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1話 ステータスオープンは拒否してみたものの


「また、テンプレかよ~!」

 俺はWEB小説を読むのが趣味だったが、次から次へと出てくるテンプレ小説にうんざりしていた。

 どれもこれも判子を押したように同じ展開なのだ。


「こんなもん、俺だって書けるぜ!」

 そう思って書き始めた小説をネットに上げてみても、まったく反応がなく、無数のネット小説の中に埋もれていった。

 俺はテンプレを憎み叩き、あらゆる掲示板やらネットのコメ欄を批判で埋め尽くす。

 来る日も来る日も、そんなことをしていたある日――。


 俺は気づくと、見知らぬ世界にいた。


「なんじゃこりゃ!」

 俺がいたのは崖の上。

 そこから見える壮大な景色。

 青い空の下には、広大な森と大河が大蛇のようにうねり、見上げれば巨大な生物が飛んでいる。


 その景色から見ても、ここは日本ではない。


「これって異世界?!」

 まったく見知らぬ世界にやってきた不安より、ワクワクのほうが先立っているように思える。

 この場面で、俺はある言葉を口に出そうとして、飲み込んだ。


 その言葉とは――「ステータスオープン」――である。


 テンプレを忌み嫌い憎んでいた俺が、どうしてその言葉を口にすることができるのか。

 俺は口を閉じたまま、人里を探して森の中を歩き始めた。


 木の実を探して餓えをしのぎ、木のウロに溜まっている水を啜ってなんとか歩き続けた。

 途中、プレートアーマーの死体が転がっていたが、これも装備を揃えるためのテンプレだ。

 俺はそれを無視した。

 途中、狼らしき魔物に追われて必死に逃げ延びる。

 幸い、スタミナは元世界にいたときより、かなり上がっているようである。

 多分、ステータスとかを見れば、それが表示されているものと思われるが――ステータスオープンはしない。

 俺はそう決めた。


 やっとのことで街道らしきものが見えてくる。

 ホッとしていると叫び声が聞こえてきた。


「きゃあああ!」

 どう聞いても女の声であり、俺はとっさに身体を声のするほうに向けたのだが――踏みとどまる。

 冷静に考えると、これもテンプレだ。


 なに者かが、俺に作為的になにかをやらせようとしている。

 助けた女が王侯貴族とかそういうイベントだろう。

 当然、そいつらもグルである。

 誰がその手に乗るか。


 テンプレ憎しで凝り固まっている俺には、見ず知らずの女が死のうがどうでもいいことに思えて、その声を無視した。

 見つからないように、その場を離れて街道に出ると歩き始める。

 この人里を目指している行為そのものがテンプレとも言えなくないが、森の中で1人で暮らすのはかなり難しい。

 ステータスを開けば、それが可能になるかもしれないが、それなら街に行って暮らしたほうが楽だろう。

 普通に働いて金を稼げばいいわけだし。

 街でのテンプレといえば、ギルドと冒険者だが、そんなものに頼らなくても暮らせるはず。


 街道には馬車なども走っており、俺と同じ方向に向かっている。

 つまり、その先には街があるってことだ。

 2時間ほど歩くと、俺の推測どおりに街が見えてきた。

 こんなに歩いたら疲れるはずなのだが、そんなに疲労はない。

 多分、ステータスが底上げされているとか、そういう感じなのだろうが、これは拒否できないので忸怩たる思いであるが受け入れざるを得ない。


 街に到着すると高い城壁に囲まれている。

 門の前にはプレートアーマーを着て、槍を持った兵隊が立つ。

 まさしくテンプレだ。

 だいたい、なんで中世ヨーロッパもどきなんだ。

 そもそも、これは中世じゃなくて近代なんだけどな。

 不満を漏らしても仕方ない。

 俺は、門番に話かけた。


「こんちわ」

「おう!」

 話が通じる――テンプレだ。

 なんで日本語が通じる?

 こんな馬鹿なことはない。


「初めてこの街に来たんだが、中に入るのに金とか取られるのか?」

「いいや、ようこそ始まりの街へ」

 出た、始まりの街――テンプレもいいところだ。


「お前、冒険者になりにきたのか?」

 隣にいた兵隊が、俺の顔を覗き込んだ。


「いいや、普通に仕事を探して働くつもりだ」

「なんだ、お前はステータスオープンできなかったのか?」

 俺は、兵隊の男が発したステータスオープンの言葉に舌打ちをした。

 なんで横文字(英語)なんだよ。

 いったい、どういう世界観なんだ。

 設定をもっと煮詰めろよ。


「いや、そのステータスオープンってやつをするとなにかいいことがあるのか?」

「おう、ステータスオープンできて、ステータスを見ることができれば、神様からの加護がもらえるってわけよ」

「へぇ~、そうなんだ」

 俺は話半分で切り上げた。

 聞いてもテンプレの話しかしないから、聞くだけ無駄だ。


 街に入った俺は、大きな3階建ての建物の前を通り過ぎた。

 沢山の人々が出入りしていて賑わっている。

 鎧を着たり剣を装備している連中が多いので、ここが冒険者ギルドってやつだろう。


「くそ、テンプレめ……」

 愚痴を吐いてみても、ギルドに出入りしているビキニアーマーの女戦士や、横乳女僧侶はちょっと気になる。

 こころは揺れるが、俺がテンプレにすがるなんてことはない。

 意気込んでみたはいいが、当面の生活をなんとかしなくてはならない。

 今の俺は、文無しの宿無しなのだ。


 俺は思い切って、道端で工事をしているおっちゃんたちに声をかけてみた。

 ズボンにボロいシャツ姿で、シャベルで地面を掘り返している。

 あれこれ仕事を選んでいる暇はない。

 今日の飯代だってないのだ。


「なに? 一緒に働きたい?」「仕事探してんのか?」

「ええ、そうなんです。この街についたばかりで……」

「はは、ほんじゃ俺に任せろ! 親方に話をしてきてやる」

「あざーす!」

 筋肉もりもり、いかついオッサンばかりなので、ちょっとビビってしまったが、メチャいい人ばかりだ。

 俺は、ちょっと涙を流しそうになってしまった。

 すぐに現場の親方というヒゲモジャのオッサンがやってきて、仕事に加えてもらった。

 仕事は道路工事や城壁の補修など。

 金は日当でもらう。

 住む場所がないので、下水の入り口に住み着いた。

 街には宿屋が沢山あるのだが、全部冒険者向けのため、一般人が泊まるとかなり割高になる。

 一日の稼ぎが全部宿代に消えてしまっては、生活ができなくなってしまう。

 自転車操業は避けるべきだ。


 下水は少々臭うが、これなら雨や夜露もしのげる。

 最初は盗難なども心配したのだが、意外と治安はいいらしい。


 来る日も来る日も工事の仕事をして、下水で寝る。

 洗濯や身体を洗うときには、街の外の川に行った。

 いっそ、川岸に住んでしまおうかと考えたのだが、たまに増水するらしく、城壁の門番に止められてしまった。

 やはり、いい人ばかりだ。

 なんだ、冒険者なんて危険なことをやらず、テンプレを無視したって普通に暮らせるじゃないか。

 俺はそう思っていたのだが……。


 最初は順調だった体力が徐々に落ちてきた。

 疲れ知らずで、筋力も元世界にいたときより上がっていたので、油断をしていた。

 仲間の話では回復薬ポーションを使えばすぐに回復するらしいのだが、それは冒険者しか購入できない。

 冒険者からの転売ものを購入することも可能だが、足元を見られてかなり高価だ。

 とにかく、この世界は冒険者という職業を優先して組み立てられている。

 なにかそういう理由があるのかもしれないが、ここにもテンプレ世界の弊害が出ているというわけだ。


 身体が動かなくなり、仕事を休んでしまい下水の入り口で寝る日々が続く。

 稼ぎがなければ蓄えは徐々に減っていき、食料を買うのにも困る。

 ついには、にっちもさっちもいかなくなり――俺は寝込んだまま、つぶやいた。


「ステータスオープン……」

 目の前に光る板が浮かんでいる。


「畜生……」

 なにやらポイントとかいうものがあったので、そいつを割り振ってみた。

 レベルは――999である。

 MPもかなりある――ということは、魔法が使えるってことだろう。

 画面には回復ヒールの文字がある。


回復ヒール……」

 言葉を唱えると、全身を青白い光が包み体力が回復。

 身体も動くようになり、起き上がることができた。


「くそっ……」

 動けるようになったのは嬉しいのだが、なにかに負けたような感情が俺を襲う。

 悩んでも仕方ないので、俺は寝ることにした。

 生活を続けるための金がない。

 また稼がないと駄目ってことだが、回復ヒールの魔法を使えるってことは、体力に心配がなくなったということだろう。


 ------◇◇◇------


 ――ステータス画面を出してしまった次の日。

 体力が回復した俺は、再び土木作業現場で働き始めた。

 身体の調子は申し分ないし順調だったのだが、他の作業員の視線が気になる。

 どうにもよそよそしい。

 なんだろうと思っていると、いつも世話になっているオッサンが俺の所にやってきた。


「おい、調子よさそうだな」

「はい、おかげさまで! 心配をおかけしました」

 オッサンたちが集まってきて、顔を見合わせている。


「……」

「なんですか? 俺がなにかしましたか?」

「お前、まさかと思うが――ステータスオープンしたんじゃないだろうな?」

「……え? し、しましたけど、なにか問題があるんですか?」

「ステータスオープンできたのなら、冒険者ギルドに行って冒険者になれ」

 このオッサンだけではなく、他の仲間も同じ意見らしい。


「冒険者にならないという選択肢はないんですか?」

「ない――すくなくとも、この街ではな」

「なにか、そういう決まりがあるんですか?」

「決まりはねぇが、ステータスオープンしたやつが冒険者にならねぇと、やべぇことになる」

「やべぇこと?」

 彼らの話によれば、次々と本人に不幸が訪れるらしい。

 襲ってくるのは死ぬような不幸だが、冒険者ギルドに行けばそれはなくなるという……。

 外れた道筋から元の正規ルートに戻るように、かなり強烈な強制力が働くようだ。


 それはつまり、テンプレから外れたことをしているやつらを、無理やりテンプレに戻そうとしていることにほかならない。

 俺がステータスオープンをしてしまったことは街中に広まるので、他の所でも雇ってくれなくなるようだ。


「そ、それじゃ、街から離れるというのは?」

「それをやって生きて帰ったやつはいねぇし、他の街にたどり着いたって話も聞かねぇ」

 最初はテンプレを無視してもなんとかなっていたが、ステータスオープンがすべての引き金になってしまったようだ。


「くそ……」

 この世界は意地でも俺にテンプレをさせたいらしい。

 気は進まないが、親切にしてくれた仲間を不幸に巻き込むわけにはいかない。

 他のルートもすべて潰された感じ。

 俺は諦めて、冒険者ギルドに行くことにした。


 いつも賑やかなギルドを訪れると、3階建ての石造りの建物にいつものように人が溢れている。

 聞いた話だと、ここは普通の職業斡旋機関にもなっているらしい。

 冒険者という職業になりさえすれば、他の商売をしてもいいってことのようだ。

 それってなにか意味があるのか?

 少々疑問に思いつつも、ギルド内にいる肌の露出が多い女性を横目で追う。

 ついついビキニアーマーの乳を堪能してしまう。


「おい、なに見てんだ?!」

「さーせん!」

 突然のビキニアーマーのクレームにビビりながら、俺は正面のカウンターに向かった。

 辺りを見回す――中は板張りで広く、待ち合わせ場所を兼ねて食堂にもなっているらしい。

 飯を食っている連中や、昼間から酒を飲んでいるやつもいる。

 そういうサービスまでやっているとなれば、そりゃ混むだろう。


 カウンターには、青い制服を着た金髪の受付嬢がズラリと並んでいる。

 皆が髪を後ろでまとめていて、清楚な感じ。

 目が大きくて美人揃いだ。

 俺はチラ見してから、胸が大きい女性の所に行った。

 特に意味はない。

 意味はない

 大事なことなので2回言いました。


「いらっしゃいませ~今日は、どのようなご用件ですか?」

「冒険者になりにきた」

「はい、それでは、ステータスオープンされたのですね?」

「……はい」

 未だに心にわだかまりがある俺は、生返事になってしまった。


「それで、レベルはいくつですか?」

「言わないと駄目なんですか?」

「いいえ、ギルドカードを作るために測定すれば解るので、必要ないといえば必要ありませんが……」

 出た――ギルドカード。

 なぜか、ここだけがハイテクで意味不明。

 原始時代みたいなのに、変なところでオーバーテクノロジーが用いられている。

 俺は一瞬迷った。

 レベル999とか口に出して言うのも嫌だし、かといって調べられたら解るというし……どうすりゃいいのか?

 俺は諦めたように小声でつぶやいた。


「レベル999です」

「はぁ?!」

 にこやかだった受付嬢の顔が凄い顔になって、こちらを睨みつけている。

 それだけではない。

 ギルドの中でワイワイと騒いでいた連中が途端に静かになり、こちらに視線を向けている。


「おい、今なにか聞こえたぞ?」「999って言わなかったか」「そう聞こえたわ」

 メチャ注目されている。


「さっき、調べたら解るって言いましたよね?」

「――聞いたが、本当なんだよ」

「……」

 女は奥に行くと、なにかを抱えて戻ってきた。


「はい!」

 カウンターの上に置かれたのは、直径10cmほどの透明な玉。

 中にキラキラしたものが浮いている。


「うわ」

 俺は思わず声を出してしまった。

 来たよ――テンプレ。

 ステータスを測定すると、玉が割れるとか爆発するとかいうやつだろ?

 なんで俺がこんな目に……。


「ステータスの測定器です。手を乗せてください」

 俺が諦めて手を乗せようとすると、女がジッとそれを見ている。


「「「……」」」

 彼女だけではない。

 俺の周りにギャラリーが集まってきて、皆がそれをじっと見ている。

 これはいったい、なんの拷問なのか?


 テンプレに乗るのは癪なので、なるべく力を抜いて触ったはずなのだが……。

 手を乗せる――と、玉は激しい閃光を放って砕けてしまった。


「「「……!!!」」」

 受付とギャラリーの視線が、すべて俺に集まった。


「あ、あ、……申し訳ない」

「違うだろ!」

 カウンターから身を乗り出して、俺に迫ってきた受付嬢に俺はビビった。

 その様子は完全にさっきまでの受付嬢とは違う。


「な、なにがだ?」

「そこは! そのセリフじゃねぇだろが!?」

「は、はぁ?」

 俺の頭にセリフが1個浮かんだのだが、口から出すのを躊躇してしまう。


「「「……」」」

 口をもごもごしていると、周囲からのプレッシャーがキツくなってきた。

 皆が俺の周囲に集まり、ものすごい形相でこちらを睨んでくる。

 俺はそのプレッシャーに負けるかたちで、そのセリフを口に出してしまった。


「あ、あの、俺なにかやっちゃいました?」

「「「うぉぉぉぉっ!!」」」

 突然、ギルド内が大歓声に包まれた。

 冒険者たちの声で、建物が震えているように感じる。


「ついにか!? ついにきたのか?!」「俺たちのこの無意味な生活にも、ついにピリオドが打たれるときがきたのか?」

 ピリオドってなんだよ。

 なんで横文字なんだ。


 いつの間にかカウンターから出てきていた受付嬢が、満面の笑みでカードを差し出してきた。


「これがカードです。おめでとうございます~」

「おめでとうって? なにがおめでとうなんだ?」

「いや、あの……ゲフンゲフン」

 彼女が急に口ごもる。


「あの?」

「そんなことより~、今日の夜、暇ですかぁ?」

「はぁ?」

 彼女が急に品を作って、俺の腕に抱きつき胸を押し当ててきた。

 柔らかい感触は嬉しいが、さっきの表情と言葉遣いが本性だろうが。

 あんなカツアゲしてくるヤンキーみたいな顔をされたあとに、猫かぶりされても信用できるはずがない。


「ねぇ……」

 俺の反応が悪いのを察知してか、腕に胸をぐりぐりと押し付けてくる。


「ちょいと! ギルドの受付嬢が冒険者とねんごろになるってのはどうなんだよ!」

 ねんごろって……。

 さっき俺にクレームを入れてきたビキニアーマーの女性が、割って入ってきた。

 赤い金属製アーマーに、鍛えられた腹筋が眩しい。


「「ぐぬぬ……」」

 俺を挟んで女性2人が睨み合っているのだが、勘弁してほしい。


「なに事じゃ! 騒々しい!」

 そこに可愛らしい声がくさびを打ち込んだ。


 声の主は上にいるらしい。


 見上げると階段の途中に、白い髪のおかっぱ頭で、丈の短い白いチャイナドレスのような服を着た少女が立っていた。


 

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