die10話 情報屋と情報屋いらず
翌日、寮から学校まで行く間、リリーこと琳が「治ったんだ。でも無理だけはしないでね」と声をかけてくれた。
私が教室の扉に手をかけた途端、アヤヤこと亜矢が私の代わりに教室の扉を豪快に開け放った。
アヤヤこと亜矢が教室の扉を開ける音に反応して、教室の皆が一斉にこちらを見る。
うぅ……目立った。死にたい。
私がそんな事を考えているとも知らず、そして他の皆は何事もなかったかのように仲が良さそうに話に戻っていた。そして、私は自分の席にカバンを置く。
「おはよう。響ちゃん。もう体調は大丈夫?」
塔弥という男子生徒は私が自分の席にカバンを置くと、すぐに私に声をかけた。
すると案の定、アヤヤこと亜矢を除くクラスの女子生徒全員の視線が一斉にこちらに向けられた。
震える私に塔弥という男子生徒は。
「まだ視線に慣れない?まぁ、これは慣れしかないから一緒に頑張ろうね」
その時、アヤヤこと亜矢と私を除くクラスの女子生徒は黄色い悲鳴を上げる。
「アハハ、ごめんうるさいよね。っていうか、昨日の変な声って何だったんだろうね」
「私もあれは少し気掛かりだと思う…が……」
「あ、響ちゃんも聞こえたんだ。やっぱり僕の空耳じゃなかったんだね」
「な、何?もしかして怖い話?」
その時、アヤヤこと亜矢が私達の会話に混ざり込んだ。
「いや、多分怖い話じゃないと思うが……」
そう言えば、アヤ…ヤは怖い話が苦手だったんだっけ。
今日は体育というものがあったらしいが、病み上がりということで私はやらせてくれなかった。放課後、私は情報屋の元に訪れていた。
「いや~、リリィさん。今回もお勤めお疲れ様っス。今回の標的は蓮山グループの社長でしたっけ、麻薬密売に家族への暴行、く~、これはもうやっているっスよ。蓮山グループと言えば大手薬品メーカーっスよね。この会社の金のほとんどが麻薬で出来ているんスよ。娘の世純さんは麻薬で育てられた事知っているんスかね、可哀想っス」
情報屋はある書類に目を通して言った。
世純?世純世純……そうか、あいつらが言っていた世純先輩とか言っていた奴か。
世純、七月二十日生まれの十六歳でカップ数は高校一年生ながら驚異のFカップ。さすがあいつの娘なだけはあるか。
「まぁ、薬品メーカーだからこそ麻薬何かも簡単に入手できるし隠れ蓑にもできるんだろうな。………そうだ、お前なら知っているだろうが、私、機関クビになった」
「は⁉リリィさんのような凄腕がクビ⁉いきなりスか?機関は一体何を考えているんスかね…」
「年齢が幼すぎるとお父様直々から言われたんだ。大人になってから完全復帰していいと言われたが、長期休みの間だけ一時的に復帰させてくれるようお父様に頼んだ。だが、まだ連絡は来てない。あぁ、そうだ。情報屋に最後の仕事を頼みたいんだ」
「クビになったんスからその情報屋呼びやめないスか?自分には波刈って名前があるんスから」
情報屋―――波刈は苦笑しながら言う。
「で、その仕事とは………」
彼が犬であれば、今にも尻尾を振って飛びかかるところだろう。それほどまでに波刈はやる気を出していた。
「その仕事とは………いのりという名前の女のリストを作ってほしい。出来れば私と同い年くらい……要は中学一年生で、多少ずれていてもいいが、出来るだけたくさん欲しいかな。期間は……そうだな一週間でどうだ?」
「お任せくださいっス!にしてもリリィさん、何でこんな事調べないといけないんスか?かつて情報屋いらずと言われたリリィさんなら簡単に調べられるっスよね。何で自分なんスか?」
そう、私はかつて情報屋いらずとも言われた殺し屋。だが、今は殺し屋でも情報屋いらずでもない。今は花咲学園の生徒、響なのだから。そう表立って調べられない。
「はぁ~、今は響って名乗っている。お前の言う通りもう殺し屋でもないんだからな。そう表立って行動出来ないだろう」
情報屋―――波刈は納得したように頷く。
「なるほどっス、だから自分に…ちなみに人探しは高くつくっスよ。十万でどうっスか」
「はぁ~、今は出る金はあっても入る金は全くないんだよな。今更言うのもおかしいが、もっと安くしてくれないか?まぁ本当に今更だし、手遅れだが……」
私はそう愚痴をこぼしながらもちゃんと波刈に十万円を手渡す。
「まいどあり、ベストを尽くしてみるっス。あ、駄菓子二個目いっているっスね、二個目からはちゃんとお代払って欲しいっスよ」
波刈の表の顔は駄菓子屋。今居る客達もほとんどが機関の人間だ。その証拠に周りの人間からの視線がすごい。まぁ、本人達は視線の数を最小限にしているつもりなんだろうが、花咲学園に居る時とは少しだけ違い、ほんの少しだけだがホッとした。
「分かっているさ、しかし駄菓子という物は情報よりかは安いし小さいから、いくらでも買えるな。いや~お前が駄菓子屋で本当に良かった」
「そ、そうっスか?照れるっスね。そもそも機関の人達って隠れ蓑にしている仕事を本気で楽しんでいる人多いっスよね。サレックさんとか、自分の場合もそうだったりするんスかね」
「それじゃあ、頼んだぞ。私は帰るから」
私はそう言い残して情報屋―――波刈に追加のお代を払い、帰る準備を始めた。




