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『学校宿の殺人』+α  作者: 稲多夕方
1日目
11/51

「階段強者」16:45


「あ、ケンくぅーん」

 甘く媚びるような声が聞こえた。






 そして、僕は荷物を持って階段を上っていた。

 ギシ、ギシュ、ギュシ、と階段1段ごとに音が鳴る。

 ――重量は平気だろうか? 板木が割れて壊れないだろうか。

 古い木造校舎なので、その点が心配だ。

「いやぁ、悪いわね。ケンくん、あたしたちの荷物運んでもらっちゃって」

「別にいいですよ。この荷物4階まで運ぶのは大変そうですし」

 更先輩、真弓先輩、そして館山さんの荷物などを4Fまで運んでいた。

 5つの大きな旅行カバンを一手に引き受け階段を上る。


 僕に合わせて更先輩も後ろから、いっしょに階段を上る。

 更先輩が階段に足をかけるたび、ギュシュギュシ、と音がしていた。音が鳴るのは荷物を大量に抱えた僕だけじゃないみたいだ。

 元々、音の鳴る階段ようだ。

 某少年向けバトルアニメの歩行するときに鳴る音を想起させる。


「ちょっと。別にあたしの体重で階段が軋んでいるわけじゃないからね!」

「わかってますよ」

「あ、でもド○ゴンボールの移動音みたい。あたしZ戦士みたい」

 ――思考が被った……。

「強くなった気がするわ」

 ギシュ、ギシュ、ギシュ。あえて音をさせながら更先輩が階段を上る。

「強いなら更先輩が荷物持っていってくださいよ」

「なによ。か弱い女子に荷物を持たせるわけ?」

「Z戦士じゃなかったんですか?!」

「あたし、非戦闘員だから。コーポレーションの美少女とか」

「でも、あの足音ってある程度の強い人しか鳴らないんじゃないですか?」

「あれ? 思えばそうだったかも……じゃあ、あたしやっぱり強者になるわ」



「フフ、キサマの力では、俺様を倒すことなどできぬ」


 更先輩が小芝居を始めた。

「僕の力がこの程度だと思っているのですか。僕はまだ実力の3割も出していませんよ」僕、のった。

「ほう、強がりではなさそうだな。しかし3割か。ハッ、それではまったく俺様にはとどかぬ。――俺様はまだ、3回も変身を残している」

「なん……だと……」

 更先輩は変身できるようだ。


「それがどうしました? わたしはもうそんな領域にはいませんよ」

「「真弓」先輩!!」

 4Fにつづく階段最上段。矢部真弓先輩はそこで仁王立ちしていた。

「あなた達はまだわたしには到達し得ない。力だけでは至らない領域を知らないあなた達ではね……ふっ」

「力だけでは――」

「――至らない領域、ですって?!」

 僕と更先輩が驚愕する。(演技)

「その一端を、今ここで見せてあげましょうか。――グリクシスコントロール!!」

 真弓先輩が壮麗な動作で両手を広げた。

「な、なんだこの、圧倒的な威圧感は……」

「これが、真弓の、真の実力……」





「あの、なにをしているんでしょうか?」

 おずおずと、声をかけられた。

「あ、館山さん」

 4F廊下には館山さんが立っていた。

「この女、……できるっ。――真弓と同じく、強大な力を感じる」

「まだこの寸劇を続けるんですか?! 館山さんが引いていますよ?」

 更先輩は最強だった。

 僕はここで止めようと思っていたのだが――


「え、えっと、……こほん」

 館山さんがわざとらしい咳払い。

「わ、わた、私の、し、真のパワーを、気づくとは……なかなか、お目々がいいみたい、だな」

「恥ずかしいなら無理してやらなくていいですから!」

 逆にこっちが恥ずかしくなったので、赤面して涙目の館山さんに告げた。



「うーん」しまったな、とでも言うように更先輩が頭をかいた。「館山さんならノリノリでやってくれると思ったんだけどねー」

「身内ノリを無理に振らないであげてください。館山さん赤面涙目でしたよ。たぶんこれめっちゃ恥ずかしいやつですよ」

「つ、鶴木くん。別に、私、顔赤くなってないし、涙目にもなっていないからっ!」

 顔が赤くなった館山さんが言い訳をしている。

 かわいかった。

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