逆に私がリリィ様を教えられる立場になる日が来るとは………私、感激です。ボスからリリィ様が来る事は聞いておりましたが、まさかうちの生徒としてなんて、全く聞いておりませんでしたー!」
ベレータはそう言いながら執務机をバンバンと叩く。
「あ、申し訳ございません。私ったら執務机に」
そう言いながらベレータは執務机の所からソファーの所へと移動する。
「いつまでお立ちになられているおつもりですか?早くお掛けになられればいいのに」
「そうか……?じゃあ遠慮なく」
そう言って私はベレータの向かい側のソファーに座る。それにベレータは不機嫌な表情をするがすぐに引っ込める。
「お隣でよろしかったのに……ま、まぁともかく、この学校には慣れていただきましたか?」
「この制服とやらが着にくいな。今までスカートなんて履いたことなかったから」
「ふむふむ、なるほど、他にご意見などは」
ベレータはいつの間にメモ用紙を手に持って先程の私の意見を懸命にメモ用紙に書いていた。
「というか、無理に変えなくてもいいからな、それに急に変えたら皆が混乱するだろうし」
「か、かしこまりました……」
と、ベレータは涙目になって言っていた。どうやら本気で変えるつもりでいたらしい。
「で、では、今度の生徒会でそれを議題として出すというのは……」
「まぁ、お前がどうしても変えたいのならそれでいい。だが、私だけだと目立つから全員変えろ。それなら私も納得する」
「かしこまりました。今度の生徒会で提案してみます。それにしても聞いてくださいよー。生徒の皆が私をロリババアと呼ぶんですよー、ひどくないですかー?背が低いからかな……」
そう、ベレータは三十代にして身長は私と同じくらい。あまりにも低すぎるため、私と同じく子供と間違われるのだ。まぁ、私は本当に子供なのだから問題はないのだが。とは言え、本人は相当気にしているらしい。
「私はそのロリババアとやらの意味が分からないんだが」
「ロリババアというのは…説明しろと言われると難しいですね。実年齢よりも背格好が低いく子供っぽい女性、とでも言えばよろしいでしょうか……」
「なるほどな。というか、子供に見られることのどこが問題なんだ?」
「それが大変なんですよー。リリィ様に分かっていただけるか分からないのですが、お酒を買う時が面倒で自分が成人していることを店員に提示しなければならないんです。殺し屋たるもの素直にはいそうですかと情報を提示してしまった暁には、いつどこでそれが命取りになるかも分からないのに、情報を提示しろだとか何という殺し屋殺し」
殺し屋はどれだけ飲まされても酔ってしまってうっかり情報を漏らさないよう訓練されているのだが、ベレータのような裏方はその訓練が行き届いていない場合が多々ある。ちなみに私も未成年ながら訓練されている事はここだけの話だ。
「あぁ、そうだ。お前に一つ言わなければならない事がある。情報屋も知らなかったからお前も知らないと思うが、一応言おうと思ってな。私、機関をクビになったんだ。ここに来たのもそれが理由だ」
ベレータはしばらく心ここにあらずだったが、やがてこう口を開く。
「申し訳ありませんが、もう一度お願い出来ますか?」
「機関クビになった」
「は……、えぇぇぇぇ⁉く、くくくくクビになった⁉機関頭おかしいじゃないですか‼あの凄腕のリリィ様がですよ。あの情報屋いらずのリリィ様がクビ⁉機関に直談判してきます!」
慌ててこうちょー室を飛び出そうとするベレータを私は引き止める。
「どうだ?落ち着いたか?」
「はい、申し訳ありません」
数分後、落ち着いたベレータに向けて訊く。そしてベレータはすぐさま謝罪した。
「ですが、いきなりリリィ様をクビだなんて、ボスはどう思っているんですかね」
「クビの話はお父様直々に言われた。仕事を終えてそのことを報告した後にな」
「本当にあの人頭おかしいですよ。自らがスカウトした御方を見捨てるだなんて」
「私も理解出来ない。まぁ、お父様直々の命令なら仕方ないがな。それにそんなに騒いで大丈夫なのか?もし井上教師が聞き耳なんて立てていたら……」
私が言うとベレータは落ち着いて言った。
「あぁ、大丈夫ですよ。ここは四方八方防音壁なんです。なので借りに聞こえるとしたら、どこかが壊れているか、それこそ超人しか居ないでしょう。それこそ我々のような」
「そうか、なら安心だな。あぁそうだ。この前、この学校の事を調べてみたらこの花咲学園は偏差値とやらが急に上がったみたいじゃないか。そして、その偏差値とやらが急に上がった月日はちょうどお前がここを創って十年経ってから」
「さすが……リリィ様には何をしても勝てる気がしません。理由を聞いていただけますか?私は緑山高校という高校に追いつきたいんです」
ベレータは私の意見も聞かないまま、その理由を話し始めた。
「緑山高校は偏差値六十五であり、今のこの花咲学園の最大偏差値は最大五十五、十足りないんです。リリィ様が今居るA組は花咲学園の中では一番普通で人数も多いです。この学園にはA組~Ⅾ組までのクラスがありますが、Ⅾ組の偏差値が先程話した最大の五十五、それとは対照的にA組は平均値の五十です。五十五と五十ではあまり違わないように感じるでしょう。ですが大きく違うんですよ」
「なるほどな。よく分からんが分かったと言っておこう」
「ちなみにA組は百人以上在籍しているので、A組だけ四クラスあるんです。リリィ様はA・C組に在籍しておられます。最近お友達になった。あ、お友達じゃなかったら失礼ですが、友実さんはA・A組です」
「なるほど、で、あいつはどうなんだ?」
「あいつ?」
と、首をかしげるベレータ。
「ほら、あいつだあいつ。琳、とか言ったかな?」
「あぁ、琳さんですか。あの人はA組じゃないんですよ。琳さんはあの三バカの中で唯一のC組なんです」
「三バカ?」
「リリィ様にはお伝えしていませんでしたね。アヤヤこと亜矢さんとリリーこと琳さん、そしてユーユこと友実さんは花咲学園で三バカと呼ばれる三人組なんです。あの三人の中で唯一まともなのは琳さんだけなんですが、あの二人と小学部の頃から一緒に居たからか、徐々にバカが目立ってきているんですよね。まぁ、あの二人よりかはマシなのは間違いないんですが、もはやあの三人は花咲学園の生ける伝説のような感じになっているんですよ。悪いことは言いません。目立ちたくないのであればもうあの三人と関わるのはやめておいた方が……」
「断る」
「え?」
ベレータは私に向かってそんな素っ頓狂な声を出す
「昔の私だったら今すぐにでも距離を置いていたが、今の私の目標は他人を信じる事だ」
そんな私の言葉にベレータは少し微笑んで。
「本当に、あなたは変わってしまいました。今ではすっかり平和ボケしていますね。いやまぁ、もう一般人のリリィ様にはそれもいいかもしれませんね」
「そんなに平和ボケしているか?私」
「はい、とても。ですが、微笑ましいですね。リリィ様で微笑ましく感じるのは、いけない事だということは充分理解しているつもりなんですが、やはり微笑ましく感じますよね。だってリリィ様、ずっと少女の姿なんですもん」
「いやだからな、何度も言っていると思うが私の本当の姿はこれで……」
殺し屋リリィは正体不明の殺し屋ということが知れ渡ってしまっているため、私のこの素顔の状態も変装だと勘違いする人間が多いのだ。ちなみに私の素顔がこれだと知っている機関の人間はお父様とその秘書しか居ない。
「はいはい。そう思って―――」
「―――校長せんせ~。ヒビッチ返してくださ~い!」
そんな中、突然こうちょー室に勢い良く入ってきたのはアヤヤこと亜矢だ。
「ごめんなさい校長先生。こらアヤヤ、校長先生に謝って」
その後ろから、リリーこと琳がひょこっと顔を出して、ベレータに頭を下げた。
ベレータはリリーこと琳に微笑んで。
「いいんですよ。元気は何よりもあなたの武器になります。ですが、ノックくらいはしてほしいですね」
「ほら、怒られたじゃん」
「え~いいじゃ~ん。校長先生も元気は何よりも私の武器になるって言ってくれたんだし~」
私はそんなアヤヤこと亜矢とリリーこと琳を横目で見つつ、「失礼いたしました」と言ってこうちょー室から退出する。
「ねぇねぇヒビッチ、あのロリババア校長先生と何話していたの?」
「ゆ・み・さん?響さんと入れ違いに入ってきてください。わざわざ本人を前にして言う事ですか?」
「た、助けてヒビッチ」
私の後ろに隠れるユーユこと友実に私はため息をつく。
「ね、言いましたよね。皆が私をロリババアと呼ぶと」
「安心しろ、お前は充分ロリババアだ」
「あ、言いましたね。今度不意打ちで触り倒しますから」
「やれるものならな」
私はそう言い残し、こうちょー室を後にした。
扉を閉める直前に「本当にあなたは変わってしまいました」と言うベレータの言葉を背中で聞いて。




