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『学校宿の殺人』+α  作者: 稲多夕方
1日目
20/51

『部屋移動』20:31


 鶴木と館山の2人は1Fへ。

 靴箱の向こうに見える外の様子を見る。雨と風、雷が激しくなってきた。

 管理人室である職員室。電気は付いていなかった。

「茂手木さんはまだ戻ってきないみたいだね」

「そうですね。まだ台風に対策で外に居るんでしょうか?」




「おや、こんばんは」

 出入り口――靴箱から声をかけれられる。

 茂手木が校舎内に入ってきていた。濡れた傘をたたみ、靴を脱いでスリッパに履き替えた。

「こんばんは、お疲れ様です」

「……お疲れ様です」

 鶴木と館山があいさつを返す。


「実は、茂手木さんに相談したいことがありまして」

「ああ、窓の件ですね?」

「……はい。そうなんです。ご存じだったんですか」

「はい。帰ってくる時に割れているのが見えましたから……。お怪我はありませんでしたか?」

「はい。大丈夫です。ちょうど部屋を留守にしている時に割れたみたいで……」

「なるほど。被害がなくてなによりです。しかし不運なハプニングでしたね。風が強いのでなにか飛んできたんでしょうか。木の枝とかですか」

「大きめの石が転がっていました」

「そうですか。おっとなるほど、ここにいらっしゃったのは部屋の変更をご希望ですね?」

「はい、そうなんです。ベッドが破片まみれで……」

「わかりました。少々お待ちくださいね」

 茂手木は急いで職員室に入っていった。


「お待たせしました。こちら『2-3』の鍵です。もう開いている部屋がこちらしか、ご用意できないのでご容赦ください。不運なトラブルですし、もちろん料金は頂きませんので」

「すいません。ありがとうございます」

 戻ってきた茂手木から、鶴木は鍵を受け取った。

「それじゃあ行きましょうか。私は『1-3』の割れたガラスなどを片付けますね」

「割れたガラスはもう片付けました。ガラス片は捨てる場所がわからなかったので、まだ新聞紙に包んでゴミ袋に入れて廊下の隅に置いてます」

「そうなんですか。それは重ねてどうもすみません。ありがとうございます」

 茂手木が申し訳なさそうに軽く頭を下げた。



「では窓は大丈夫ですね。他にお困りのことはございませんか?」

「はい。大丈夫です。じゃあ、僕は『1-3』の荷物を『2-3』に移動させてきます」

「それではよろしくお願いします」


「……あ、すみません」

 そこで館山が言葉を絞り出した。


「館山さん?」

「その窓の件で、この鶴木くん、夕食が食べられなかったん、です」

「あ、それは……」鶴木の困惑と懸念の声。

「なので、すみません。調理室の鍵をお借りしてもいいですか? なにか作ってあげたいんですけど」

「ああ、なるほど。わかりました」

 茂手木が再び職員室へ。すぐに戻ってきた。

「では調理室を使用して終わったら、またこの職員室に鍵を返してもらってもよろしいですか? 23時までは起きていますので」

「わかりました」

 館山が調理室用の青色プレートの鍵を受け取った。

「もしも23時以降までかかるようなら朝返していただければ構いませんので」







 鶴木と館山は階段を上がる。

「その……夕食の件、申し訳ないです。館山さん」

「鶴木くん、自分でちょっと前に自分が言ったことだよ?」

「あ、そうですね」

 鶴木は思い出した。笑みを浮かべた。

「ありがとうございます、館山さん」

「いえ、どういたしまして」

 館山も笑った。



 2人は2F廊下を歩く。

「鶴木くんて他人のことを優先して自分のことには無頓着……いや違うね。『自己犠牲』って言葉が正しいかな」

「…………」

「その『自己犠牲』は鶴木くんの美点だと思う。けど、自分のことも少しは優先して。練習してランニングもして、お腹は人一倍へっているはず。食べないなんて身体に悪いよ」

「……そうですね。ありがとうございます」

「いいえ、どういたしまして」







『1-3』から『2-3』への荷物を移動させる。


 鶴木と館山は3Fへの階段を上っているところだった。

「あ、鶴木くん……と館山さん」

「あっ、館山さん!」

 小野と矢部が階段の上にいた。

「あれ? 小野、矢部先輩も、どうしたんですか? ――はっ」

 気がついた。――そんな表情を浮かべる鶴木。

 夜の宿泊校舎、女子部屋と男子部屋の中間地点である。


「ちょっとまった鶴木くんっ!」

「違うからっ!! ――偶然、出会っただけだから」

 2人が必死に弁明している。

「いや、そんな必死に否定したら、逆に怪しく見えるのですが……」

「鶴木くん、ボクはトイレに来ただけで」

「わたしは台風で風がすごいから、ちょっと誰かに……心細くなっちゃって」

「なるほど。それで小野に――」

「ボク達はさっき出会っただけで偶然なんだけどね」

 小野が言い訳のように言った。


「ボク達のことより、鶴木くんと館山さんこそ、どうしたの?」

「そうですよぉ。館山さん部屋にいないし、いったい夕食の後からどこいってたんですか?」

「えっと、ちょっとトラブルで……」


 そこで別の声が割って入った。

「ん? お前らそろってどうしたんだ?」


「萬井部長」

「ああ、なんで男女4人も集まってんだよ。さびしいな。俺も混ぜろ」

「いえ、混ぜろと言われてもぉ……」

「ボク達も偶然ここで遇っただけなんです」

「萬井部長は、どうしたんですか?」

「トイレ」

 シンプルな一言だった。


「てか鶴木、朝星の嫌がらせで夕食が食えなかったらしいな。気にせずに食っていいからな。食材のあまり使っていいぞ。――あと、あんまりにも朝星がつっかかってくるのが酷いなら、俺から注意しておくが?」

「ありがとうございます。でも夕食の時間に遅れてしまったのは僕のミスでもあるので……」

「そうか。――てか、どうしたその荷物」

「トラブルで『1-3』が泊まれなくなってしまったんです。萬井部長、お隣の『2-3』に移動します。よろしくお願いします」

「おーおー。よろしくな。――てか、俺、トイレ」

 萬井が返事して、トイレに向かった。


「ところで鶴木くん。トラブルって言っていたけど、なにかあったの?」

「ああ、僕の部屋の窓ガラスが石を投げ込まれて割られていたんだ」

「え」館山が鶴木を見る。

「ええっ?!」驚く小野。

「えぇええぇーっ!?」リアクションの大きい矢部。

「ちょ、どういうことだよ?」

 萬井がトイレに入るのを止めて戻ってきた。


「石が投げ込まれたって、その場にいたのか? ケガしてねえか? 鶴木?」

「えっと。大丈夫です。――石が投げ込まれたときには『1-3』にいなかったので」

「そうか。それはよかった。不幸中の幸いだが……」

 萬井が溜息をついて肩の力を抜いた。


「開口一番に鶴木くんの安否を心配するところ、萬井部長の人の良さが、にじみ出てるよねぇ」

「無事で無傷ですけどね。今この場で見た限りケガも無さそうすし。――てか鶴木くん。窓ガラスが石を投げ込まれて割られていたって。その口調だと、風とかで自然に割れたんじゃなくて、割った『犯人』がいるってこと?」

「ああ、そうなんだ」

 鶴木が小野の質問に頭を縦に動かして肯定した。

「……え。鶴木くん、それって……」

「おいおい。弁償とかになるのか? 勘弁してくれ。バスケ部には予算がねえんだよ」

「萬井部長。大丈夫です」

 鶴木は自信があった。


「弁償などの補填は必要ないと思いますから」


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