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一緒に行かないか

リンク:積怨編第5話「旅行の計画」

 少し寒さが緩んできた頃、ザミテスの査察旅行の更に詳しい日程が明らかになった。前回の査察旅行で見直すはずだった全領土の詰所への査察は続行されることになり、ビスキ領やエディア領、オルド領全域へも行くことになったとティロは聞いた。


(大体オルドなんて関所の国なんだから、査察するべき関所だけで十四もあるんだぞ、国境沿いにわざわざ上級騎士筆頭がぐるっと巡るって無駄以外の何でもないだろ……)


 前回の査察旅行でゼノスが実際に全部の関所を巡り、想定よりも過酷であったことから今回の日程は見直しが行われるはずだった。後にゼノスから「正直コール村なんて山登りするだけの物見遊山だと思ってた」と言われたのをティロは思い出していた。


(まあ、そのおかげで俺は今ここでこうしているわけなんだけどな)


 しかし、ティロには査察旅行の日程に解せぬところがあった。


(ゼノス隊長は各地の剣士に会ってそこの剣技を見てみたいと強く思っていたから、最初から面倒くさいことがわかってる日程に敢えて挑戦したと言っていた。その上でも全部を巡る必要は無いって言っていたからな。そこを何故、ザミテスは全日程を同じように行くんだ? オルドの小さい関所だのビスキのヤバいところだの敢えていく必要ないだろうに)


 コール村関所のように規模がとても小さいものや、ビスキの政情が不安定な地域にわざわざリィアの上級騎士筆頭が出向く必要があるとティロは思えなかった。


(どうせ日程を再編するのが面倒くさくなったんだろうな。どこを見て何を見ないか考えるより、全部の詰所を回った方が楽だと思ったのか……?)


 疑問はつきなかったが、ザミテスの思惑など考えても仕方ないのでティロは自分にできる限りの計画を考えることにした。


***


 詳しい日程が発表された後の次の週末、トライト家でティロは憂鬱な時間を過ごしていた。


(あと少しでこいつは査察旅行に出かける。こいつさえいなくなれば、俺のやりたいことができるはずだ)


 歯を食いしばるような気持ちでノチアの稽古を終え、味のしない昼食を囲んだ後ザミテスがティロに急に切り出した。


「ティロ、今度の査察旅行に一緒に行かないか?」

「は?」


(はぁ!? 何考えてんだこのバカ? 俺のこと査察でこき使うつもりなのか!?)


「すまない、急な話で驚かせたな。実はこの前の全体稽古の件でもお前の評価が分かれていて、今の三等にしておくのはどうかという声が正式に上がっている」

「別に、僕は上級騎士にしてもらえただけで今の三等でも十分満足ですよ」


 ティロの脳裏に査察で訪れた詰所の兵士の前で偉そうにしているザミテスと、兵士の訓練に加えて宿や交通手段の確保など雑用に追われる自分が想像できた。それに長期移動でずっと馬車に乗ることを考えると、それだけで倒れそうだった。


「そうもいかないだろう。無効試合になったとはいえ、ラディオを破ったんだ。今の上級騎士隊は君で持っているようなものだ」

「そんな、僕みたいなものが背負っていけるものじゃないですよ」


(嫌だ嫌だ、絶対嫌だぞ!)


「そこで、査察旅行だ。一緒にリィア国内の様々な剣技を学んで、それを上級騎士隊でも生かしてもらいたい。帰ってきたら二等への昇進も約束する。どうだ、悪い話でもないだろう?」


(お前と数ヶ月一緒にいてひたすら雑用でこき使われて、それで二等に昇進だって!? 冗談じゃない、誰がそんな話に引っかかるか!)


「ええと……そうですね……でも、その間ノチア様の稽古が……」

「ノチアのことなら心配いらない。それよりも自分のことを考えた方がいい」


 冷や汗が一気に吹き出るのを感じながら、ティロは何とかこの場を切り抜けられないか懸命に考えた。


「え、ティロも一緒に査察旅行に行っちゃうの?」


 そこで声をあげたのは固まっているティロではなく、レリミアだった。


「ああ、いい勉強になるから是非にと思って」

「でも、父様もいなくてティロもいなくなったら寂しいよ!」


(俺だって別にお前と遊びたくなんかないぞ! でもいいぞ、もっと言え!)


「ノチアがいるじゃないか」

「だって兄様、最近お仕事忙しいし、あまり遊んでくれないし……それに、この前の査察旅行だって父様がいなくてすごく寂しかったんだよ! ティロまでいなくなったら、寂しいよ!」


 レリミアの剣幕に押されて、ザミテスは少々困っているようだった。


(よし、行け! 可愛い娘の頼みなら聞くだろう!? 聞け! 行け!)


「……わかった。査察旅行は別の者を連れていく。ティロ、引き続きノチアの稽古に付き合ってくれ」


(よっしゃ! 使えねえガキだと思ったらいいこと言うじゃねえか! 流石ド天然のあほガキだな!) 


「はい、お任せください」


 内心の葛藤や悪態を全て覆い隠すような笑顔を向けて、ティロは穏やかに答えた。


***


 その日、安堵と疲れで気の抜けたティロは河原で転がりながら、あることに気がついていた。


(……待てよ。前回のゼノス隊長の査察旅行に着いていったのって、確かアイツだよな。つまり、アイツも査察旅行の全日程がヤバいことはわかってるはずだ。それなのに、どうしてわざわざ疲れる真似をするんだ? それに何故、俺を誘った? せめて次期筆頭補佐候補の一等を連れていくっていうのが普通だろう? 俺に経験を積ませるため? まさか。予備隊出身の俺に何の経験を積ませるつもりだ? 有り得ない、一体何を考えているんだ?)


 ティロがもやもやと考えていると、トライト家での仕事を終えたライラがやってきた。


「ヒヤヒヤしちゃったね」

「まあな。お嬢様の援護がなかったら危ないところだった」

「ふふふ、日頃私が入れ知恵しているおかげね」

「入れ知恵?」

「そう、気になる男性のハートを掴む方法。親がいない今ならチャンス、ってね」


 レリミアの露骨な引き留めの理由がわかって、ティロは改めてライラを見る。ザミテスの言動もよくわからなかったが、ライラが何故自分にここまで入れ込んでくれるのかもよくわからなかった。


「それは助かったよ、また君に助けられるとはね」

「もっと頼っていいのよ。それより、旅行の候補地なんだけどこことかいいんじゃない?」


 ライラが手渡した広告には「フォーチュン海岸」の案内があった。ビスキ領になってから新たに整備された観光地で、砂浜のあるきれいな海岸に魅力的な宿で休暇を過ごそうという素敵な売り文句が広告には記載されていた。


「いいんじゃないかな。遊びに行って帰ってきたら待っているのは絶望、っていうところか」


 明るい日差しの浜辺で無邪気に遊ぶレリミアがティロの頭の中をよぎり、それはすぐに姉の姿に変わった。


(いいなあ、俺も姉さんとこういうところに行ってみたかったな)


「金の心配ならしなくていいから、どんどん豪勢な旅行の計画を考えておいてくれ。俺も頑張ってがんがん搾り取るから」

「じゃあとびっきりの旅行にしちゃおうかしらね」


 いつも世話になっているライラにも旅行をさせられることで、ティロは少し甲斐性が上がった気がしていた。


ようやく復讐計画が動き始めました。「休暇編」のところまであと少しですね。

次話、いよいよリニアの恐喝やリストロの追求が激しくなる一方で「謹慎」の話が出てきます。

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