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【絶望ノワール2】救世主症候群・全容編【閲覧注意】  作者: 秋犬
死神編 第9話 いるべきでない場所
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エディアの型

リンク:懐旧編第5話「絶賛」

 上級騎士と本気の試合をして負けたティロが気がつくと、修練場から詰所に移動させられていた。気絶特訓や屋外での睡眠薬で眠り込んだティロを、アース隊長はよくベッドまで運んでいた。しかし何度も同じことを繰り返すばかりか冬場以外は頑なにベッドで入眠しようとしないティロにアース隊長も呆れ、ついには詰所の床に転がすだけになっていた。


 上級騎士との死闘の後も、ティロはいつものように雑に床に転がされていたので一瞬何があったのか思い出せなかった。


(あれ……俺、何してたんだっけ?)


 あまり睡眠が取れずまだはっきりしない頭を動かすと、右肩がじんじんと痛んだ。そして詰所内によく知らない人がいるとわかったところで、ティロは気絶する前に何をしていたのか思い出した。


(そうだ! リィアの上級騎士!)


 きょろきょろと辺りを見渡すと、アース隊長と先ほど手合わせをしたリィアの上級騎士が詰所内で話し込んでいた。


(うわ、俺もしかしてとんでもないことをやらかしたんでは……?)


 一度気絶をして少しすっきりした頭で先ほどのことを思い出す。なんとも馬鹿なことをしたとティロは激しく後悔した。


「気がついたのか」


 目を覚ましたことに気がついたのか、上級騎士がティロに歩み寄ってきた。


「あ……あの、先程は、その……」


(どうしようどうしようどうやって謝ればいいんだ俺はコール送りより酷い目にあうのかこれ以上どうなるってんだクビかなそうだクビに違いない懲戒ってやつだああもうダメだもういよいよ死ぬしかないなどうしようどうしようどうしよう)


 上級騎士に見つめられて、ティロの血の気がどんどん引いていった。


「単刀直入に聞く。お前は何者だ?」


(ええ、さっきも聞いてきたじゃん……)


「一般8等、コール村関所警備隊所属です」

「もうそんなことは聞いていない。どこで剣を習った?」

「え!?」


(まさか、エディアのことがバレた??)


 全身の毛が逆立って、心臓が口から飛び出すかと思われた。


(やっぱり右手で持ってたのがダメだったかな本気出し過ぎたかな寝ぼけて知らない間にエディアの型出してたかなバレてたらどうしようデイノ・カランの型なんか知ってる奴どれだけいるんだよって話だよななんでこんなところにいる奴が知ってるかなんて考えたら俺超怪しいじゃないか一体どうなるんだろう即刻斬られるのか首都まで連行されるのかそこからどうしよう、どうしよう、どうしようどうしようどうしようどうしよう)


「お前が寝てる間に隊長から話を聞いてきた。オルド攻略の際に命令違反をしてここに来たらしいな。それと……」


(せっかくここまで来たのにこんなところで寝ぼけて喧嘩売ったのが原因で死ぬなんて嫌だなあでも俺ここまで頑張ってきたんだからもう死んでもいいよね今更俺がいなくなったところで誰も困らないし姉さんに会えるかもしれないしそうだなんて答えればいいんだ何か言わないと怪しいよなえっとえっとえっとえっと)


 上級騎士の言葉はあまり耳に入らなかった。もう死刑が決まったような気分だった。


「予備隊出身なのだろう?」


 それを聞いて、ティロはひとまず安心した。


(あ、予備隊のことか……死ぬかと思った)


 エディアでの身の上がバレたわけでもないことがわかり、ようやくティロは上級騎士の話を聞く気になった。


「予備隊出身で、何故こんなところにいる?」


(また答えにくい質問をしてくるな……)


 自分の身の上をどうわかりやすく話せばいいのか困っていると、上級騎士は更に問い詰める。


「質問に答えろ。何故特務に上がらなかった?」


(あんまり思い出したいことでもないんだよな。普段あんまり考えないようにしているけど、やっぱりあの時のことを思い出すと死にたくなる。一生懸命やったのに、何にも報われないことばっかりで、本当に嫌になる。仕方ないんだ、欠陥品なんだから)


「……病気だからです」


 辿り着いた答えは惨めなものだった。地下には入れず、夜に眠ることもできない上に人と関わることが苦手な欠陥品。それが今の自分だとティロは本気で思っていた。


「それは不眠症のことか?」

「いえ、閉所恐怖症です。剣ばかり上手でも、出来ないことがあれば特務ではやっていけないと判断されました」


 ティロは特務から弾かれた経緯を簡単に説明した。


「それで一般に回されたのか?」

「はい。病気が治れば特務への復帰も考えないこともないと言われていますが……」


 そんな日が来ないのはよくわかっていた。ティロは一刻も早くこの話をおしまいにしたくて、適当なことを言って話を打ち切ろうとした。あれだけ克服しようとした閉所恐怖症は、今では余計酷くなってしまった。幸いコール村では地下に入る機会がほぼなかったのでしばらく閉所恐怖症の発作からは逃れられていたが、地下に入ることを思うだけで寒気がした。


(もういいよ、俺の話はもう終わり。面白くもないしかえって不快になるだけだ。もう一生リィアにもエディアにも帰れないかもしれないな……)


 上級騎士は何かを考えているようだった。こんなにどうしようもない自分に一体どんな処分が下されるのかと、ティロは上級騎士の前で恐々と小さくなっていた。


(ああもうおしまいだ、俺はもうダメなんだ。よくて一生雪かき、悪くて死刑だ)


 怯えているティロの頭上に、上級騎士の力強い声が降ってきた。


「勿体ない、実に勿体ない!」

「へ?」


 ティロは思わず顔を上げる。上級騎士は嬉しそうに語り始めた。


「先程の試合だが、まさか初撃であれ程の鋭さを放たれるとは思っていなくてな、こちらもなかなかびっくりさせてもらった。防ぐのが手一杯でな、つい力で押してしまったところがあった。悪かったな」


(え、俺、褒められてる? え?)


 意外な展開にティロは拍子抜けする。上級騎士は笑顔で試合の講評を述べた。しかし、まだ何か裏があるのではないかとティロは疑ってしまっていた。


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