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計画変更

リンク:積怨編第6話「作戦その2」

 その日の夜、河原でティロは例の計画についてライラに打ち明けることにした。


「ビスキへの通行許可証がもらえないって?」

「そうなんだよ……何だよこんな時まで予備隊予備隊ってさあ。偽造も考えたんだけど、ビスキ領とはいえ、結局リィア国内じゃないか。バレたときのことがでかすぎる。これじゃのんびり観光なんて出来ないじゃないか!!」


 思い返せば理不尽な仕打ちであると、今更になってティロは許可証が発行できなかったことについて怒りを露わにした。


「何怒ってるのよ」


 呆れるライラを無視して、ティロは先ほどまで考えていた作戦を披露することにした。


「そこで……作戦その二なんだが、ビスキに行くと見せかけて俺たちはクライオへ向かう」

「はあ!?」


 ライラの悲鳴のような驚きは無視して、ティロは続けた。


「さっきも言ったけど、ビスキ領とはいえリィア国内なんだよ。どこで俺の顔を知ってるリィア兵に会うかわからない。その点、クライオに絶対知り合いはいない。もちろんあのガキのことを知ってる奴だっていやしない。国境の関所さえ超えれば、俺たちは自由だ」


 ティロの出した第二の案は「誰も知らないところへ行く」であった。ビスキへ行こうと思ったのも、最悪自分の正体が露見しても構わないと思える場所へ行きたかったのだと、反省部屋であれこれ考えているうちに思い至った案だった。


「つまり亡命するってこと?」

「まあそうだ。あのガキは海に遊びに行くってワクワクしてるだろう? それを踏みにじってやるだけで結構いいと思うんだけど」


 自分が海に行けないので、レリミアが海に行けるということがティロは面白くなかった。それなら、レリミアも海には行かずに怖い目に合わせてはどうかと思案した結論が「クライオに亡命」であった。


「じゃあビスキの宿はどうするの? もう一人増えるって連絡しちゃったよ」


 ライラの懸念もわからないでもなかった。急激な予定の変更は誰かに怪しまれる恐れがある。宿泊の取りやめも考えたが、せっかく「レリミアはビスキへ旅行へ行った」という完璧な裏取りが出来そうなので何とか旅行の取りやめはしたくなかった。


「そうだな……ビスキの反リィア勢力にそれっぽい奴いないか? 金髪の女の子と適当な男。そいつらにビスキ内で適当に合流して貰って、代わりに楽しんでもらうってのはどうだろう?」


 ティロは、ライラがビスキ領内にも味方がいることを思い出した。そこと旅行を結びつければ、旅行を遂行しながらレリミアを存分に拉致できると考えた。


「もちろん君もそっちに行っていいからさ。そうすれば『トライト家のお嬢様はビスキで楽しんでいた』って証拠にもなるだろう。まさか本人はクライオに拉致されたなんて誰も思うはずがない」


 自分で考えながら、なんて素晴らしい計画なんだろうとティロはこっそり身震いした。強敵と対峙して相手の動きを読み、見事に勝負がついたときのような快感があった。


「そう……結構周到に考えてるのね。じゃあ亡命についても考えてるの?」


 レリミアは何とか騙してクライオへ連れて行くとして、その具体的方法までをティロは何も考えていなかった。


「ない。任せた」


 ここまで頑張ったので、後はライラに考えて貰おうとティロは大きく構えていた。


「任せたって……」

「だって頻繁にクライオに行くだろう? 何かツテがあるんじゃないかと思って」


 そもそも、反リィアを束ねようというライラがリィアの特務から逃げおおせている理由のひとつが、主にクライオ国内に潜伏しているからというものであった。今は反リィアとして活動をしていないため、特務も「発起人ライラ」を関知していたとしても出方を窺っている頃だとティロは考えていた。


「ツテ、ね……」


 ライラの顔がぐっと曇った。


「でもさあ、亡命したら簡単にはリィアに帰って来れないのよ、わかる?」

「実は考えてある。クライオにも君が世話になってる反リィア組織があっただろう? そこに乗っかって、反乱少し前にリィアに戻る。そこでザミテスとレリミアを引き合わせるんだ」


 クライオの組織があるなら、いっそそこに身を寄せてしまえばいいのではないかとティロは気軽に考えていたが、思いのほかライラはこの提案に乗り気ではなかった。


「そんなにうまく行くかしら……」


 何故か急に渋り始めたライラに、ティロは苛立った。


「やってみないことにはわからないだろ!」


(全く、あんなにいろいろ勝手に動いてくれたのに、やる前からあれは嫌これは嫌って……今更何なんだよ)


「でもね、どこの世界に見ず知らずの奴が拉致してきた女を監禁しておいてもいいって言う人がいるの?」

「どこかにいるかもしれないだろ」

「そうだけど……」

「とにかくさ、探す前に無理って言うのは俺はどうかと思うぜ」


 なかなか首を縦に振らないライラに、ティロの苛立ちは更に募った。


「何よ、誰があんたに協力してやってると思ってるのよ」

「大体君から願い出たんだろ、この話の最初はさ!」


 元々、ティロはライラに愚痴をこぼして後は勝手に死ぬ予定であった。それを変更して無駄に生きながらえているのも、全てはライラのせいだとティロは思っていた。


「そ、そうだったけど……」


 ライラの声が小さくなり、やや間があってからやけくそ気味に叫んだ。


「わかった、わかったわよ! 明日クライオに行って探してきてあげる! 亡命のツテと潜伏先! あと反リィア組織の承諾! これでいいんでしょ!」

「へへ、そうこないと。これはクライオの旅費と、後は君にあげるからさ」


 そう言うと、ティロはライラにリィア紙幣の束を手渡した。リニアからむしり取った金額は既にトライト家の財産分では収まらない額になっていた。ティロの自室に隠しておくのも限界があったので、大体は鞄に入れられてライラの部屋に運び込まれていた。それでもここでクライオへの旅費を手渡すのが男のすることだろう、というティロの薄い自負が札束には込められていた。


「さて、クライオに行くとなると換金が必要になるな……大量のリィア紙幣が国外でいっぺんに動いたら厄介なことになる」


 リィア領地内であればリィア紙幣が問題なく使えたが、クライオは別の国家であったため紙幣そのままの使用ができなかった。


「流石にその辺は考えてるんでしょ?」

「もちろん。さて、こっちも明日から忙しいぞ……」


(そうは言っても、あんまり考えてないな……日中に外に出るのは厳しいし、何よりいっぺんに換金作業なんか頼んだら怪しくて仕方がない。こうなりゃ最低限の換金作業を彼女に頼んで、俺はなるべく「現物」で換金することにしよう……)


 やるべきことはたくさんあった。しかし今はあまり出歩くこともできなかったので、ティロは手持ちの現金を全て「現物」に変えるところを目標にすることにした。

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