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『学校宿の殺人』+α  作者: 稲多夕方
1日目
17/51

「コイバナ」19:57


 調理室。

 役目を終えて夕食をとる萬井。丁寧な所作で茶碗を持ち、箸を口に運ぶ。

「館山さんって、ケンくんのこと好きなのかしら?」

 川合が話しかける。

「……どうしてそうなるんだ?」


 調理室には、2人だけだった。

 長テーブルで食事する萬井の正面に川合が座して言葉を飛ばす。


「他の人と明らかに態度が違うじゃない?」

「そうか?」

「少なからずケンくんの方も意識しているみたいだし」

「そうなのか?」

「そうよ。これだから感情の機微にニブイ男は」

 はあ、と川合のため息。


「でもさ川合、館山の態度が違うというのは、逆に鶴木のことが嫌いということもあり得るんじゃないのか?」

「いや、イケメンが嫌いな人とかいないから!」

「ルッキズムが、はだはなしいな!」ツッコミを入れる。

「萬井くんそれ、はなはだしいよ?」ツッコミを入れ返された。

「おいおい俺に国語力を求めるなよ」

「いやいやコレ常識力だと思うわ……」

 あきれたような川合の声だった。



「てか、ここに川合がいるのは、明日のスケジュールの確認のためだろ? 問題は雨くらいだろう。特に問題なさそうだし、もう解散でいいと思うんだが?」

「そんなことはないでしょ。もうちょっと詰めておいた方が……」

「それに川合、眠いんじゃないのか?」

「まだ大丈夫よ。今日も車の中で眠らせてもらったし」

「でも明日もいそがしくなるだろう? 特に川合は――」

「もうっ! なによ! あたしに寝てほしいわけ?」

「まあ、そうだな。前日から無理をさせているし、今日もトラブルもあって苦労させたし、体調も心配だし……」

「あっそう! じゃ、あたし、もう寝るから」

 川合は勢いよく立ちあがり部屋を出ていく。

 その背に萬井が声を飛ばす。

「腹出して寝るなよ」

「別にお腹なんて出して寝ませんっ!」

「おう、明日は早いからゆっくり休めよ」

「……そうさせてもらうわっ!」



 川合は部屋に戻る。

 ギシュギシュ、と階段を鳴らしながら登る。

 ――なぜ、わざわざ萬井の夕飯を待っていたのか。

 ――それは、少しの時間でも、いっしょにいたかったからであって……

 ぼやいた。

 

「あのどんかんめ……」


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