『シャワールーム』16:35
体育館付属の男子更衣室・シャワールーム。
鶴木は服を脱いで、個室に入り、ハンドルを回して水を出す。頭から浴びる。
「ふう、……うわっあっつ! いや、つめた!!」
急いでハンドルを回して水を止める。
水だと思って出したら、急に熱かったと思ったら、急に冷たくなった。
そんな反応だった。
「鶴木。1分弱くらいシャワー出し続けていたら温度安定するみたいだぞ」
声が聞こえた。
「ん? その声は、倉木さん?」
「ああ」
「お疲れ様です。もう部屋の方に戻っているのかと思っていました」
「……お前を待ってたんだ。鶴木」
「え、僕を待ってたんですか?」
ここはシャワールームである。そして、ここを利用しているということは互いにその身には衣服を着用していないわけで――
「……そ、それって……」
「まて、怪しい雰囲気を作るんじゃない! なにもないよ。ただ話をしたかっただけだ!」
「ああ、そうなんですか」
安心、そんな気配だった。
「――それで、話ってなんですか?」
「ああ、テツのことなんだけど」
「朝星先輩ですか?」
「ああ、鶴木に対して当たりが強かっただろう」
「えっと、まあそうですね」
朝星は練習の時、鶴木に対して、口調も強かったし、にらみつけていたし、強引にプレイしていた。
「悪いヤツじゃないんだ。ただちょっと熱くなりやすくて、まけんき強くて、勝ち気なのが、悪く見られる要因なんだ……」
「なるほど」
「あと、自己中なのこと、口が悪いのと、素直じゃなくてへそまがりで大ざっぱで足が臭いのも欠点だけど」
「倉木さん、ボロクソ言いますね……。あと足臭いのは関係ないのでは?」
「ミステリ漫画とかだったら、イキって1番始めに殺害されて退場するタイプのやつだもんな、テツは」
「そんなタイプがあるんですか? いや、逆にそれは最後までなんやかんや生き残るタイプの人なんじゃないですか?」
てか精神的な話じゃなかったんですか、と鶴木があきれた声を出す。
鶴木はようやく温度が安定してきたシャワーで汗を流す。
「でも、大丈夫ですよ。チームメイトですし、いっしょにプレイしていたら、なんとなく通じ合うものがあるので」
「そうか。そう言ってもらえると助かる」
「それに、ですね」
「ああ、なんだ」
「朝星先輩って、きっと川合さんのこと好きなんですよね?」
「…………」
倉木は話さない。
「沈黙は肯定ですからね、それか口止めされているとか? それで僕を目の敵にしているんですよね。今日は――合宿中は欠席の多い川合さんが、マネージャーとしてちゃんと見てくれているからアピールするチャンスですもんね」
「鶴木」
「大丈夫です。誰かに言いふらしたりはしないので。――でも、ですね」
鶴木はすこし間を開ける。
まるで許さないとプレッシャーをかけるように。
「倉木さんは、本当はもっと上手いですよね?」
「…………」
倉木は話さない。黙った。
「僕、実は倉木さんに憧れてるんです。繊細かつ大胆なプレイ、滑らかなドリブルに綺麗なシュートフォーム。そして、広い視野で周りを活かすパス」
「そんな事もないぞ、鶴木」
「いいえ、倉木さんは上手いです」
「買被りじゃないか、鶴木」
「いいえ、倉木さんはもっと上手いです」
「…………」
倉木は無言になった。
「中学の時、倉木さん全国大会に出られていますよね。その時の録画を見ました。あれは、なんというか、チーム全員が活躍しているように見える巧妙に隠されたワンマンチームでした。1人だけレベチの『怪物』がいました」
だから、と鶴木は申し出る。微笑みながら。
「もっと、本気でプレイしてください。楽しみにしてます。そして負けません」




