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噂の男

リンク:休暇編第3話「十人抜き」

 クライオ側で反リィア組織のセイフと合流し、ティロはライラとの関係について尋ねられていた。


「あいつね……今頃ビスキで呑気に海水浴でもしているはずだ。その後こっちに来るって言ってたな」


 とりあえず確実に答えられる質問にティロは答えた。


「何でこんな大事な時にそんなことになってるんだ? 大体一斉蜂起まであと二ヶ月を切っているんだぞ。そもそも貴様は彼女の紹介のはずだ。俺なんか迎えに寄越さないでも彼女が連れてくるのが筋だろう?」


 セイフに正論をまくし立てられて、ティロはどんどん弱気になった。正直なところ、ティロも一斉蜂起について詳しいことはよく知らなかった。セイフから見れば「一斉蜂起に加わりたい」からわざわざ亡命してきたということになっているはずなので、やはり不自然なことに変わりはなかった。


「そ、その辺は……明確に答えるのは難しいな……」


 何をどう話せばいいのか考えているうちに、セイフは更に怪しんでいるようだった。

 

「やっぱり怪しい。そもそも彼女とどういう関係なんだ?」

「そう言われると何なんだろうな……恋人、という感じでもないし友人? いやそれよりも深い気もするし……」


(なんで俺はこいつにあいつとの関係を考えてもらわなきゃならないんだ!)


「つまり、ライラについても明確に答えられないのか」

「で、でも彼女から信頼は受けてるはず、だ……多分」


 先ほどまで溢れていた達成感がみるみる萎むようだった。急に自分がただの義のない犯罪者であることを突きつけられたようだった。


「初対面で言うことでもないんだが……貴様、相当怪しい奴だな」


 セイフに図星を突かれ、ティロは開き直るほかなかった。


「あ、怪しかったら亡命しちゃいけないってことないだろ!」


 あまりにも幼稚な切り返しに、セイフの目が警戒から呆れた表情になった。


「怪しい奴を受け入れる地下組織がどこにいる? リィアの特務という可能性もある以上、案内も難しくなるぞ」


(安心しろ、特務だったらこんなアホらしい奴は送り込んでこないよ……)


「困ったな。ライラの奴、どう説明してたんだよ」


 ティロはとりあえず怪しまれている責任をこの場にいないライラに押しつけることにした。こう弁明することで、少しでもティロは自分の立場を守りたかった。


「少なくとも俺は『訳ありの凄腕剣士』とだけは聞いてるんだが、貴様は訳ありというよりただの不審者だな」

「悪かったな不審者で……」


(待てよ、どんなに怪しくても実力でねじ伏せれば信用してもらえるんじゃないか?)


「でも『凄腕剣士』ってのは信用していいぜ。リィアで俺に適う奴はほとんどいないはずだ」

「ほとんど?」

「少なくとも上級騎士なら俺が一番だ。それ以外の奴は知らないが、大体には勝つ自信がある」


 剣技の話になり、セイフがまた表情を変えた。ティロはこのままの勢いでセイフの問答を押し通すことにした。


「随分な自信だな……ますます、何故そんな奴が亡命を企てる?」


 ますますセイフの視線が突き刺さった。


「いろいろあるんだよ、いろいろ。とりあえず、俺はリィアを裏切るったら裏切る! 国内の反リィア勢力に入るより完全に国外に出た方が出国時以外リスクは低い! ついでにクライオの剣技も経験したい! 以上だ!」


(俺は一体何を言っているんだ……? でも、もうなり振り構ってる場合でもないし、誰が俺のことどう思おうが知ったことか)


「まずそんな成りで本当に剣なんか持てるのか?」

「見た目と剣は関係ないだろ!」


 暗に背が低いと馬鹿にされた気がして、ティロはむっとした。


(でも、今にわかる。少なくとも、俺に敵う奴なんてそうそういるはずがない。もしいるなら、是非手合わせ願いたいね)


 それからしばらく歩いて行くと、広い農場にたどり着いた。セイフは農場を横切る道を真っ直ぐ進み、農作業用の小屋の前で足を止めた。


「さて着いた。少しでも怪しい真似をしてみろ、すぐに追い出すからな」


(追い出す? たたき殺すの間違いじゃないか?)


「全く信用がないな……ま、仕方ないか」

「ここで待ってろ」


 そう言い残して、セイフは小屋の中に入っていった。おそらく中に例の素行の悪い首領がいるのだとティロは踏んだ。


(さて、どうするか……もし喧嘩を売れるようならさっさと売っておきたい。最悪、金で何とかするしかない)


 セイフに散々怪しまれていたが、ティロは楽観していた。ライラさえ戻ってくれば身元を保証してくれるのは明らかだったし、いざとなれば薬にして持ってきた資金を渡すということも考えた。


 しばらく待つと、セイフが小屋の中から何人かの男を伴って戻ってきた。


(帯刀している奴が三人と、していない奴が一人……か。怪しい動きをしたらやっぱり即斬るってことだな)


 帯刀していない男が一人、ティロの前に進み出た。背が高く、典型的なオルド族に見えた。


(反リィア組織の代表って言うからもっと年上かと思ったけど、年齢だけならあんまり俺と変わらない感じだ。さっきここの組織の連中は大抵若いって言ってたけど、本当にそうなんだな)


「お前がライラの言っていたリィアの上級騎士か?」

「そうだ」


 内心で探りを入れているティロは手短に返事をした。


(なんだあのおっさん、酷い奴って言ってたけど見た目は結構普通だな。いかにもなオルドのお坊ちゃんじゃないか。でも人は見かけによらないって言うし、中身は案外酷い奴なのかもな)


 代表と思われる男がそっけなく手を差し出したので、ティロはその手を握った。


(……何だよ、自己紹介しろよ。そうしたら俺も名乗ってやるから、先に名前を言え)


 出来れば名乗りたくないティロは、先に相手が名乗るのを待った。しかし、先方も固まったようにただティロを見つめるだけで挨拶を先にする見込みが全くなかった。


(何だよ! 俺が先に言えってか!? 俺に野郎の手を握る趣味はないぞ!?)


 十数秒であったが、結局痺れを切らしたティロは先に名乗ることにした。


「ティロ・キアンだ。あまり名前で呼ばれるのは好きじゃない」

「……シェール・オルド・アルフェッカだ」


 ティロのやぶれかぶれの自己紹介に続いて反リィア組織代表の男――シェールはようやく口を開いた。


「出会ったばかりで何なのだが、なんだこの荷物は?」


 シェールも早速不審そうに例の箱を眺めていた。


「ああ、これか。無事に着いたし、そろそろ出してやるか」


 既に話が通っていると思っているティロは、箱を蹴倒した。まだ昏睡状態のレリミアが箱から転がり出たところで、その場にいるティロ以外の全員が警戒を露わにした。


「おい、貴様! 一体何の真似だ!?」

「何って、俺は人質を連れて来るって」

「人質? 訳ありの令嬢じゃないのか?」


(何だよ、何が「話はついている」だよふざけんな! 全然話が伝わってないじゃないか!!)


 ライラに無茶な頼みをしたことを棚に上げて、ティロはここからどうすればいいかをその場しのぎで考えることになった。


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