「階段強者」16:45
「あ、ケンくぅーん」
甘く媚びるような声が聞こえた。
そして、僕は荷物を持って階段を上っていた。
ギシ、ギシュ、ギュシ、と階段1段ごとに音が鳴る。
――重量は平気だろうか? 板木が割れて壊れないだろうか。
古い木造校舎なので、その点が心配だ。
「いやぁ、悪いわね。ケンくん、あたしたちの荷物運んでもらっちゃって」
「別にいいですよ。この荷物4階まで運ぶのは大変そうですし」
更先輩、真弓先輩、そして館山さんの荷物などを4Fまで運んでいた。
5つの大きな旅行カバンを一手に引き受け階段を上る。
僕に合わせて更先輩も後ろから、いっしょに階段を上る。
更先輩が階段に足をかけるたび、ギュシュギュシ、と音がしていた。音が鳴るのは荷物を大量に抱えた僕だけじゃないみたいだ。
元々、音の鳴る階段ようだ。
某少年向けバトルアニメの歩行するときに鳴る音を想起させる。
「ちょっと。別にあたしの体重で階段が軋んでいるわけじゃないからね!」
「わかってますよ」
「あ、でもド○ゴンボールの移動音みたい。あたしZ戦士みたい」
――思考が被った……。
「強くなった気がするわ」
ギシュ、ギシュ、ギシュ。あえて音をさせながら更先輩が階段を上る。
「強いなら更先輩が荷物持っていってくださいよ」
「なによ。か弱い女子に荷物を持たせるわけ?」
「Z戦士じゃなかったんですか?!」
「あたし、非戦闘員だから。コーポレーションの美少女とか」
「でも、あの足音ってある程度の強い人しか鳴らないんじゃないですか?」
「あれ? 思えばそうだったかも……じゃあ、あたしやっぱり強者になるわ」
「フフ、キサマの力では、俺様を倒すことなどできぬ」
更先輩が小芝居を始めた。
「僕の力がこの程度だと思っているのですか。僕はまだ実力の3割も出していませんよ」僕、のった。
「ほう、強がりではなさそうだな。しかし3割か。ハッ、それではまったく俺様にはとどかぬ。――俺様はまだ、3回も変身を残している」
「なん……だと……」
更先輩は変身できるようだ。
「それがどうしました? わたしはもうそんな領域にはいませんよ」
「「真弓」先輩!!」
4Fにつづく階段最上段。矢部真弓先輩はそこで仁王立ちしていた。
「あなた達はまだわたしには到達し得ない。力だけでは至らない領域を知らないあなた達ではね……ふっ」
「力だけでは――」
「――至らない領域、ですって?!」
僕と更先輩が驚愕する。(演技)
「その一端を、今ここで見せてあげましょうか。――グリクシスコントロール!!」
真弓先輩が壮麗な動作で両手を広げた。
「な、なんだこの、圧倒的な威圧感は……」
「これが、真弓の、真の実力……」
「あの、なにをしているんでしょうか?」
おずおずと、声をかけられた。
「あ、館山さん」
4F廊下には館山さんが立っていた。
「この女、……できるっ。――真弓と同じく、強大な力を感じる」
「まだこの寸劇を続けるんですか?! 館山さんが引いていますよ?」
更先輩は最強だった。
僕はここで止めようと思っていたのだが――
「え、えっと、……こほん」
館山さんがわざとらしい咳払い。
「わ、わた、私の、し、真のパワーを、気づくとは……なかなか、お目々がいいみたい、だな」
「恥ずかしいなら無理してやらなくていいですから!」
逆にこっちが恥ずかしくなったので、赤面して涙目の館山さんに告げた。
「うーん」しまったな、とでも言うように更先輩が頭をかいた。「館山さんならノリノリでやってくれると思ったんだけどねー」
「身内ノリを無理に振らないであげてください。館山さん赤面涙目でしたよ。たぶんこれめっちゃ恥ずかしいやつですよ」
「つ、鶴木くん。別に、私、顔赤くなってないし、涙目にもなっていないからっ!」
顔が赤くなった館山さんが言い訳をしている。
かわいかった。




