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【絶望ノワール2】救世主症候群・全容編【閲覧注意】  作者: 秋犬
特務予備隊編 第1話 子供の世界
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同類

 予備隊に入ってティロが強く感じたことの中に、世の中には様々な事情を抱えた子供がいるということがあった。エディアにいた頃は思いも寄らなかった境遇の子供が予備隊にはたくさんいて、そして自身もその中の1人であるということを自覚することができた。境遇は違っても似たような気持ちを抱えた仲間がいると思うと、路上生活を送っていたときのどうしようもない孤独を慰められるような気持ちになった。


 17番のレシオは身のこなしが軽く、手品が得意だった。手のひらに包まれた硬貨が消えるのがティロは何度見ても理解できなかった。


「すごいなあ、本当にすごいなあ。どうすればできるんだ?」

「別に、ちょっと特殊な練習をすれば誰でもできるさ」


 レシオは詳しくは語らなかったが、後にティロは彼が父親から命じられて何百件とスリを働いていたことを知った。息をするように物を盗んでいたレシオは予備隊に流れ着いてからも手癖が直らなかった。試行錯誤の結果、代替行為として頻繁に手品を行うようになり何とか他人の物に手を付けないようにしているようだった。


「あ、こんなところにいた!」


 ティロが手品を教えてもらおうとしていたところに、シャスタが駆け込んできた。


「ちょうどいいや、よかったら一緒に」

「ダメだ、一緒に自主鍛錬するんだ」


 ティロの手をひくシャスタを見て、レシオは「行ってやれ」という表情をした。機嫌を損ねると面倒くさいのでティロはシャスタに着いていくことにした。


「別にいいじゃん……何でダメなんだ?」

「だって俺たち友達じゃないか。友達だから一緒にいるんだ」


 気になっていたのが、シャスタからの友情というより執着に近い纏わり付きだった。エディアにいた頃にいた友人を何人も思い浮かべたが、彼のようにしつこくつきまとうような子供はいなかった。


 そして、彼が何故か他の予備生から何となく距離を置かれていることに気がついた。思えば彼が他の予備生と親しくしているところを見たことがなかった。そこに彼のどうしようもない「孤独」を感じると、ティロは彼を放っておくことはできなかった。するとますますシャスタはティロに執着した。


 シャスタからの好意は有り難かったが、彼が本心で何を考えているのかはわからなかった。その胸の内を聞けば、きっと何かが壊れてしまいそうなほどシャスタの言葉は表面的なものだった。ティロはシャスタを気に掛けていたが、時にその執着に嫌気が差すこともあった。


***


 11番のハーシアは、ティロより年上で剣技はもちろん他においても非常に優れた才能を持った少年だった。剣技の手合わせが同級とでは物足りなくなってきたティロはしばしば年上のハーシアたちに混ざって手合わせをしてもらった。エディアの公開稽古を思い出すようで、ティロにとっては楽しい時間であった。


「また腕を上げたんじゃないか?」

「いや、僕なんてまだまだです」


 一通り手合わせを終えた後、ハーシアと話す機会が持てた。


「そういうところが、お前は不思議な奴だな」

「そういうところ、ですか……」


(また『そういうところ』だ。一体何なんだろうな、『そういうところ』って)


「大抵予備隊にいる奴なんて、剣技が強ければ強い方がいいって思ってるからな。お前みたいに謙遜してる奴なんか俺は見たことがない」

「まあ、強いに越したことはないですけどね……?」


 ハーシアの言わんとしていることをティロはくみ取りかねていた。


「ま、そういうところだろうな。お前のいいところは」

「……だから何なんですか、その『そういうところ』ってのは」


 ティロの問いにハーシアは少し考え込んだ。


「そうだな。例えば、シャスタについてどう思う?」


 急にシャスタの話を出されて、ますますティロは訳がわからなくなった。


「ええと……優秀な奴だと思いますけど?」


 それを聞いてハーシアは笑った。


「やっぱりお前は面白いな。あいつが懲罰房の常連だったって知ってるか?」

「何をやったんですか?」


 ティロは要領がいいシャスタが何度も懲罰房へ落とされているところが想像できなかった。


「あいつも随分酷い奴だったからな……ここに連れてこられた途端、剣技で相手を過剰に叩きのめした。あまりにもやり過ぎだったから皆で止めたんだ。そしたらあいつ、『弱い奴を叩きのめして何が悪い』って開き直りやがった」


 それはティロの知っているシャスタではなかった。ハーシアは驚くティロの顔を見て、続けた。


「それからもあいつは虚勢は一人前で、教官の前ではいい顔するけど俺たちの前だとろくなことしてなかった。そんな態度を続けたらどうなるかわかるよな。あいつはお前が来るまで何度か騒ぎを起こしてる。懲罰房に3回くらい入ってるんじゃないか?」

「そんな、死んじゃいますよ」

「懲罰房で死ぬのはお前くらいだ。とにかく、お前が来るまであいつはろくな奴じゃなかった。優秀なのは間違いないが、何かが欠けてるのは間違いないってくらいだ。だから、皆どんな心境の変化なのか気になっているんだ。どうしてお前が来てからあいつはあんなに丸くなったのかって」


 ティロが知る限り、シャスタは他の者と無用に騒ぎを起こすような人物ではなかった。


「俺の、せいですか……?」

「そうかもな。他人のことなんか考えるだけ無駄だけど、あいつの豹変はみんな気になっててさ……どうやってあいつと友達になったんだ?」


 最初の手合わせの機会を抜くと、わざわざ謹慎中に3階まで外から壁を登って会いに来たことが思い出された。今思えば、何故そんなことまでして会いに来たのかティロはよくわからなかった。


「ええ……何だかいきなり友達になろうって言われただけですよ」

「いきなりか。やっぱり変な奴だな、あいつ……俺が聞いた話だと、ここであったことと似たようなことを仕出かして孤児院を何件も追い出されてきたらしい。ま、俺たちも人のこと言えないけどな」


 自嘲気味にハーシアは笑った。彼もシャスタ同様、いろんなところで問題を起こして最終的に予備隊へ流れ着いたと言っていた。後に彼の親は犯罪組織の親玉だということをティロは聞いた。組織は摘発されてしまい彼は行き場を失ってしまったが、もし摘発されていなかったら親の稼業を継いでいただろうということを知ると、やはり自分の境遇と重ねて他人事とは思えなかった。


***


 ふとした弾みに、ティロはシャスタにハーシアからの疑問をぶつけてみることにした。


「なあシャスタ、何で俺と友達になろうって思ったんだ?」

「何でって、お前強いじゃん」


 質問の意味を理解していないようなシャスタに、ティロは畳みかけた。


「じゃあさ、俺が弱かったら俺と友達にならなかったってことか?」

「そんなことは言ってないけどさ。お前が弱かったらどうせあいつらにいじめ殺されてただろう? 俺はそんな奴は嫌いだ」


 薄情な答えに、ティロは少しがっかりした。


「そうか、別に俺じゃなくてもよかったのか……」


 その言葉にシャスタは慌てだした。


「違う違う、そういう意味じゃなくて……えーと、何て言えばいいんだ?」


 その後、シャスタはかなり落ち込んでいるようだった。見かねたティロが鍛錬に誘うと、喜んでついてきた。やはり彼が何を考えているのかはティロには理解ができなかった。




ここではあまり明らかになりませんが、シャスタの詳しい素性については事件編である程度語られています。そちらを読んでからティロ視点の予備隊時代のシャスタを見ると、いろいろなことを察することができるかと思います。こういう点が散々事件編で「信用できない」と言われてきた所以です。

次話、主に予備隊で出会う様々な人物との交流です。シャスタに次ぐティロの人生に関わる予備隊での人物の登場、そして懐旧編や探求編ではシャスタ視点で語られた出来事がティロ視点で語られます。

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