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安否確認

 港から生還したアルセイドとジェイドは燃えあげる街の中を駆け抜け、城にたどり着く頃には辺りは真っ暗になっていた。消しきれない炎が暗い街を照らし、逃げ惑う人と救助に当たる兵士で市街は混迷を極めていた。たくさんの人が行き来する城門の前では、女中筆頭のステラが呆然と立ち尽くしてた。


「アルセイド様!」


 ステラは2人に気がつくと、すぐに走り寄ってきてアルセイドを抱きしめた。


「ステラ! 僕は無事だ! 他のみんなは!」

「エディア家は全員無事でございます……こんな時に、一体どちらへ!」


 ステラは涙を流しながらアルセイドを叱りつけた。


「ごめんなさい、それより、これはどういうことなんだ?」

「私たちにも何が何だか……港で大きな火事が起こった、としか、まだ……」


 やはり港で何が起こっているのかを城では把握しきれていないようだった。


「ステラさん、僕の家族は……?」


 ジェイドはステラに尋ねた。


「セイリオ様は女王陛下を支えております。ソティス様はおそらく軍本部で指揮をとっておられます。他の方は、まだこちらには見えていません」

「そうですか……」


 ジェイドは城にさえ来れば姉に会えると思っていたが、まだ姉は城へやってきていないようだった。アルセイドを見ると、やっと家に帰って来れたことで放心した顔をしていた。ジェイドはアルセイドを送り届けたことに安心して、姉を探すためにその場を去ろうとした。


「お待ちなさい、今街に戻るのは危険です。あなたもここにいなさい」


 ステラはジェイドを引き留めた。


「でも、姉さんを探さないと。もしかしたらどこかで怪我とかしているかもしれない」

「しかし、あなたまでこれ以上危険に晒すことはできません! ライラも、どこかの避難所にいるはずです」


 ステラの言うことは尤もだとジェイドはわかっていた。それでも一刻も早く姉の顔を見たくて居ても立ってもいられなかった。


「わかってくれよ、それに、僕のことも心配しているはずだ。僕ら街の中を通ってきたんだ、そう簡単に死なないよ!」

「ジェイド、ステラの言うとおりだ。街に戻るのは危険だ、ここにいてよ」


 アルセイドもジェイドを引き留めた。


(姉さんを守れ、って父さんが言ってたんだ)


「でも、やっぱり姉さんが心配だ! ここで姉さんにだけもしものことがあったら、僕は一生後悔する! アル、ごめん!」


 ジェイドは二人の制止を振り切り、城門を後にした。


(まずは家の様子を見に行こう、姉さんは家で僕を待っているかも知れない。父さんは女王陛下のそばにいるから大丈夫。とにかく姉さんだ)


「姉さん! ライラ姉さん!」


 ジェイドは人で溢れかえる道を再び走り始めた。


***


 屋敷の周辺は避難者で溢れていた。闘技場へ逃げ込む人々を上級騎士やエディア兵が賢明に誘導していた。ジェイドは賢明に闘技場内を探し回ったが、姉の姿は見当たらなかった。


「ジェイド! 無事だったか!?」


 屋敷の周辺で合流できたのはミルザムひとりだけだった。屋敷の前で無事を喜び会いたかったが、そんなことをしている暇はなかった。


「ミル兄! 姉さんは!? 姉さんはどこ!?」

「誰もいない……キオンとスキロスもどこかに逃げたみたいなんだ……」


 ミルザムも母と妹を探しているようだった。


「どうしよう……姉さんは城にいなかった……」

「ライラさんもいなかったのか……」


 2人は顔を見合わせて絶望的なため息をついた。先に顔を上げたのはミルザムだった。


「ジェイド、城に向かうぞ」

「でも、姉さんも叔母さんもフィオ姉も城にいなかったんだよ!?」


 ミルザムはジェイドの腕を掴んだが、ジェイドはまだ城へ戻る気はなかった。


「だから向かうんだ。父さんたちは間違いなく城にいるだろう!? そこで合流すればいい!!」

「でも、城に戻ってこなかったら!?」

「そんなことを考えてる場合じゃない、俺たちだって危ないんだ!」


 ミルザムは母と妹を信じ、先に父の元へ向かうことを決めたようだった。


「……わかった、僕はもう少し姉さんを探す。そしたら諦めて城に行くよ」


 港から帰ってきて既に身体はふらふらだったが、ジェイドは姉の顔を見るまで先に逃げ出す気は全くなかった。


「お前は言い出したら聞かないからな、気をつけるんだぞ」


 ミルザムとジェイドは城に避難した旨を記した書き置きを屋敷に残し、それぞれ屋敷を後にした。


「いいかジェイド、死ぬんじゃないぞ。死んだらただじゃおかないからな!」


 ミルザムの声を背中で受けて、ジェイドは再度走り始めた。 


***


「姉さん! 姉さん! ライラ姉さん!」


(どうしよう、姉さんがいなくなったらどうしよう)


 港から逃げてくる途中でたくさんの人が火に包まれたり、人としての形を保っていなかったのを見てきた。その中に姉がいるのではないかと思うとそれだけで泣きたくなった。


(誰でもいいです、お願いです、姉さんを助けてください。姉さんがいないと、僕は、僕は……)


 心の中で祈りながら、火の海になっている街をあちこち走り回った。避難所にいるかと思い、人が集まっている場所を数カ所訪れたが姉の姿はどこにもなかった。


(きっと姉さんも僕を探しているんだ、闇雲になっても仕方ない。一度父さんのところへ戻ろう)


 城を出てから2時間ほどが経過していた。折れそうになる心を何とか保って、ジェイドは再度城へ向かうことにした。



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