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die9話 祈という少女

翌日、アヤヤこと亜矢に起こされて、私は目覚めた。いくら殺し屋と言えども、寝ている最中はさすがに無防備になってしまう。なので本来ならば、寝顔というものは信頼できる人間にしか見せてはいけないが、今の私は一般人だ。少しだけ警戒心を解きながら寝ていた。

今日はなにやら体が熱い。倦怠感もする気がする。

「もぉ~、いつまで寝てるのヒビッチ~。起~き~て」

「ア、アヤ…ヤ…?体温計持ってきてくれるか?……」

「え、わ、分かった。ちょっと待ってて」

そう言って、アヤヤこと亜矢は急いで部屋を出ていった。

仕事のしすぎか……?それとも、やっと仕事ができると思って舞い上がった……?どちらにしろ、今日は安静にしなきゃダメだな。情けない。

 しばらくすると、アヤヤこと亜矢が部屋に入ってきた。その後ろにはリリーこと琳とユーユこと友実の姿も確認できた。どうやら、二人にも私の事を言ったようだ。

「三十八度…九分……熱……あるな……」

体温計を受け取り、熱を測ると見事に熱があった。

「ねぇ、大丈夫?」

私に心配の言葉を掛けるアヤヤこと亜矢

「ま、まぁ……大丈夫だと思う……。だから、心配しないでいい……」

「わ、分かった。ヒビッチが言うなら、でも無理はしちゃダメだよ。いつでも電話掛けていいからね。あ、もちろん授業中はダメだけど」

私はその言葉に手を振る。その姿を見て、アヤヤこと亜矢はニッコリと笑って、朝食を食べに食堂に行った。

ったく、そんなヘマしないっての。それにしても暇だな。

私はいつからこんなにも、孤独を感じられるようになったのだろう。確か、ここに来るまでは孤独が当たり前の世界にいた。ここに来てからだろうか、孤独じゃなくなったのは……。

 その時、テーブルに置いてあったスマホに電話がかかってきた。

私は重い体を動かして、ベッドの上から降りる。降りた途端に視界が揺れる。改めて人間の(もろ)さを知った今日この頃だった。

そんな中でも、私はテーブルに置いてあったスマホに手をかけた。着信は、サレックから。

彼の表向きの顔は、この国の総理大臣代理の顔を持っている殺し屋の男だ。

「どうした……?」

『あれ?リリィさん。声が』

声で私の元気がない事を悟ったサレック。

「はぁ、はぁ、心配するな。ちょっと体を壊しただけだから」

『え、大丈夫なんですか?それに、リリィさんのような凄腕が体を壊すなんて、まぁ、今は九月も終わりに差し掛かっていますからね。今度何か持っていきしょうか?』

私を心配するサレック。

 そう、現在は夏も終わりに近付いている時期だ。だからだろうか、昨日教室に入ったら変な目で見られたのは。

「バカかお前は、お前の様な人間、このような場所に来たら大騒ぎになるに決まっている。それにお前が責任を負う必要はない……。きっと、仕事のし過ぎだろう……。さすがの私でも人間だ……。いつかこうなることは、必然だった……」

『ありがとうございます。リリィさん。では、私はこれから仕事があるので、回復に努めてください。急なお電話失礼しました』

「あぁ、そうするよ……。ちなみに、どんな仕事なんだ……?」

私はふと、そんなことを訊いた。

『アハハ、リリィさんって私の仕事の事、興味がないのかと思っていましたが、案外そうではないのですね』

「バカな、私だって他の仕事に興味くらいある……。で、教えてくれるのか……?くれないのか……?」

『そうですね。国家機密のところは、さすがに言えませんが、教えてあげますよ。総理大臣代理とはいっても、やることは多いですからね。まず、第一にやることは総理大臣のサポートですね。秘書と思ってくれて大丈夫ですよ。あ、それとリリィさん、これからどう呼べばよろしいでしょうか?さすがにリリィさん呼びでは、いずれ私がこちら側の人間だとばれてしまいますから』

 サレックは今の総理大臣代理の仕事を気に入っている。だからこそ訊いてきたのだろう。

「今は…響で通している……。だからお前も響と呼べ……。あぁ、横になった方が楽だ」

私はそう言って、ベッドの上で横になる。

「どうぞ、楽な体勢でお話しください」

「敬語……外していいんだぞ。代理が敬語だなんて、おかしいだろうが……」

「は、はい、そうさせてもらう…ね?」

サレックはカタコトで敬語を外す。どうやら、機関では私の方が上の立場だったため、どうにも緊張しているようだ。

「大丈夫だ……。はぁ、これくらいで疲れるなんて…相当疲労が溜まっていたみたいだ……。しばらく休ませてもらう。念のためお父様にもそう伝えてくれ……」

私は、そう締めくくってから、電話を切った。

その日の放課後、今私の横にはアヤヤこと亜矢が居る。

「どう?朝よりかは大丈夫そう?」

「あぁ、朝よりは食欲が出てきた……」

私が訊かれた事に対してそう言うと、アヤヤこと亜矢は。

「それは良かった~。夜ご飯は食べる?」

「もちろん……食べる……」

私はそう二つ返事で答える。

「分かった。食堂には自分で行ける?それとも、ここに持ってこようか?」

アヤヤこと亜矢はそう言って、二つの選択肢を提示した。

「そもそも、ここに持ってくる事なんて出来るのか……?」

 私はここに持って来る事が出来る事を知らなかった。だがアヤヤこと亜矢は、無言で頷いてみせる。どうやら、出来るそうだ。私はここ一日で、花咲学園の事を分かった気になっていたようだ。

「じゃあ、ここで食べる……」

私がそう言うと、アヤヤこと亜矢は「分かった。ちょっと待っていてね。今持ってくるから」と言い残し、部屋を出ていった。

 しばらくすると、一人の男子生徒が慌ただしく部屋に入ってきた。

「大丈夫⁉響ちゃん、倒れたって⁉」

部屋に入ってきたのは塔弥という男子生徒だった。どうやら私を心配して来てくれたらしい。

「……心配するな……少し体が追い付いてないだけだ……」

私がそう言うと塔弥という男子生徒はフッと微笑んだ。

「それって急な転校で体がびっくりしたってことだよね。もしかして響ちゃんって体弱い?」

「いや…そんなことはないと思うが……」

 私は殺し屋。いや、正確に言えば、元殺し屋。恐らくこれは急な学校編入でびっくりしたのではなく、ただ単に仕事のし過ぎ…だと思う。まぁ、急に仕事を辞めさせられた=急な編入でびっくりしている事もあるのかもしれないが。

「僕ね、昨日あの子の事で思い出した事があるかもしれないんだ。昨日は名前を知らないって言ったけど、確かあの子の名前は(いのり)…だったような気がするんだよね」

「……正解……」

その時、私のような、けれど私じゃないような声が聞こえた。

「え?」

塔弥という男子生徒は、何が起きたのか分からず困惑している。実際、私だって困惑していた。殺し屋は顔に出さないだけで他の人間と同じように感情はあるのだ。

「え?今、何か言ったか?」

「あ、いや、何でもないよ」


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