「コイバナ」19:57
調理室。
役目を終えて夕食をとる萬井。丁寧な所作で茶碗を持ち、箸を口に運ぶ。
「館山さんって、ケンくんのこと好きなのかしら?」
川合が話しかける。
「……どうしてそうなるんだ?」
調理室には、2人だけだった。
長テーブルで食事する萬井の正面に川合が座して言葉を飛ばす。
「他の人と明らかに態度が違うじゃない?」
「そうか?」
「少なからずケンくんの方も意識しているみたいだし」
「そうなのか?」
「そうよ。これだから感情の機微にニブイ男は」
はあ、と川合のため息。
「でもさ川合、館山の態度が違うというのは、逆に鶴木のことが嫌いということもあり得るんじゃないのか?」
「いや、イケメンが嫌いな人とかいないから!」
「ルッキズムが、はだはなしいな!」ツッコミを入れる。
「萬井くんそれ、はなはだしいよ?」ツッコミを入れ返された。
「おいおい俺に国語力を求めるなよ」
「いやいやコレ常識力だと思うわ……」
あきれたような川合の声だった。
「てか、ここに川合がいるのは、明日のスケジュールの確認のためだろ? 問題は雨くらいだろう。特に問題なさそうだし、もう解散でいいと思うんだが?」
「そんなことはないでしょ。もうちょっと詰めておいた方が……」
「それに川合、眠いんじゃないのか?」
「まだ大丈夫よ。今日も車の中で眠らせてもらったし」
「でも明日もいそがしくなるだろう? 特に川合は――」
「もうっ! なによ! あたしに寝てほしいわけ?」
「まあ、そうだな。前日から無理をさせているし、今日もトラブルもあって苦労させたし、体調も心配だし……」
「あっそう! じゃ、あたし、もう寝るから」
川合は勢いよく立ちあがり部屋を出ていく。
その背に萬井が声を飛ばす。
「腹出して寝るなよ」
「別にお腹なんて出して寝ませんっ!」
「おう、明日は早いからゆっくり休めよ」
「……そうさせてもらうわっ!」
川合は部屋に戻る。
ギシュギシュ、と階段を鳴らしながら登る。
――なぜ、わざわざ萬井の夕飯を待っていたのか。
――それは、少しの時間でも、いっしょにいたかったからであって……
ぼやいた。
「あのどんかんめ……」




