「シュート練習」16:20
体育館。
1人だけだった。居残り練習。
放ったロングシュートがゴールリングに吸い込まれた。パシュ、という心地よい音。
「ナイッシュ」声をかけられた。
「あ、萬井さん。お疲れ様です」
ユニフォームからジャージに着替えた萬井さんが僕を見ていた。
「もうみんな戻ったぞ。まだやるのか?」
「はい、もうすこしだけ」
「マジメだなぁ。さっきもシュートちゃんと決まってたじゃねえか」
「いえ、さっきの場面も、僕が1発で決めてたら……そう思うと練習しておきたくて」
「そうか? 充分スムーズだったと思うが?」
「いいえ。まだまだです」
僕はシュート練習を続ける。
この合宿、やることは多い。でももうすこしだけ、もうすこしだけ。コツを掴んでおきたい。
「てか鶴木、おまえストイックだよなぁ。――あ、手は止めなくてもいいぞ。雑談だから」
「そうですか?」
ストイック。――よく言われるが、よくわからない。ただできることを積み重ねているだけだ。
シュートを打つ。
「なにか目標でもあるのか?」
シュートが外れた。
「……目標、というか憧れている人がいて」
ちょっと照れるがせっかく聞いてくれたので伝える。
「へーそうなのか」
萬井さんが興味を持ったようだ。
「その人みたいになりたくて、すこしでも近付きたくて頑張ってもがいている感じです」
「そんなにすごいのか、その鶴木が憧れてるヤツ」
「ええ、そうなんです。繊細でいて大胆で――麗らかな動作で――逆に他人を引きたてるのもうまくて――」
僕は萬井さんに『憧れの人』のすごさについて、仔細に詳細に伝える。
「お、おおう」
萬井さんが引いていた。
「あ、すいません」
「まあ鶴木。おまえが今回のエースなんだからな。合宿もまだ1日目、あまり序盤から無理するなよ」
「え、僕がエースなんておこがましいですよ。僕より上手い人がいるじゃないですか」
「いやいや、お前みたいに1人で2人分やってるやつより上手いヤツって……ん?」
明らかじゃないか。
実力差も明白だ。
僕よりも断然、上手である。
「いったい誰だよ?」
萬井さんが聞いてくる。
「え、それは――」