die11話 嵐の前触れ
「ヒビッチ~おかえり~、どこ行っていたの~?心配したんだよ~」
花咲学園の学生寮に帰った時、アヤヤこと亜矢が私に向かって飛びついた。
「アヤヤはヒビッチのお母さんか何かなの?違うでしょ」
私から離れないアヤヤこと亜矢はリリーこと琳に引き剝がされる。
「あははは……」
一方でユーユこと友実は隣で乾いた笑みを浮かべる。
その時、誰かのお腹がグ~と間抜けな音を出した。
「アハハ~お腹すいちゃったね~。ちょうどいい時間だし、食堂行こ~」
「ちょっと待ってアヤヤ、あなた宿題やってないでしょ。食べるんだったら終わってから」
問答無用に食堂に行こうとするアヤヤこと亜矢をリリーこと琳はアヤヤこと亜矢の服を引っ張って引き止めた。
「あ、そうだ。ヒビッチ、ヒビッチは宿題やった?」
「宿題ってあれか……?英語のプリントの……」
「それそれ」
リリーこと琳は私の言葉に指を差す。
「でも私、分からないぞ。英語なんて、簡単な言葉は……まぁ、分からなくもないが私、読めないし書けないから……やっていない……」
そう言って私はリリーこと琳から目を逸らした。
「はぁ~、ヒビッチも宿題やってなかったんだ……アヤヤと一緒に教えてあげるから」
ユーユこと友実はリリーこと琳と共にため息をついて、アヤヤこと亜矢と私の部屋に向かう。
アヤヤこと亜矢と私の部屋に入ると、アヤヤこと亜矢は自分のベッドにダイブし、駄々をこねた。
「や~だ~よ~。めんどくさいじゃ~ん。英語なんて~」
「めんどくさくてもやるの。自分のためにならないよ」
私の場合は小学三年生の途中までの問題しか分からないので仕方ない部分はあると思うのだが。
私とアヤヤこと亜矢は自分の鞄の中から一枚の紙を取り出した。
「もしかしてヒビッチも面倒くさがりでしょ」
「いや、違うが……たまたま忘れていただけだ……」
「ホントかな~、そうだ。ヒビッチってさっきまでどこ行っていたの?」
「……知り合いのところに……」
「じゃあ白だね」
リリーこと琳は私を疑う事なく言った。
「はいはいはーい、ヒビッチには優しくないですか。ヒビッチも面倒くさがりなだけだよ。騙されちゃダメリリー!」
「いや、ヒビッチも巻き込まないでよ。ほら、ヒビッチも変な目で見ているじゃん。っていうか、さっさとやるよアヤヤ」
リリーこと琳はベッドの上に居るアヤヤこと亜矢を無理矢理引きずり下ろし、宿題を始めた。
っていうか私は、アヤヤこと亜矢を変な目で見てはいないのだが。
「うーん、分からない……」
アルファベットを前に首をひねる私を見てユーユこと友実が。
「ねぇ、もしかしてだけどさ、ヒビッチって英語苦手?さっきも読めないし書けないって言っていたし、じゃあ私が教えてあげるよ。その代わり……塔弥様についていろいろ教えて。最近塔弥様と一緒に居るのヒビッチでしょ。好きなタイプとか聞いているんじゃないの?」
「ヒビッチ、塔弥君のことについては何も答えなくていいから~。あ、ユーユこの問題教えて~」
「何でよ。塔弥様の情報はとても貴重なの。アヤヤもヒビッチもわかるでしょ、塔弥様のすばらしさ」
「いやいや、分からないから塔弥君のすばらしさなんて、っていうか勉強教えてって言ったじゃ~ん」
本当に塔弥とかいうやつの事はよく分からない。こいつらも例外ではないのだが。
アヤヤこと亜矢とユーユこと友実がいろいろ言っていたせいもあって、宿題というものが終わる時間はとっくに午後七時を過ぎていた。
「あぁ、やっと終わった~……もう十九時だよ。皆もう食べてんじゃ~ん」
「誰のせいだと思っているの?」
「あはははは、アヤヤだ~」
「半分ユーユも入っているんだけど……はぁ~お姉さんなら絶対こんなことしないよ」
リリーこと琳がため息混じりで言う。
「ちょっ、リリー⁉お姉ちゃんの事は今関係ないよね」
「ねぇ、あれ井上先生じゃな~い?」
食堂に着くとアヤヤこと亜矢がある一点を指差して言った。
「あ、本当だ。何しているんだろ」
アヤヤこと亜矢が言うとリリーこと琳もその一点を見て言った。
「井上せ~んせ~。何しているんですか~?」
リリーこと琳がそう言うと同時に、アヤヤこと亜矢は井上教師に近づいて言った。
「あ、君達、探したよ。ちょっと響さんを借りてもいいかな?」
「いいですけど、ヒビッチをどうするつもりなんですか?」
ユーユこと友実が井上教師に言った。するとリリーこと琳がユーユこと友実を止める。
「ちょっとユーユ、あたし達まだ夜ご飯食べてないんだよ。先生、その後でいいですか?」
「分かりました。待っていますよ。その前に、何してこんな遅くなったのかな。教えてもらえるとこちらの行動も決まりやすいですから」
アヤヤこと亜矢達三人は井上教師から目を反らす。
「あ、あの………その……アヤヤとヒビッチの宿題を教えていました……。すみません」
「謝らなくてもいいんですよ、琳さん。僕はさっき言った通りに待っていますから」
「ほ~ら、井上先生もそう言ってくれているんだし早く食べに行こうよ~リリー」
アヤヤこと亜矢はリリーこと琳の腕をつかんで注文をしに行った。
「あの二人は自由奔放だね。ヒビッチ」
「そうだな。というかお前は行かなくていいのか?」
「うん、大体私って席取り係なんだよ。あの時は助けてくれてありがとねヒビッチ。かっこよかったよ。じゃあ席取りに行こう」
ユーユこと友実は私の手を引いて空席を探すのだった。
その頃私の中では羞恥なのか喜びなのかも分からない感情に惑わされていた。
殺し屋は裏の仕事、恨みを買うことはあっても感謝をされることはないのだから。
「あ、ここ空いている。じゃあここで、アヤヤ達来るの待とう」
ユーユこと友実はそう言ってその空席に腰掛ける。
「なぁ、なんで待つんだ?」
「ん?あぁ、あの時って私がちゃんと席取らないのが悪かったんじゃん、しかもさっきも言ったけど、大体私って席取り係なんだ。私達全員席外してあの時みたいに取られていたら嫌じゃん。だから一人はこうやって席取り係にならないといけないの」
私はユーユこと友実の言葉に対して首をかしげる。
「うーん分かんなかったかな?」
ユーユこと友実とそんな事を言い合っているとアヤヤこと亜矢達が戻ってきた。
「お待たせ~」
「アヤヤ、何頼んだの?」
「聞きたい?ど~しよっかな~」
「カツ煮定食だよ」
そこでリリーこと琳が言った。
「ちょっ、リリー⁉それは自分で言いたかった」
「ハハハ、ごめんアヤヤ」
「えーアヤヤ、それ好き過ぎない?ねぇ、ヒビッチもそう思うよね」
ここでユーユこと友実は私に話を振りかけた。私がその事に首をかしげていると。
「ほらヒビッチ困っている」
「ムムム、何そのあざと可愛い仕草、絶対に塔弥様にはやらないでよ!」
急にユーユこと友実がテーブルを叩いて立ち上がった。
「ねぇユーユ、そんなに怒らなくても」
「怒るよ。塔弥様にやったら絶対にイチコロだもん!」
「そういう問題じゃなくて、そもそもヒビッチは、最近来たばかりなんだよ。アヤヤがいつも何頼んでいるかなんてわからないでしょ」
「そういう問題じゃなーいー!」
「ごめんねヒビッチ、ホントユーユ迷惑だよね~。ユーユ、ちょっとうるさすぎ」




