お人好しの異世界生活?
土曜のお昼過ぎ。
「ふわぁ…」
大きなあくびを手で隠しながら玄関のドアを開ける。少し汚いけど…居心地はいい。
「ただいまー…」
洗面所でササっと衣服を脱ぎそのまま洗濯機へ。
「あの子大丈夫かな…ちゃんと帰れてるかな…」
その足で布団にもぐりこむ。
「ねっむ…」
今日は土曜日だから一日寝て過ごせる。なんて幸せなんだろう……。
側に置いてあったスマホを手に取り、うつ伏せになり目的もなくSNSを漁る。すると気になる投稿を見つけた。
『私も異世界行ってみたい! 』
どうやら誰かが書いた小説らしい。こういうのって流行ってるよね。
私はそういうものに興味がないんだけど……つい読んでしまう。
…読んでいるうちに異様に眠たくなってきた。なんだろうこれ……。
瞼が重く閉じていく中、画面の文字が光った気がした。
「…寝ちゃってたか」
とても暗い。…もう10時とかかな?とりあえず電気付けないと…
目を閉じながら手探りでリモコンを探す。すると…
「…なにしてんの?」
と誰かから声をかけられた。一人暮らしだから絶対あり得ない、他人の声。
しかも聞いたことあるようなないような不思議な感じの声だ。恐る恐る目を開くとそこには……
小さな男の子がいた。
「え!? 誰!! どこから来たの!!」
「うわぁ!」
驚いて飛び起きると少年も驚いた様子だった。しかしすぐに冷静になったのか私の問いに答えてくれた。
「ふぅ…『どこから来たの』って…そっちが来訪者だよ」
「…え」
周りを見回すと、そこは見慣れた自宅ではなく、真っ黒な部屋だった。見慣れているものといえば足元の布団くらい。うーん…広さが認識できない。
そして目の前にいるのは、…身長140センチ強くらいだろうか。小学校低学年に見える少年だった。
「あの…状況を教えてほしいんだけど…」
「あぁ……そうだね。まず自己紹介しようよ。僕は神様だよ」
「かみさま?」
聞き覚えのある名前だが、現実では絶対に聞かない言葉が出てきたため理解するのに時間がかかった。
「うん。別の世界のだけどね。名前は知ってるでしょ?」
「……神様?」
やっぱり夢なのかな。最近仕事ばかりで疲れていたからなぁ……。
頬をつねるが痛いだけで目が覚める気配はない。これは明晰夢というやつなのかもしれない。
それにしてもリアルな痛みを感じる夢だなぁ……。夢なのに変な感覚……。
「だから何してんの?」
「いや…夢なんじゃないかと」
もう一度目一杯つねる。
「痛…」
「…はぁ、本題に移ってもいい?」
呆れたようにため息をつく神様。なんだか生意気な態度だけど可愛い見た目のせいであまり気にならなかった。むしろ癒される……。
「はい……」
「じゃあこの状況について…。君には今から異世界に行ってもらいます」
「は、はぁ…」
やはり夢なのだと確信した。だってこんなファンタジーなこと起こるわけないもん……。
「あの……」
「質問は受け付けません。僕も暇じゃないんでね」
「……」
「…そんな顔してもダメだからね!さっさと終わらせたいんだこっちは!」
「はい……」
「……はぁ。君はこれから異世界に行く。そこで生きていかなくてはいけない。だから最低限必要なスキルを一つあげる。あとは自分でどうにかしてね」
「あの……」
「…何」
「スキルって…何?」
「はぁ~……」
深い溜息をつきながら頭を抱える神様。なんか可哀想に見えてきた……。
「そっちの世界の単語で教えてるのにぃ…えーと…スキル…skill…」
(…神様もスマホ使うんだね)
「…そう能力!『能力』だよ!」
「能力…」
「わかった?」
「…わかった」
「あ、ちなみに'物'でもいいよ。スキルの付与と釣り合うくらいの強さに調整してあげるから。例えば…衣服とかね」
「衣服…っ!?」
慌てて布団を被り、顔だけ出す。
「下着じゃん私!」
「…今更?別に何とも思ってないよ。寝てるときに転送するからね…裸の人とかもいっぱいいたよ」
こっちが良くないんだよぉ…これじゃ'衣服'を指定せざるを得ないじゃないか…
「なんか勘違いしてそうだから言っておくけど、最低限の装備、衣服、お金は用意するからね?」
「あ、そうなの?」
「そうじゃないと転生してすぐ奴隷行きか、野垂れ死にだもん…」
なにかを思い出したように悲しい顔をする神様。
その表情を見た私は黙っていられなかった。下着姿関係なく布団から飛びだし、神様に抱きつく。
「…何」
「…辛かったよね」
「……うん」
少しの静寂。
「…もういいよ」
神様から離れる。
「はぁ…で?要望は決まったの?…まぁ、急いではないけど」
「うん…決めた。私の望みは…」
「…ほんとにそんなんでいいの?もっとこう…すごい強い!とか、とても賢い!とか…」
「うん」
「…わかった。じゃあ…またいつか」
私の足元に魔法陣が展開される。
「うん。また…ね」
「あ、待って!」
「?」
「…自己紹介、してもらってない」
「そういえばそっか…。私は優莉。日向優莉。」
その直後、私の視界は光に包まれた。
初投稿です
モチベがあれば次も作ります
何とは言わんが…あれはいいぞ