5話 勇者の選択が世界を救えると信じて!(完結)
テンプレルートから逃げられない俺は、流されるようにイベントをクリアしていく。
ついには王族とのルートもできた。
知り合った王女の話によれば、国を上げてのトーナメントがあるという。
一難去ってまた一難だ。
うんざりする俺だが、この大会に勝てばテンプレが終了するのではないだろうか?
テンプレが終われば、俺は好きな暮らしができる。
そう考えて、トーナメントの開催を待つことにした。
――そしてトーナメント当日。
王都にはデカい闘技場がある。
普段は賭け闘技が行われているらしいが、今日からは全国から集めた腕自慢を集めてのトーナメント。
活躍者には仕官の道もあるから、皆張り切っている。
いつも賭けが行われているのだが、今回のトーナメントも当然賭けの対象になっているようだ。
沢山のブックメーカーが出て、賭け券を売りまくっている。
当然俺も、自分に賭けまくった。
今まで貯めていた金貨を全部使い、王女から借りた金も全部突っ込んだ。
だって、レベル999の俺が負けるはずねぇべ?
これはボーナスタイムってやつよ。
テンプレから逃げられないなら、それを利用して稼がしてもらわないとな。
試合に出る前にステータス画面を確認すると、防御魔法と温めの魔法が増えていた。
どちらも使える魔法だ。
温めは電子レンジのように、ものを加熱できる。
こいつは便利だ。
巨大な闘技場が満員になり、大歓声の中――試合が始まる。
闘技場の1番高い場所にある席には、国王陛下と王族たちがいる。
その中には、当然王女もいるだろう。
俺は、順調に勝ち上がった。
男はボコボコにして、女は揉みまくった。
多分、女はモブキャラなので、あとのお楽しみも期待できるだろう。
そして満員の観客が上げる大歓声の中で決勝戦。
俺も当然決勝に残っており、そのお相手は――魔法の鎧を着た騎士のオッサンだ。
敵情視察で彼の試合を見たのだが、重たそうな金と銀のギンギラギンの鎧を着て、かなりのスピードで戦っていた。
魔法の鎧というぐらいで、魔法は通じないらしい。
かなり強敵である。
レベルは400~500ぐらいか?
彼の試合を見た俺は、ある武器を持ち込んだ。
要は勝てばいいのだ。
バカ正直に勝負などする必要がない。
そうはいっても、これだけの観客がいるのに、あっさりと勝ったら興ざめだろう。
剣を構えた騎士と対峙――ちょっと離れた所に審判がいる。
最初は、まともに剣を使って戦ったりしてみたのだが、レベルが999とはいえこっちは素人だ。
剣だけだと分が悪くなるので、拾った石を使ったりして牽制をする。
石を摘んでレベル999のスピードで投げると、相手の肩のアーマーが吹き飛んだ。
「「「おおおお~っ!!」」」
観客から大歓声が上がる。
俺が魔法でも使って鎧を飛ばしたように見えたのだろうか?
そんなものではなく、ただの石である。
相手の鎧は魔法攻撃には耐性があるが、俺が投げた石はただの物理攻撃。
多分マッハは出ている石のスピードが鎧を破壊したわけだ。
「くっ!? なんだソレは?!」
「あれ? 俺また、なにかやっちゃいました?」
「「「おおおお~っ!」」」「「「きゃぁぁぁぁ!」」」
男の歓声の中に黄色い声も混じり始めた。
これで十分に盛り上がっただろう。
俺はここで、このために用意した武器を取り出して、左脚を天高く上げた。
「おりゃぁぁ! 大リーグボール2号!」
俺が投げつけたものは、ソフトボール大の粘土の塊。
「ぐぉぉっ!」
腹の部分に粘土がへばり付いた騎士が、その場に膝をついた。
口からも血が流れて出てくる。
俺が投げたのは、粘土の塊の中に鋼鉄の太い針を仕込んだもの。
慣性の法則――動き出したものは簡単には止まらない。
粘土は鎧にへばり付いて止まったが、その中に入っていた針には運動エネルギーが残っている。
粘土から飛び出した針が鎧を貫通して、その中に着込んでいる鎖帷子すら貫通。
自分の腕にマッチ棒を当てても刺さらないが、鋭い針なら刺さる。
騎士の身体の中に飛び込み、ダメージを与えたのだ。
元世界の戦車に積まれている、運動エネルギー徹甲弾と原理は同じ。
使えるものは使ってみた。
「それじゃ、もう戦えないだろう。降参しろって」
「貴殿、それだけの腕を持ちながら、このような邪法で……」
「勝負は勝てばいいだろ? 相手が敵やら魔物やら、どんな卑怯な手でも使って倒さないと大事なものが守れないぜ?」
「ぐぐぅぅ……」
騎士が負けを認めた。
「勝負あり!」
審判が手を挙げた。
「「「おおおお~っ!!」」」
歓声から大歓声があがり、いろんなものが闘技場内に投げ込まれる。
祝福なのか、それとも賭けに負けた腹いせなのか。
どちらにしろ観客席からは距離があるので、俺までは届かない。
「ははは、賭け金で大儲けだぜ~」
これでテンプレは終わったのではないか?
それならば、王女から逃げてもなんの問題もない。
確かにもったいないといえばもったいないが、王侯貴族なんて面倒なものに関わりにならなくても、他の街や国に行けば女はいくらでもいる。
俺がそんなことを考えていると、空から巨大な黒い物体が闘技場に舞い降りた。
「ドラゴンだぁ!」「「「うわあぁぁぁ!」」」「「「きゃぁぁぁぁ!」」」
闘技場は群衆が逃げ惑い、阿鼻叫喚の地獄と化した。
「え~? 今度は、こいつを倒さないと駄目ってこと?」
俺はデカくて黒い山を見上げた。
白くて尖そうな牙が見えており、口からは涎が滴っている。
「グルル……」
ドラゴンが俺のほうを見ているのだが――どうやら、そういうことらしい。
「やれやれだぜ……」
とりあえずテンプレセリフを吐いてみたが――ドラゴンにはなんの変化もない。
これが効くのは、女たちだけみたいだな。
「グオォォ!」
ドラゴンが迫ってきたので、防御魔法を唱えてみた。
「聖なる盾!」
目の前に迫ってきた巨大な顔が透明な壁に衝突した。
これが防御魔法か。
マジモンのバリアだな。
「光弾よ! 我が敵を撃て!」
魔法で攻撃してみた。
以前は石を投げて跳ね返されてしまったのだが、魔法はどうだろうか?
10本の光の矢が敵に向かったのだが、簡単に弾かれてしまった。
「グルォォォォ!」
怒ったドラゴンが口を開く。
「あ、ヤベ!」
慌てて、レベル999の速さで横に飛ぶと、闘技場の地面に炎の道ができた。
ドラゴンの吐き出す火炎である。
この火炎すら防御魔法で防げた可能性があるが、駄目だったら黒焦げになっちまうからな。
そういえば、俺と戦ったオッサンは――なんとか逃げたようである。
「マジで、これを倒すの?」
とりあえず……空に飛ばれると厄介だ。
翼の部分はペラペラの膜のように見える。
そこを攻撃してみた。
「光弾よ! 我が敵を撃て!」
俺から扇状に広がった魔法の矢が、ドラゴンの翼を切り裂いた。
どうやら魔法を跳ね返しているのは、やつの全身を覆っている黒い鱗らしい。
さて、どうしたもんか――と考えていると、闘技場の中にプレートアーマーを着込んだ騎士団が突入してきた。
「「「うぉぉぉ!」」」
騎馬に乗った多数の騎士が、車輪がついた巨大なボウガンを引っ張っている。
俺が投げたレベル999の石でもドラゴンの鱗は貫通できなかったから、そんな武器じゃ無理だとおもうんだけどなぁ。
――とか、考えていたら、敵の尻尾の一撃で多数の騎士が薙ぎ払われた。
「「「うわぁぁぁぁ!」」」
「あちゃー! こりゃやべぇな!」
早めにケリをつけないと――ドラゴン退治のテンプレといえば……。
「目か!」
俺は地面にひっくり返っている騎士の剣を取ると、ドラゴンの顔をめがけて投げつけた。
「ギャォォォォ!」
闘技場にドラゴンの叫びが響き、俺の攻撃が命中――的は当然、やつの目だ。
俺の投げた剣が、魔物の右目に深々と刺さって、血を流している。
自分でやってなんだが痛そう。
ドラゴン退治のテンプレといえば、これ。
どんなに硬い鱗を持っていても目は鍛えられんからな。
「おお~い! 騎士団の皆さん! ドラゴンの片目を潰した! 見えないほうは死角になる。そっちから攻撃してはどうか?」
「「「おおお!」」」
ひっくり返った騎士たちが、立ち上がった。
「王国騎士団心得!」
プレートアーマーを着た男たちが剣を構えて叫んだ。
「「「我らは1つ! うぉぉぉぉっ!」」」
騎士団は塊になってドラゴンの死角に周り込み始めた。
当然、敵は死角に回り込まれるのを警戒して、そちらに意識がいってしまう。
それを見た俺は、ドラゴンの背後に回ると尻尾に飛び乗った。
尻尾の先端の勢いはものすごいが、身体は動いていない。
俺は凸凹の尻尾から腰に移り、トゲトゲの背中を登る。
下を見れば、騎士団が必死にドラゴンの死角に回り込もうとしている。
それを見ながら俺は、ついに巨大な魔物の頭部に到着した。
分厚い鱗に覆われているから、俺が1人乗ったところで解らないかもしれない。
その証拠に、頭上にいる俺を気にしている節がない。
「よっしゃ! いってみるか!」
俺はドラゴンの頭上にある鱗の一枚に手をかけた。
レベル999のパワーを出して、そいつを引き剥がす。
パワーがデカくなっていれば、当然身体もそれだけ強化されているってことだろ。
そうでなきゃ、身体のほうがぶっ壊れてしまうはず。
素早く動いても身体や脳みそにかかるGで多大なダメージを負うことになる。
今まで力を使っていて俺の身体がなんともないってことは、そういうことだ。
「おりゃぁぁ!」
俺の顔よりデカい黒い鱗が1枚剥がれた。
目的は鱗じゃない。
その下だ。
魔法を弾いているのがこの黒い鱗なら、こいつを剥がせば中に魔法が通るはず。
鱗を剥がされたので、ドラゴンも自分の頭の上になにかが乗っていると気がついたようだ。
頭をブンブンと振り始めた。
その隙をついて、騎士団も一斉に切りかかる。
「うぉぉっ!」
思いっきり身体の内部に巡る力を蓄えて、魔法を使う。
「温め!」
ドラゴンの巨体が、一瞬で硬直した。
数秒間固まったかと思うと、そのまま右側に地響きとともに倒れ込む。
魔法で脳みそが沸騰しちゃったわけだ。
いくらレベル1000超えの最強生物でも、脳みそが煮えてしまえば死ぬしかない。
俺はドラゴンの頭の上でポーズを決めた。
「ふっ……やれやれ。俺、またなにかやっちゃいました?」
「「「うぉぉぉぉっ!!」」」
ドラゴンの周りにいた騎士団が歓声を上げた。
その光景を見ていた、逃げ惑う人々もその場で脚を止めてこちらを見ている。
「「「うぉぉぉぉっ!!」」」
観客席に残った人々からも歓声が上がって、闘技場を揺るがした。
逃げ遅れたせいで、この光景に出逢えたのだから、残り物には福があるってことか。
とりあえず、ドラゴンの上から降りる。
終わることのない大歓声の中、この戦いを見ていたお嬢様とドリル先輩が走ってきて俺に抱きついた。
彼女たちは逃げなかったようだ。
国王陛下が下まで降りてきて俺の前に立つ。
白い服に白いマントを羽織ったナイスガイ。
頭も白いし、ヒゲも白い。
王女の髪も白かったが、こういう遺伝なんだろうな。
そんな中に黒髪の俺が入って大丈夫なのか?
国王の後ろには王女殿下もいる。
さすがに無礼はできないので膝をついた。
抱きついていたお嬢様と先輩も、俺の後ろでかしこまる。
「王女の酔狂かと思いきや、ドラゴンまで倒してしまうとは」
国王は俺の力を信じていなかったようだ。
「国王陛下にお褒めいただき、ありがたき幸せ。今日は、ツキがありました」
「う~む」
「ほら、父上! 妾の申したとおりでしょ?!」
王女が俺を立たせると、抱きついた。
「ちょっと王女殿下。民衆の面前ですよ」
「構わないし!」
それを見ていた国王が両手を広げて群衆を静まらせた。
巨大な競技場が静まり返ったのを確認した彼が叫ぶ。
「皆の者! よく聞けい! 国王の名の下、この者に古の勇者の称号を与える!」
「「「おおおおお~っ!!」」」
一段と大きな歓声が、闘技場を揺るがした。
「ふう……やれやれだぜ……」
「はううっ!」
俺に抱きついていた、王女が真っ赤な顔をしてもじもじしている。
それにしても勇者か……。
勇者になったってことは、この先もあるのだろうか?
ここで終わるのではないかという俺の楽観視に暗雲が立ち込めつつあるような気がする。
俺が倒したドラゴンの肉が切り分けられて、街の住民たちに配られるとどんちゃん騒ぎが始まった。
その喧騒を離れ、俺はお城に招かれた。
石造りと真っ赤な絨毯が敷かれた豪華なお城の一室で、国王と会談――2人きりだ。
彼の口から語られる、この世界の構造。
この世界は、新しい勇者が生まれるまで延々とテンプレを繰り返していた。
そういう世界らしい。
住民たちもそれを知っていたわけだ。
人々は来る日も来る日も自分の役割だけを淡々とこなし、それ以外のことをやろうとすると強制力が働いてハードモードになる――ということを繰り返していたようだ。
「なぜ、こんな世界に?」
「詳しくは解らぬが、神の呪いだという説が一般的であるな」
「それでは、私が勇者になって最終的な目的を果たせば、この世界はテンプレから抜け出せると?」
「おそらくは……」
どうやら、まだテンプレは終わりではないらしい。
国王の口から語られた、最終的な目標は――魔王を滅ぼす。
う~ん、テンプレやねぇ。
だが、それが最後の目標に違いない。
魔王とやらを滅ぼせば、俺もテンプレから解放される。
国王は俺と王女をくっつけたいようだが、そんなことに興味はない。
俺との話が終わると、国王がゲーム板を持ってきた。
リバーシである。
「これも貴殿が作ったのだろう?」
「あはは、バレてましたか?」
「無論――各領には王家の草が忍んでいるからな」
草ってのは王家直属の情報機関らしい。
機関の名前を雑草にして擬態しているわけだ。
俺は迷うことなく、国王からの要請を受けた。
もちろん、魔王の討伐である。
無事に帰ってきたら王女との婚礼が待っているらしいのだが、そんなのは勘弁してほしい。
まだやりたいことが山程あるのだ。
あまり乗り気ではないが、討伐に成功すれば俺も世界の人たちもテンプレから解放される。
魔王の討伐ということで、装備も揃えてもらう。
魔法を弾き返す魔法の鎧と魔物を断ち切る聖剣、赤いマント、そして国宝の魔法の鞄――テンプレ装備だ。
俺をサポートしてくれる、テンプレのパーティも組んだ。
国王から金ももらったし、闘技場で賭けた金も大金になった。
メンバーは――。
黒紫のワンピース、茶色のくるくるヘアのクソガキロリ、胸ペッタンコのツンデレ大魔導師。
白い法衣に白い髪の目隠れ、巨乳横乳ムッツリヤンデレのピー聖女。
赤いライオンヘアに、赤いビキニアーマー、脳筋戦闘狂の女戦士。
正直ろくでもない面子だが、レベルは500~600とかなり高い。
この国でもマジでトップレベルのメンバーだろう。
ただし、まともならば。
パーティ四人で見渡す限りの草原の中に続く一本道を西に向かって歩く。
西にはあるんだ魔王の城――ということらしい。
「はぁ――やれやれ……」
「はん♡!」
俺の不意のつぶやきに、ビキニアーマーが反応した。
「どうした?」
「はぁ~っ! もう我慢できねぇ!」
女戦士が俺を草むらに押し倒した。
「こら、やめろって。俺にはフィアンセがいるんだぞ」
「そんなの関係ねぇ!」
こいつは脳筋なので、自分より強いやつには従っていたのに。
「まったく……」
「お前なら俺をぶっ飛ばせるだろ? 遠慮なしにやりゃいい」
俺を押さえ混むビキニアーマーの顔が真っ赤で、涎を流している。
「そんなに強いやつが好きなら、トーナメントに出ればよかっただろ?」
「面倒くせぇ! それなら、トーナメントで優勝したやつと戦えばいいだろ?」
「そりゃそうか」
「はぁはぁ……♡」
完璧に発情している。
こりゃ参った。
そこに魔導師のロリがやって来た。
「あなたのことなんてどうでもいいんだけど、においぐらいは嗅がせてあげてもいいかしら?」
「なんの?」
目隠れ聖女も続く。
「勇者様のピーでピーせよと、これも神の思し召し」
「お前、聖女だろ? そういうことをしてもいいのかよ」
「それは――ピーをピーに挿れれば大丈夫。勇者様のピーでピーするのが私の夢でした」
だめだこりゃ、とんでもねぇビッチだった。
こいつらはヒロインクラスなので、迂闊に手出しできねぇ。
「はぁはぁ……やろうぜ♡」
俺はビキニアーマーに押さえ込まれて、天に向かって叫んだ。
「畜生! 俺たちの戦いはこれからだ!」
「「「はううう~ん!♡」」」
草原に女たちの甘い声が風に乗って流れていった。
------◇◇◇------
――1ヶ月後、俺たちは魔王の城らしき場所にたどりついた。
まぁ、パーティの女たちとは、まったくやってない。
本気を出せば俺のほうが強いからだ。
そんなことをしている場合じゃないしな。
敵地に殴り込むと雑魚を薙ぎ払い、四天王とかいう奴らを葬り去った。
「ナントカが破れたようだが、ヤツは四天王の中でも最弱……」とか言ってたが、ほぼ同じ強さ。
まったくの拍子抜け。
ついに魔王だ。
薄暗く高い天井の長い廊下を進み、背の高い不気味で巨大な扉を開けた。
淀む暗闇の中、ドーム球場のようなホールは、ほんのりと青い光で満たされている。
その1番奥に、なにやら得体のしれないものが座っているようだ。
まっすぐに敷かれた赤い絨毯の上を進み、俺たちはついに終着地点にやってきた。
俺たちの前に現れた魔王らしきやつは、背の高い椅子に黒いローブのようなものを着ている。
顔は骸骨に見えるのだが、アンデッドなのか、それともそういうお面なのかは解らない。
窪んだ目の中に赤い光が輝いている。
「よくぞ、ここまでやって来た。褒めてやろう」
魔王がテンプレセリフを吐く。
「次のセリフは、『お前に世界の半分をやるから仲間にならないか?』とか言うんじゃないのか?」
「よく解ったな」
「だが、断る!」
「やむを得ぬな――」
「まぁ、お前に恨みがあるわけじゃないが、このテンプレ世界を終わらすために潔く死んでくれ」
「我の、勇者を待つ長き日々に、ついにピリオドが打たれるときが来たというわけか……」
ピリオドってなぁ。
俺のパーティは戦闘態勢に入ったが、なんだか当の魔王はあまりやる気がないように思われる。
「おい、戦うつもりはあるのか?」
「ない」
なんだ、随分とやる気のねぇ魔王だな。
「はぁ? ないのか……」
それじゃ、別に無理をして戦う必要もないんじゃないのか?
俺は剣を降ろした。
「どうした?」
「それじゃ、適当に戦ったふりをして、お前が『やられた~』とか言って床に倒れれば、それで終わるんじゃね?」
「……そ、そんなことがあると思うのか?」
「まぁ、試しにちょっとやってみようぜ?」
俺の作戦に、パーティが異を唱える。
「おい、勇者! どういうつもりだ!」
「これは、神の思し召しではありません」
「あんたのこと嫌いじゃないけど、これは駄目だと思うわ」
「まぁいいから、そこで見てろ! 手を出すなよ!」
しばらく魔王と2人でチャンバラをやって、ホールを走り回った。
魔法も撃ったので、少々建物も壊してしまったが。
盛り上がったところで魔王に向かって叫ぶ。
「うぉぉぉぉっ! いくぞぉ! 魔王!」
「さぁ、来い! 勇者!」
ご愛読ありがとうございました――とはならず、正義(仮)と悪(仮)が交差する壮絶な茶番の末、魔王は床に倒れた。
「よくぞ我を倒した。しかし、我を倒しても第2第3の魔王が……」
そのセリフを言ったあと、魔王の目の光が消え変化が現れた。
「おお?!」
青い光が魔王の身体を包み、それが建物の中へと広がっていく。
光が消えたあとに残されたのは、長い黒髪が背中の上を川のように流れている裸の女。
「な、なんだこりゃ?!」
女の戦士の声がする。
「これは、なにごとでしょう?!」
「ちょっと、なによこれ!」
俺のパーティがうるさい。
「……」
黒髪の女が身体を起こすと、自分の手を見つめている。
俺は鎧の赤いマントを外すと、彼女の肩にかけてやった。
「それが、お前の本体なのか?」
「そ、そうだが――これは本当に終わったのか?」
「その姿になったってことは、イベントはクリアしたってことになるんじゃないのか?」
「わからん……」
女が俺を見つめている。
本当に真っ黒な髪の毛だな。
目も黒曜石のように黒く、白い肌を際立たせている。
しかも美人だし、胸もデカくて胸がデカい。
大事なことなので、2回言いました。
人間と少々違うのは、髪の毛の間から角が出ている点か。
腰もくびれているし、ケツもデカくて脚も長い。
う~ん、実に俺の好みだ。
俺はしゃがむと、元魔王の耳元でつぶやいた。
「俺はこのあと、国に帰って王女と結婚式なんだよな」
「……それがなんだ? ノロケか?」
「結婚なんてしたくねぇから、俺と逃げねぇ?」
「は?」
彼女が素っ頓狂な声を出す。
「いやまぁ、会ったばかりで相性とかまだ解かんねぇから、駄目だったら途中で別れることもありってことで」
彼女はしばらく考えていたが、結論を出したようだ。
「……ふふ、いいだろう。私も、これからどうしていいか解らないからな」
「よっしゃ! 決まったな!」
俺は立ち上がると、パーティの女どもの所に戻った。
「おい、勇者! どうするつもりだ?!」
ビキニアーマーが俺に駆け寄ってくるが、それを無視して魔法の鞄からアイテムを取り出して起動した。
「俺は、あの女と他の国に行くから、お前らだけ『帰還の宝珠』で帰れ」
魔法の鎧も脱いで、聖剣と一緒に女たちの足元に放り投げた。
「ちょっと、待ってください! 神はそのようなことをお許しになりませんよ! 勇者様のピーで私のピーをピーさせてくださるという約束を反故になさるおつもりですか?!」
「そんな約束してねぇし!」
「勇者なのに、こんなことが許されるはずがないでしょう?!」
ロリ大魔導師も叫んでいる。
「ああ、うるせー。もう茶番は終わったんだよ。魔法の鞄は手間賃としてもらっておくと、国王に伝えてくれ」
「なにを言ってやがる!」
俺はテンプレが終わったことを証明するために、いつもの言葉を口にした。
「ふ~やれやれ。俺、なにかやっちゃいました? それって、俺が弱すぎるってことだよな?」
「「「……」」」
女たちに変化はない。
もはやテンプレの呪縛がなくなったってことだ。
「ほらな? もう、俺に付き合う必要がなくなったってことさ。ほれ!」
俺は、起動した帰還の宝珠をビキニアーマーに投げた。
「ちょっと待てよ!」
女戦士がそれを受け取った瞬間、3人の女たちが目の前から消えた。
鎧と聖剣も一緒に消えたようだ。
「ふ~、やっとうるせーのがいなくなった」
あんな頭のおかしい地雷ばっかり集めやがって。
「いいのか? こんなことをして」
後ろからの声に、俺は振り向いて答えた。
「いいんだよ。ははは!」
やることはやったんだ。
あとはシラネ。
今日から俺と魔王の新しい旅が始まるかも――しれない。
END