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実は面倒くさい奴

リンク:積怨編第4話「実はすごい奴」

 河原でライラに身の上を探られるような話を持ちかけられ、ティロは冷や汗をかきながら言い訳を考えていた。


「君は覚えているかどうかわからないけど、エディアって結構軍隊が強くて剣技が盛んで、男なら剣持ってるのが当たり前みたいなところがあったからな。何となく剣の扱いくらいは知ってたんだ。その後予備隊に入れられて、本格的に剣技習って、俺才能あるんじゃない? って感じか」


(よし、これでいいだろう。これで俺もその辺で走り回っていた野郎、ということで済むな)


「へぇ……何だか意外」


(意外だって? エディア男児ならこれ以上もなく平凡な話だろ!?)


「何が?」

「君、意外と喋るの上手なんじゃない」


(ん? それはバカにしてんのか?)


「それってどういう意味だよ」

「兵隊ってもっとバカなんだと思ってた」


(何だその偏見は!? 確かにその辺にいるひと山いくらみたいな奴らは剣技なんてただ剣持ってりゃいいんだろくらい舐めてるアホどもがたくさんいるけどな!! そんなことないんだぞ、大抵の一般兵は真面目に……やってた、かなあ……俺もそのうちのひとりだったんだよな……俺もひと山いくらだったんだな、そうだった……)


 偏見ではあったがある意味的確なライラの指摘に、ティロは自信がなくなっていった。


「んー……剣技ってさ、確かにある程度までは身体の動かし方とか技術とかそういうのが大事なんだけど、そこから上に行くにはめちゃくちゃ頭を使うようになるんだよ」

「どういうこと?」


 少しでも「本当は自分はすごい奴なんだ」と思われたいティロは、更に剣技の話を続けた。


「盤上で勝敗を決めるゲームなんかあるだろ、どのコマを動かせば相手を負かすことができるか考えるやつ。剣技も一緒でさ、どこに相手の身体と剣があって、どう自分の身体と剣を動かすかを瞬時に判断しなくちゃいけない。やたらに振り回せばいいってものでもない。ついでにどこに当てたら危険だとか自分もここは撃たれても大丈夫とか、こう攻めてきたらこう返すとか、剣を持てば考えることは無限にある」

「思ったより忙しいのね」


(忙しい? うーん、頭もかなり使うってことがわかってもらえればいいか……)


「ついでに、剣技や体術ってのは戦争の最小単位だ。相手をどう攻めればいいか、どう守ればいいか。その基本が出来ないと国同士の喧嘩なんかできるわけがない。だからいい剣士が多い国はそれだけ強いってことになる……だから剣技ってのはひたすら頭使うんだよ。真剣に試合すると身体より先に頭が痺れてくるときもある。だから剣技が上手な奴は大体頭がいい、つまり俺も出来は悪くないはずなんだ、多分」


 少々ムッとしたところから始まった大演説だったが、ライラにはティロの伝えたいことが伝わったようだった。


「……ごめん、君のこと見直したよ」


(当たり前だ、俺のこと一体何だと思ってたんだコイツは……いや、そう思われても仕方ないか。俺のこときっとゴミみたいな奴だって思ってたんだもんな、きっと)


「そう、実は俺すごい奴なんだよ、多分。生まれてくるところ間違えたんだろうな。こんなゴミに生まれてなきゃ、今頃何やってるんだか……」

「何でそう卑屈になるよの、せっかく褒めたのに」


(褒めた? 俺のこと褒めたって?)


 貶されるのも癪に障ったが、素直に褒められるのも同様に嫌だった。


「ごめん、気を悪くさせちゃったね、やっぱり大した奴じゃないな」


 慌てて言い繕うと、ライラは呆れたような顔をした。


(またやっちゃったかな……何だろう、どうして俺はいつも素直に話をすると呆れられるんだろう……そういうところ、って奴なのかな……)


「もう……とにかく、今日はちょっと提案をしようと思って」

「何を?」


 少ししょげていると、ライラは話題を変えてきた。


「お嬢様のことよ」


 レリミアの話題を持ち出され、ティロは露骨に嫌な顔をした。


「あの子箱入り娘というか、世間知らずにも程があるっていうか。家庭環境が良くないのね、基本冷え切った両親に鬱屈している兄貴。彼女はなんていうか……無邪気ね」

「ああ……なんだろうな、アレは」


 日頃レリミアに懐かれているティロはライラの言いたいことがよくわかった。


「年頃なのに本人から浮いた話のひとつも出てこないし、友達も少なそうね。おしゃれの話や恋愛小説の話なんかはするんだけど……とにかく生きてる人間の話はゼロ。張りぼての家庭の上澄みだけ啜って生きてきた感じがすごいわ」


 ライラのレリミア評はかなり辛辣だった。


「だから、何なんだよ?」

「そこに毎週通ってくる若い男がいるのよ、しかもすごく剣が強くて微妙にかっこいいときている」


 ティロは、今度こそライラが何か冗談を言っているのだと思った。


「俺? そんなにかっこいいか?」

「何言ってんの、自分の顔ちゃんと見たことある?」


 思いの外ライラの返答は真面目だったので、ティロは心臓が飛び出そうなほどぎくりと動いた。


「そんなにまじまじ自分の顔なんか見てられるかよ、女じゃあるまいし」


 なるべく動揺を声に出さないようにしたが、急にこの世界全部が終わればいいのにと思うような自己嫌悪が襲ってきた。


「そうかなあ……それより彼女よ。君に興味津々よ」

「はあ? 何で?」


(そんなのはわかってるよ! どうせ俺のこと犬とか猫くらいに思ってるってこともな!!)


 ティロは行き場のない自己嫌悪の矛先をレリミアに向けることにした。


「わかんない? 全く……はっきり言おうか?」


 ニヤニヤとライラが詰め寄ってきたことで、彼女が言おうとしていることも何となくわかった。


「いや流石に言いたいことはわかるんだが……」


(アレが俺に気があるって言いたいんだろう? でもアレは恋とかそういうのじゃなくて、もっと原始的な感情だぞきっと)


「仮に彼女が俺のこと気にしているとして、それに応じる必要ってあるのか? 俺はガキなんか興味ないぞ」


 ティロはうっすらとレリミアのことを考える。そして異性としてレリミアが迫ってくるところを想像して、吐き気のようなものを感じた。


「少なくとも、家族の中に協力者を作れるのは大きな利点よ。彼女の気持ちを利用して、いざというとき都合よく動いてもらうの。うまくいけば、彼女に家族を殺させることもできるわよ」


 レリミアをうまく復讐に利用できないかというライラの提案には、流石にティロもやりすぎではないかと不安になった。


(人のことを言えた義理じゃないけど、こいつも一体どういう修羅場潜ってくればそういう発想になるんだろうな……)


「まあ、そうなんだけど……俺からカマかけたりしないからな」

「もちろん、乙女心をどうにかするのは任せて。焚き付けておくだけでも全然違うものよ?」


 ライラの声は限りなく明るかった。


「あのさあ、ちょっと面白がってない?」

「面白いに決まってるじゃない。彼女を焦らすのか落とすのかは君に任せるけど、いざというときにいつでも行けるようにはしておいてあげる。まあ任せなさい」


(……まあいいか、今のところ支障は特になさそうだし)


「ああ、そこは任せたよ」


 ティロは投げやりに答えた。レリミアとどうにかしなければならない時のことは、その時一生懸命考えることにした。


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