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立案

リンク:積怨編第5話「旅行の計画」

 御前試合が終わって、ティロの職務に対する意識はすっかり下がってしまった。以前は剣さえあれば何でもしようと思っていたが、剣技以外の面においてやる気が一切なくなってしまった。


 リードの試合に触発されて鍛錬だけはひとり厳しく行うこともあったが、それ以外は全てが上の空で他の隊員たちの間からも心配の声が聞こえてきた。


(まあ、俺ももうすぐ死ぬから何をされても関係ないし)


 鍛錬の他は適当に職務をこなし、極力他人の言葉には耳を貸さずにいた。そして後は河原で煙草を吸いながら、ザミテスに対する具体的な報復方法を考えていた。


(とりあえず苦しんで死んでほしい。俺と同じ目に合わせるのは確定として、その場所をどこにするかと家族をどうやって始末するかだな……)


 計画についてのぼんやりとした構想はあったが、具体的なことはあまり考えていなかった。


「とりあえず、査察旅行であいつがいない間にどうにかするっていうのはあるんだよなー」


(どうにかするっていうのは、リニアとノチアを殺すってこと?)


「もちろん。あの二人は確実にあの世に送る。リニアのほうはどうとでもなるし、ノチアも何とかなるだろう」


(あのガキはどうするんだ?)


「それなんだよなあ……殺すまではしなくてもいいと思うけど、無性に腹が立つからどうにかしたいところではある」


(例えばどうする?)


「ただぶち犯したところで大して面白くもないしな……目の前で家族をぶっ殺す、とかそのくらいか」


(いいんじゃない? でも、あの母親と兄貴を殺したところでだから何なんだ?)


「そうだなあ、俺だけ恨まれて終わり、っていうのも面白くないな……」


(やっぱり、どうしてこうなったのかは知ってもらいたい)


「そうそう。自分の父親が何をしたのか、というのは知っておくべきだな」


 ティロは計画の方針を「ザミテスを埋める」「リニアとノチアを殺す」「レリミアに何があったのかを知ってもらう」の三つに定めた。この中で一番困難なのがレリミアに例の件について知ってもらうことであった。


(でも、いきなりあんな話をされても普通は信じないと思うよ)


「そうだよな……当事者の俺が話したとして、すぐに証拠は出せない。そうすると、どうやって語ればいいんだ?」


 ティロはしばらく考えた。例の廃屋へ行って姉の骨を掘り起こすなどを考えたが、現実的ではなかった。


「……いるじゃないか、俺よりもあのときのことを詳細に知ってる奴が」


 その考えに至ったとき、思わず笑みがこぼれた。


「いるじゃないか、俺よりも詳しく語れる奴が!」


 様々な事象が結びついて、ひとつの絵が完成したような気がした。ザミテスに直接例の件についてレリミアの前で白状させれば、レリミアは信じるしかないとティロは考えた。


「それでいいや、もう寝よう」


 ある程度方針が固まったことで安堵したティロは睡眠薬を取り出した。煙草の効果が残ったまま飲む睡眠薬は格別の効き目であった。


***


 次にライラと河原で会ったとき、ティロは復讐計画の具体的な話をすることにした。


「なあ、旅行に行って来てくれないか?」

「旅行?」


 夜の河原でライラは素っ頓狂な声をあげた。


「そう、旅行だ。物理的にトライト家を分断する機会を強制的に作り上げる」


 ティロはその辺からかき集めてきた新聞や雑誌をライラに渡した。以前より、リィア国内では他の領地へ赴くことが流行していた。特に復興したエディアの街並みを見に行こうなどという広告があちこち目について、少々嫌な気分になっていた。


「ザミテスはもうじき査察旅行で何ヶ月も家を空ける。夫人は基本的に婦人会の会合とやらで家に帰ってこない。ノチアは大人の男だから何とかすれば何とかなるとして、問題はあのガキだ」

「確かに、何かあった場合に一番何もなさそうなレリミアがどうにかしにくいわね……」


 トライト家への復讐の中で、一番の問題が「レリミアをどうするか」であった。その答えが見つかったことで、ティロは今回の計画を立案することができた。


「それで、だ。あいつを物理的にトライト家から引き剥がす。来年は成人だから思い切り遊びましょう、とか何とか言って査察旅行中に遠くに連れ出す。あいつが帰ってきたところでレリミアを捕まえてきてあいつがやったことを娘に白状させる。これが大体の筋書きだ」


 これはレリミアに対する復讐というより、娘に罪を告白するというザミテスに対する復讐の意味合いが強かった。


「それは……レリミアに君の話を聞かせるってこと?」

「それが一番あいつらにはいい。娘を人質にとれば、さすがにあのクズでも何でも喋るんじゃないか?」


 ティロは過去の凶行についてレリミアが知ったらどんな気分なのかについて思い浮かべ、それだけで胸がすく思いであった。


「それで、旅行なの?」

「そうだ。どこか観光地へあのガキを飛ばす。楽しい旅行から帰ってきたら待っているのは親父の人殺しの話だからな。ついでに君も監視役として行ってくるといいよ」


 ついでにレリミアが旅行へ出かけている間に、リニアとノチアを始末するという算段がティロの中にあった。


「それはいいんだけど……旅費はどこから出るの?」

「その心配はない。副業の成果が出てきたよ」


 そう言ってティロはライラの手にリィア紙幣を握らせた。今は興奮剤を買う資金に困ることはなくなり、上級騎士の宿舎のベッドの下に隠した資金の置き場に少々困っているところだった。


「とりあえずこれは君への返済分。あとは……そのうち」

「すごい……本当に家一軒買える金額を稼ぐつもり?」


 雑に手渡された紙幣に驚くライラの顔を見て、ティロはこの上なく気分がよくなった。


「俺が本気を出せばまだまだこんなもんじゃない。馬に馬車に、服や宝石だって買ってやるよ。旅行もね、なるべくいいところがいい。出来れば遠く、一流観光地を選んでくれ」


 ティロの計画の大体の筋書きはできたようだった。ザミテスの査察旅行中にまずレリミアを旅行に行かせ、その間にリニアとノチアを何らかの方法で殺してトライト家の屋敷に隠しておく。そしてレリミアの旅行をザミテスの帰還日に設定して、レリミアとザミテスを拘束して過去の話を聞かせる。そしてレリミアを放り出してザミテスを埋めるというものであった。


 ザミテスを埋める穴をどこにどうやって掘るかなどについてはまだ検討の余地があったが、ティロの復讐計画は一歩ずつ前に進んでいた。

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