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『学校宿の殺人』+α  作者: 稲多夕方
1日目
23/51

『窓割りの真相』21:13

「あ、でも、とぼけられたら、知らないと言われたら、どうする? これは嘘がわかる剣くんだからこそ気づけた真相だから……」

「いえ、大丈夫です。能力がなくてもわかりましたから」

「え。そう?」

「それに僕自身、嘘がわかる能力も信用ならないと思っています。感覚の問題だし、本当に嘘をつくのが上手な人なら騙せるかもしれません。過信しちゃだめです」

「そう、かな?」


 鶴木と館山は調理室を後にする。










「え、剣くん?!」


 鶴木が戸をノックした。

「はい。お待ちください」

 返事があった。

 職員室の戸が開く。

 管理人の茂手木が出てくる。

「はい。調理室の使用が終わりましたか?」

「剣くん、なんで職員室に――。いえ、えっと、調理室は、まだ片付けが、お皿洗いが、終わっていなくて」

 館山が緊張感を纏って答える。



「茂手木さん。あなたが、教室1-3の窓ガラスを割った件について、お聞きしたいんですけれど」



 茂手木、そして館山は、驚いた顔をした。

「…………突然ですね。でも、私がガラスを割ったなんて、どういうことでしょうか?」

「えっと、事情が知りたいんです。なぜ割ったのかって」

 おずおずと鶴木が訊ねる。

「いいえ、待ってください。お客さんに申し上げるのは憚られますが、なぜ私が割ったなどとおっしゃるのですか? 自然に風で飛ばされた石で割れたのでは?」

「いいえ、違います。茂手木さんが石を投げて窓ガラスを割ったんです」

「…………困りましたね」

 困惑する様子の茂手木。

「…………」

「…………」


 無言が続く2人の間に立つように、館山が訊ねる。

「あの、茂手木さんは、18時15分から18時45分の間の30分。どこにいらっしゃいましたか?」

「ええ、その時間でしたら、東校舎館で台風対策の仕事をしておりました。戸締りの確認や外にある資材や道具が飛ばないようにロープやヒモで縛り、固定する作業をしていました」

「その、東校舎って、向こうの――」

「はい。増築用の建築資材置き場、その向かいにある校舎です」

「剣くん。2分くらいで行って戻って来られそう。急げば1分くらい。十分に犯行可能だけど……」

「南校舎館に誰も人がいなかった時間に私なら窓を割ることが可能。しかし、アリバイがないというだけで、犯人のように言われても困りますよ」

「茂手木さん」

 鶴木が館山に代わって問う。


「その30分間、南校舎館に人がいなかった、この時間に窓が割られた――それをどうして知っているんですか?」


「あ、そうだね。茂手木さんが東校舎館で作業していたなら、それを知っているはずがない」

「……」言い淀む。だが茂手木は反論があるようだ。「いいえ、そうじゃないです」

「どういうことでしょうか?」

「あまり、お話しすることではないかもしれませんが、こちらに戻ってきてから監視カメラを見直して知っていたんです」

「監視カメラ?」

「コレです」

 茂手木はその場で天井を指差した。

 天井には、半球状の黒い物が付いていた。

「これが全方位の監視カメラなんです。靴箱から職員室周辺を撮影しています。データは職員室内のサーバーから私のスマホに飛ばすことができるので、リアルタイムと録画で様子を知ることができるんです。音は拾いませんが」

「なるほど」

「そうなんですね」

 館山と鶴木がそれぞれ理解する。

「監視カメラは、この靴箱・職員室前の1台しか設置されておりません。ですが、ここを押さえておけば、南校舎館のすべての人の出入りが確認できます」

「このカメラで人のいない時間を把握。そして窓を割ったということですか?」

「いいえ、そうではありません」

 館山の意見を茂手木が否定した。


「先程、この校舎に戻ってきた際に2階の窓が割られていることを知り、もしかしたら不審者の侵入があったのかもしれない、イタズラかもしれない、と考えて監視カメラを確認したのです。人のいない時間が把握できただけで、誰が割ったかなどは分かりませんでしたが」


 鶴木が訊ねる。

「だから茂手木さんは監視カメラによって、南校舎に誰もいなくなる時間帯を知っていたんですね」

「はい。そうです」

 茂手木が肯定した。

 私ではありませんよ、と。


 鶴木はまた茂手木に質問する。

「僕らとココで会話する少し前、東校舎館から戻ってくる際、窓が割れているのを見たんですよね。それで窓が割れていることを知った。――東校舎から戻ってきた茂手木さんが僕らと話したときも、そのように言われていました」

「ええ、そうです。お話ししたとおりです」

「……雨、降ってましたよね」

「ええ。そうですね」

「……傘、使っていましたよね」

「ええ。そうですけど。……――はっ」

「あっ!」

 茂手木と館山が気づいたような声。


「傘を差していたら、校舎2階の様子は見えないのではないでしょうか?」


 鶴木が確信をつく。

「えっと、それは……ふと、空模様が気になりまして、上を、空を見上げたのです。そしたら窓が割れているのが眼に入りまして……」

「部屋は電気が消えて暗くなっています。例え窓が割れていたとしても、見えないと思いますけれど」

「あっ、そうだ。私達は『1-3』を出る前に電気を消していたし、朝星さんと話していて1階に降りるまで時間がかかった。茂手木さんが部屋を見たときには『1-3』は暗かったはず」

「そ、それは……それまで暗い中ロープで固定する作業をしていたので、暗さに眼が慣れていたのでしょう。思えば、我ながら、よく気がついたものだと思います」


 鶴木が詰めるように問う。

「では、割れた窓ガラス以外に、なにか見えた『モノ』があったと思うんですけど」


「え、見えたモノ?」

 動揺する茂手木。

「見えたのなら、なぜ何も言ってくれないんだろうと思っていました。僕が勝手に使ったのに」

「……勝手に?」

 分からない様子だった。

「それを、答えてください」

「えっ、と……それは……」

「答えられないなら茂手木さんは窓を見ていないということです」

「…………」

 無言だった。

「窓を見ていないのに、なぜ窓が割れたことを知っているのか。――それは茂手木さんが窓を割ったから。それしか導き出せないです」


「そっか」

 館山は気がついた。

 一言。伝えた。


「ダンボール」


「はい」鶴木が頷いた。「僕が窓の補修に使ったダンボールが、ガムテープで貼ってあったんです。暗い夜道でも、割れている窓ガラスよりダンボールの方が下から見つけやすいはずです」

「……ああ、そうだったんですね」

 茂手木が納得したように、力なく頷いた。


「雨が入らないように補修作業をしてくださってありがとうございます。申し訳ないです、私が窓ガラスを割ったのに……」

「いいえ。大丈夫です」

 気にしないでください、と鶴木が続けた。


「窓ガラス補修に使ったダンボールとガムテが教室においてあったのも、おそらく前から窓を割る前提で、茂手木さんが準備をしていたのでしょう」

「そうか。剣くんの準備がいいと思っていたけれど、元から準備されていたものだったのか」

 館山が納得した。





「それで、どうして石を投げ入れて窓ガラスを割ったんですか?」

 茂手木は言い淀む。

 そして頭を下げた。

「すみません。それは、安全管理上、申し上げるわけにはいかないんです。……教えられません。お答えできません。申し訳ありません」

「そうですか。じゃあいいです。仕方ないです」

 申し訳なさそうな茂手木だったが、鶴木はあっさり引き下がった。


「え、それでいいの? 剣くん」

「はい。だって安全管理上の理由で教えられないなら、仕方がないですよ。仕事をしている以上、秘密を守る義務があるわけですから……」

 気にならないわけじゃないですけれど、と続ける鶴木。

「でも……」

 納得していない様子の館山。

 館山を見て鶴木が話す。

「それに茂手木さんも、悪意があったわけじゃないと思うんです。窓が割られたのは、誰も校舎内にいない時間だった。ケガ人が出ないように配慮されたんだと思います。わざわざ、東校舎で台風対策の作業をしつつ、ライブ状態の監視カメラで人の出入りを確認して、なかなか大変です」

「……」

「それに、茂手木さんは『1-3』教室を使用してほしくないと、前から伝えていたんです。僕らが気づかなかっただけで」

「……そう? どこで?」

「はい。みんなで集まって体育館で部屋を決めたとき『上階の方が防犯上安全』と前置きされていました。その点を踏まえるならば、上階でない、出口から遠い、という悪い条件の『1-3』は使用しないようになる、そんな手筈だったと思います。茂手木さん、こちらこそ気づくことができなくて、すみません」

「…………ご配慮ありがとうございます」

 茂手木が深く頭を下げた。


 それ剣くんが謝ることじゃなくて部屋を決定した萬井さんが謝ることじゃないの?、と館山が小声で伝えるが、いえ連帯責任でいいんですバスケ部なので、と鶴木はやんわりと返答した。


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