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【絶望ノワール2】救世主症候群・全容編【閲覧注意】  作者: 秋犬
亡命編 第2話 国境越え
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向かう先

リンク:休暇編第2話「国境越え」

 復讐計画を気取られぬよう、ティロは話題を亡命先にすり替えた。すると、何故か案内人は楽しそうに話し始めた。


「今から向かうところには精鋭が数十人ってところか。オルド領内に行けば別の組織の奴らがもっといるけどな」

「しかし、何で領内ではなくクライオに?」


 それはティロが当初から疑問に思ってたことであった。オルド領内や他のリィア国内に潜伏するならまだしも、リィアと関わり合いになりたくないクライオに逃れる理由がわからなかった。


「何でも仕切ってる奴がな、処刑された国王の息子だって話だ」

「王家の直系男子なら全員処刑したはずでは?」

「あぁ、国王陛下のご子息は二名のはずなのだが……どうももう一人いたらしい。戦争当時国外にいて処刑を免れたってんで、何とかクライオまで逃げてきて立て篭もってるそうだ」


 ティロは案内人の言葉が弾む理由がなんとなくわかった。


(つまり、元からとんでもないオルド王家の不祥事が原因ってことか。そりゃ誰も口を開きたがらないわけだ)


 元々エディア王家の関係者であったティロは自身に置き換えてその境遇を想像する。


(エディアは女王様だったから隠し子なんてのは不可能だけど、先代だったらあるかもしれないよな……つまり、俺と同じ爺さんから生まれた子供がどっかで生きているってわけか。エディアの場合、直系は処刑で他系譜の血族は軟禁処分とかだったみたいだからそうそう起こることでもないと思うけど……)


 ティロはふと、自分とアルセイドの間に知らない男児が割り込んできたところを想像した。


(そう言えば予備隊限らず俺の親戚を名乗る奴には散々会ってきたな……やれエディア王家の生き残りですって結構いるんだよな。名乗ってる時点でお前らは違うんだよバーカ)


 本物の王家の生き残りであり、誇り高いカラン家の末裔であったティロは、その「オルド王家の隠し子」という存在も疑わしいと感じた。


「へぇ……随分立派な経歴だな」

「とんでもない、本人についてはどうもいい話を聞いたことがない。王家の隠し子ということでどこかに預けられていたらしいんだが、経歴がさっぱりわからないし、ある日急に出仕し始めて急に外交官に任命されたってことで隠し子というところも随分怪しいんじゃないかっていう噂だ」


(なんだその滅茶苦茶な話は。そんなふわっとした話だと、やっぱりただの噂かデマなんじゃないのか?)


 もしかしたらこれから世話になる人物はただの騙りかもしれないと思うと、一気にティロは不安になってきた。


「そんな奴に旗振らせて大丈夫なのかよ」

「それが、無能でもないらしい。外交官やってたくらいだからな。でも中身は酷い奴って話だ」


(実際組織の首領なんか務めるんだから、ただの馬鹿じゃあないんだろうけどな。でも酷い中身って何だ?)


「どんな風に?」

「聞いたところだと病気の姉を殴り殺したとか、妹に手を出していたとか、とにかく女関連でいい話が一切ない」


 姉を殺した、という話を聞いてティロは噂話でも少し気分が悪くなった。


(いや、王家ってくらいだからろくでもない人間トラブルはあるだろうけどさ。殺すだの手を出すだの、噂にしても全然穏やかじゃねえな。人のこと言えないけど)


「ますます何でそんな奴が仕切れてんだよ」


(そう言えば……ライラはそいつと俺のために打ち合わせしてたってのか? 大丈夫なのか? あいつああ見えて結構強かだから、大丈夫か……)


 急にティロは発起人ライラのことを思い浮かべた。そんな酷い男に乱暴に扱われていないか心配になったが、もし彼女に何かあればこのような事態にはなっていないだろうと前向きに思い込むことにした。


「さあな、世の中よくわからないことだらけだからな……もうじき引渡しの場所だ。後は迎えの者に任せてある。俺はここまでだ」


 それから、案内人は人通りのない街道の真ん中で荷馬車を止めた。打ち合わせだと、案内人はこのまま実際に豚を売りに市場に向かい、そこで家を貸してくれた民家の主人に荷馬車を返すことになっていた。


 ティロは御者席から降りると、すぐに荷台に回ってレリミアを詰めた箱を荷馬車から降ろした。案内人が何か言いたげな表情をしているのを見て、ティロは懐に手を突っ込んだ。


「世話になったな。それじゃ、これはここまでの交通費だ」


 ティロは世話になった礼と今の箱について何も尋ねるなという意味を込めて、案内人の手に先ほど渡したのと同じくらいの額のリィア紙幣を握らせた。


「こんなに!? 意外と上級騎士って儲かるんだな」


 先ほどの賄賂と合わせて、案内人はティロから飛び出した金の多さに驚いていた。


「まあな。俺くらいになれば……金の方から寄ってくるんだ」


 案内人はティロの「これ以上関わるな」という意図を受け取り、黙って金を受け取った。それから回れ右をして、荷馬車はクライオの市場へと向かっていった。ティロは周囲に人影がないのを確認して、そっと箱を開けてレリミアの安否を確認した。薬が効いているのか、レリミアが目を覚ます気配は全くなかった。


「呑気に寝てやがる……よし、ここまでは順調だ」


 ティロは箱の蓋を閉めた。日が高く昇ってきて、初夏の陽気が暖かく降り注いでいた。ティロは箱に腰掛けて、首に下げた指輪を取り出した。


「姉さん……僕、クライオに来たよ。自分で考えて決めたことだけどさ、これからどうなるんだろうね。ちょっと不安だけどさ、何だかわくわくしているかも」


 今まで自分を縛り上げてきた価値観を全て脱ぎ捨てた気がしていた。リィアへの仮初めの忠誠、名を名乗ってはいけない重圧、孤児として軽んじられることへの諦め。全てを脱ぎ去った気分は、とても晴れやかであった。


「あとはあいつらをぶっ殺すだけだから。待っててね、姉さん」


 もう少しで姉に会える気がする。その気持ちも含めて、ますますティロの気持ちは軽くなっていった。

これで無事に(?)亡命できました。よかったですね。

次話、オルド勢に合流です。ようやく本格的に全容編で彼が登場します。ここまでの話の通り、彼も相当の訳ありなので「訳ありVS訳あり」を楽しんでいただけると嬉しいです。

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