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【絶望ノワール2】救世主症候群・全容編【閲覧注意】  作者: 秋犬
死神編 第4話 姉と彼女と僕と俺
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例えばライラとか

リンク:懐旧編第4話「ライラ」

 成り行きでエリスと共にリィアに反乱することになっているティロは、名前を決めるという彼女の言葉に固まっていた。


(おいおいおいおい、どうせごっこの出任せなのにどうして本格的に組織名とか決めなきゃいけないんだ? しかも俺が、よりによってこの俺が!!!)


「名前? 2人だけなのに?」

 

 何とか名前を考えるという最悪の話の流れを変えられないかとティロはあれこれ思案する。


「ううん、私の名前。今から君に革命家としての私にふさわしい名前を考えてもらうの」


(はぁ!? お前エリスじゃなかったのか!? なんでもいいじゃん!! 名前なんて俺は気にしないから!!!)


 彼女の想定以上に最悪な申し出に、ティロは更にどうにか誤魔化せないかと剣の試合の如く様々な角度で返答を考える。


(どうしようかな、記憶喪失で女の子の名前だけ忘れているとか女の名前を呼ぶと死ぬ病気だとか、あとどうしよう、本気でどうしたらいいのか全然わからないぞ)


 彼女の笑顔を見ると、必死で誤魔化し方を考えている自分の全身に針が差し込まれていくような感覚に襲われる。


「えぇ……いいじゃん何でも」

「また適当なこと言って……ちゃんと考えてよ」


 いろんな誤魔化し方を考えたが、どう考えても誤魔化すより素直に苦手であることを伝えた方が得策であるとティロは思い直す。


「だって俺名前考えるの苦手なんだよ、本当に」

「何でもいいからさ、可愛い女の子の名前ないの?」


(何でもいいだって!? それで苦労しないなら俺はもう苦労してないんだよ!!)

 

「可愛い女の子ねえ……」


 ティロは背中に嫌なものを感じながらも、腕を組んでとりあえず考えるふりをする。


(何が可愛い女の子の名前だよ、俺の実力を知らないからそういうこと言えるんだよな。俺にとって可愛い女の子と言えば姉さんしか思い浮かばないし、姉さん以外を可愛いと認めるのは正直どうかと思うけどまあ彼女は可愛いと言えば可愛いし俺だってそんなに悪い気もしないんだよなあでもやっぱり姉さん以外を認めるって言うのはどうかって言う話だし、仮に彼女がライラという存在であったら俺は一体どうすればいいんだろう?)


 とりとめなく姉のことを考えているうちに、つい姉の名前を声に出してしまった。


「うーん、例えばライラとか……」


 ティロの小さな呟きを、彼女は聞き逃さなかった。


「それ可愛いじゃない、決まりね!」


 ライラという名前を気に入った彼女は手を叩き、それを聞いてティロの全身の毛が逆立った。


(え、待てよ!! なんでそうなるんだよ!! 違う、今の取り消し!! なしなし!! やり直し!!)


「え、適当に言っただけだよ! 別にそれがいいって訳じゃないし、俺本当に名前考えるの下手だからさ、ほら、別の名前にしない? 出来れば他の人に考えてもらうとか……」


 必死で呟きを取り消そうとするが、既に彼女はライラという名前を気に入ってしまったようだった。 


「何でダメなの?可愛いじゃない」


(違う! そうじゃないけど、絶対ダメなんだ!!)


「いや別にダメというわけじゃないんだけど、俺本当に名前付けるのだけは下手でさ……」

「またそうやって卑屈になって。いい名前じゃない」


(だから別に自信がないとかそういうわけではないんだけど……姉さんがいたって話をするとそこからいろいろややこしい話をする必要も出てくるだろうし、一体どうすればいいんだ、俺はどうすればいいんだ!?)


「うーん……」


 ティロは改めて彼女――ライラを眺める。ランプに照らされたライラの微笑みを見ているうちに、どうせ名付けをやり直したところでいい案が出るとも思えないとティロは思い直した。


(今更訂正するのが一番よくないな。このままでいくしかないなあ)


「……まあ、いいか」

「そうそう、いいじゃない、ライラ!」


(何だか気に入ってるし、もういいや)


「じゃあ早速呼んでみてよ」


 思わせぶりにライラが呼びかける。


「えぇ……」


(そんな、俺だって名前で呼びかけたことなんかほとんどないのに、いきなりライラだなんて……)


 ふと頭に笑顔の姉の姿が過り、締まりのない顔になりそうで赤毛のライラから顔を背けた。


「はやく!」


 急かすライラに、ティロは小さく呟く。


「……ライラ」

「なあに?」


 ライラが笑顔で答えると、ティロはますます小さくなった。


「……ライラ」

「どうしたの?」


(うう……何でこんなことになったかなぁ……呼び捨てだなんて、生きている時にやったこともない……)


「……何だかやけに恥ずかしいんだけど」

「どうして?」

「いやその、えーと……難しいな……何て言えばいいのか……」


(何をどう言えばいいんだ、俺のこの気持ち!)


「自分の考えた名前だから恥ずかしいんじゃないの?」

「ああ、そうそう。多分その感覚だ」


(ああもうそれでいい、うんうんそういうことにしておこう、そしてこの時間をさっさと終わらせよう、そうしよううんそうしよう)


 ライラの言葉に促されるように、ティロはライラを見つめながら手を出した。


「じゃあ、これからもよろしくな、ライラ」

「ふふ、こちらこそ」


 ライラはティロの手を取った。


(よし、これでこの話はおしまい! もういいよ何でも!)


「あ、でも俺の名前はあんまり呼ばないでくれよ」


 以前ライラに名乗った後、ティロはあまり名前で呼ばないよう彼女に釘を刺していた。


「わかってるって。嫌いなんでしょう?」

「うん……」


(嫌いというか、他人の名前を嫌いというのも違うんだけど、やっぱりこれは俺の名前じゃないからな)


 話の区切りがついたようで、ひとまずティロの心は落ち着いた。


「それで、その特訓はするの?」


 ライラは模擬刀を指さす。そこでティロは鍛錬をするはずだったことを思い出した。


「いや、今日はなんかもう、そういう気分じゃなくなった。眠剤で寝る」


(こんな気分で呑気に鍛錬なんかしてられるか!)


「それがいいんじゃないの」


 ライラはおやすみ、と立ち上がった。ティロは逃げるようにいつもの茂みに潜り込む。そしてライラが完全にいなくなるまで、先ほどの失言について頭が痛くなるほど後悔した。



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