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【絶望ノワール2】救世主症候群・全容編【閲覧注意】  作者: 秋犬
剣都編 第1話 カラン家
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犬の名前

「姉さん犬! 犬! 姉さん! 犬だよ! 犬!」


 抜けるような青空の下を、1人の少年が2匹の白い子犬を抱えて走っていた。広い屋敷の玄関先まで走ってくると、美しい銀髪の少女が屋敷から顔を覗かせた。


「どうしたの犬犬って……あら、どうしたのその犬」

「港にいたんだ、捨てられたのかな。うちで飼っていい?」


 少年の腕の中で子犬は震えていた。白い毛並みがふかふかと揺れ、不安そうに子犬は少年の姉――ライラを見上げていた。


「いいと思うけど……ちゃんと世話できるの?」

「するに決まってるじゃないか! だってこんなにかわいいんだもの!」


 子犬を抱えている少年が子犬を抱きしめると、子犬はますます震えだした。


「そう……それならあなたが責任もって世話するのよ。この子たちが安心して生きていけるように、あなたが面倒をみるの。できる?」


 ライラは念を押した。


「だから大丈夫だって!」


 少年の熱意にライラは根負けした。


「それなら、名前を決めないと」

「名前……?」

「あなたが拾ってきたんだから、あなたが名付けるべきね、ジェイド」

「え、えー……姉さん名前つけてよ」


 犬を抱いている灰色の髪の少年――ジェイドは明らかに嫌そうな顔をした。


「何で? あなたの犬でしょう?」

「だって、僕名前とか無理だよ……」


 ジェイドは自信なく上目遣いでライラを見上げた。彼と同じ緑色の目でライラはジェイドを見下ろした。


「無理とかいう前によく考えてみなさいよ」

「でも……そうだな……えーと……」

「どう?」


 ジェイドは犬とライラを交互に見比べて、小さく呟いた。


「犬1と、犬2……」


 名付けと呼ぶには雑すぎる名前にライラは言葉を失い、ジェイドは完全に下を向いてしまった。


「……わかった、私がかわいい名前をつけてあげる」


 我に返ったライラは呆れた顔でジェイドに告げた。


「よかった……よかったなお前ら、かわいい名前もらえるぞ」


 下を向いたままジェイドは抱き上げている子犬に語りかけた。


「それにしても、何なのよ『犬1と犬2』って。そんなんじゃかわいそうでしょ」

「だって……僕そんなのしか思いつかないし……」


 ジェイドは彼なりに一生懸命考えていたようだった。


「もっとよく自分のことのように相手のことを一番に考えるのよ。そうしたらいい考えが浮かぶから……それにしても、『犬1と犬2』は……ちょっと……ねえ……」


 ライラは唇を歪めて、何かを堪えているようだった。


「何だよ、精一杯考えたんだぞ!」

「とても、そうには……ふふふ」


 ついに堪えきれなくなったライラは声を上げて笑い始めた。


「あ、笑ったな! せっかく一生懸命考えたのに!」

「わかった、ふふふ、多分もうあなたに名付けは頼まないほうがいいわね」


 笑い転げるライラにジェイドは顔を真っ赤にした。


「……なんだい、馬鹿にしやがって」

「それより父さんが探していたわよ。犬は私が預かるからさっさと行きなさい」


 ライラは子犬を抱き上げて屋敷の中へ連れて行った。笑われた恥ずかしさと姉の笑顔が見れた照れくささで赤くなったジェイドは屋敷に併設されている修練場へ行ったが、誰もいなかった。


「どこだろう、闘技場かな?」


 ジェイドは修練場にあった模擬刀を持つと、春先の暖かな風が吹く屋敷の外へ駆けだしていった。


***


 エディア国。商船をたくさん保有していた商家が大きな港を開いて当時のクライオ国から独立した経緯を持つ小国だった。国土はそれほど大きくないが、港の交易の他に造船事業や最近では鉄道事業に力を入れ、周辺他国へ存在感を誇示していた。


 エディアは現在マラキア・エディア・モレル女王の下統治され、首都は港を見下ろす小高い丘に設置されていた。王宮からは首都の街並みと港がよく見下ろせた。港は少し離れた島を中心に作られていて、本島と呼ばれているエディアの首都から伸びる2つの大きな橋で行き来できるようになっていた。港には他国からの様々な船が並び、船乗りや商人向けの街が出来ていた。同じ街ではあるが港と本島で変わる街並みが珍しいのか、最近では観光客も多く訪れるようになっていた。


 更にエディア国は建国時から積み荷の護衛のために優秀な剣士を募集しており、そのため剣技が非常に盛んであった。エディア国で剣技を修めることは剣士にとっての憧れで、代々エディア王家に仕える騎士一家として続いてきたカラン家が所有する闘技場で月に一度開催される公開稽古には国内外から多くの剣士が訪れ、現在は剣聖と名高いデイノ・カランとその2人の息子によって主催されていた。


 デイノ・カランの息子であり親衛隊長であるセイリオ・カランとエディア王女であったアリア・エディア・カランの子供は2人いた。絶世の美女と評判の母によく似ていると評判の娘の名前はライラ・カラン・エディア。そして次期カラン家当主として大事に育てられていたのが、模擬刀を片手に父を探しているこのジェイド・カラン・エディアであった。

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