「推理展開」10:00
僕らは『2-3』教室にて休憩していた。一時待機である。
僕は本を読む。
館山さんは学習机付属の椅子に腰掛けて、うとうとと舟を漕いでいる。疲れているのだろう。その様子は、かわいい。
他のメンバーは各部屋でそれぞれのことをしている。室内は2人だけである。
部屋に冷房を入れているので彼女は寒いかもしれない。館山さんの座る場所は、ちょうどエアコンの風が当たる位置だ。
僕は毛布を持って、彼女の肩にかけようとする。
近寄ったところ、彼女は眼を覚ました。
「あ、すみません。起こしちゃいましたか?」
「いえ、大丈夫。眠っている場合じゃないし」
「眠れるときは眠った方がいいんじゃないですか? まだ先は長いですし……」
「ダメだよ。メイク崩れちゃうし……」
「……そうですか」
これには僕は何も言えない。
女性は大変そうだ。
「ハプニング続きだね……どうするんだろう。大丈夫なのかな」
館山さんが不安そうに話しかけてきた。
僕は本を読み確認しながら返事した。
「そうですね。更先輩も、大変なことになっちゃいましたから……」
「窓の件からだね。……あのハプニングから歯車が狂いだした……」
「でも、仕方ないですよ。事情が事情ですし……」
「……」
「……」
会話が途切れる。
僕は途中までの本を読み終わり、学習机の上に置いた。
「ねえ」
「なんですか館山さん」
「剣くんにも、まだ犯人はわからないんだよね?」
「え。はい、そうですね。知りません」
「……あのさ、剣くんが犯人ということはないかな?」
「え」
声が出た。
僕は気づく。
その可能性に。
「……どうかな?」
館山さんが、急かすように訊ねる。
「嘘がわかる剣くんが『犯人』を見つけられていないなら、剣くん自身が犯人しかありえないんじゃないかな?」
「…………」
僕は考える。
館山さんがさらに言葉を重ねる。
「自覚のない殺人。――二重人格や夢遊病。記憶が残っていないならば可能性があるんじゃないかな?」
「……ありえないと思います。僕自身は、違うと思います」
僕は考えを述べる。
「現場の『3-3』は密室でした。僕にはそこに侵入・突破・脱出する術がないです」
「そうだよね。密室の謎が解けなければ誰も犯行は不可能だ。犯人よりも、まずは密室の謎を解く方が先か……」
彼女は考え込むように腕組みした。
「じゃあ、逆に、僕も疑われたので、――館山さんが犯人ということはないんですか?」
聞きづらいことを聞いてみた。
可能性はある。僕自身に犯人の可能性があるならば――館山さんが犯人の可能性もある。
「私は犯人じゃないよ」
彼女は即時、否定を返した。
「だって完全なアリバイがあるよ。常に誰かといっしょにいたし、川合さんを殺しに行く時間と手段がないよ」
「まあ、そうですよね……」
館山さんがまた話してくる。
「ちなみに剣くんは、犯人かも、怪しいと思っている人はいるの?」
「……一応、2人ほど」
「結構いるね。ちなみに誰?」
「まず1人目は真弓先輩――矢部さんです」
「それはなんで?」
「矢部さんが、嘘をついていたから、というのが大きな理由ですけど……」
「でも彼女もアリバイがほぼ完璧だよね?」
「はい。常に矢部さんは誰かといっしょにいました。――犯行ができたとしたら、部屋に帰ってきた川合さんをその場で、ということになるんですが……」
「密室の謎が解けない」
「はい。その通りです」
「2人目はだれなの?」
「倉木さんです」
「へー、倉木さん、か。剣くんは『倉木さん』って呼んでるんだね?」
「え、まあ、はい」
たしかに僕自身も、ちょっとおかしい気もする。
「なんで倉木さんなの?」
「え、それは、年上ですし、『さん付け』が適切かと思って」
「そっちじゃない。犯人かもしれないと思った理由」
「あ、そっちですか。――それは、2階の非常ドアの施錠が壊れていた件ですが、あのドアが使用可能ならば、倉木さんは唯一、誰にも気づかれず自由に外へ出入りすることができるからです」
「なるほど」
「外に出られるというアドバンテージがあれば、密室を形成・突破できる手段があるかもしれない、と思いまして」
「でも、あの非常ドアは――」
「はい。非常ドアは突発的に使えるようになったもの。僕は確かに『2-3』に移動しましたが、それはアクシデントによるもの。計画されたものではない」
「でも、たしかに、外に出られるというアドバンテージは大きいかもね……。台風・土砂崩れで身動きが取れない『クローズドサークル』だけど、けれど『土砂崩れの前』に何かしていた、という可能性もあるよね」
「ええ。土砂崩れがいつ発生して『完全なクローズドサークル』になったのは『いつ』なのか、ポイントになるかもしれません。それ以前に、車でなにか細工をしに行ったとも考えられますし……それがなにか、というのは思いつきませんけど」
「でも、剣くん。倉木さんは――」
そこで、
ピピロロリリンン。
重なった音が響いた。
「あ、スマホだね」
館山さんは端末を確認した。
「萬井代表から。食堂に集合だって」




