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第35話:入浴

 ◇


 アレンが常識に関する本を読み漁ってから帰ったことで、三人が学院寮に戻ってきた時には既に21時だった。


 部屋にはシャワーがあるのだが、この時間ならまだギリギリ学院寮の浴場がまだ入れる……ということで、アレンと分かれてルリアとアリエルは浴場に来ていた。


 高級な石造りの浴槽から湯気が立ち上がっている。


「やっぱり浴場良いですね〜! 広いです!」


「そうね。この時間だともう誰もいないみたいだし、二人占めにできそうで良かったわ」


 二人はそれぞれ身体を洗ってから浴槽に入った。

 少し熱めのお湯だったが、図書館からの帰りで身体を冷やしてしまった二人には心地よかった。


「ああ〜、生き返ります〜」


「今日は初めての講義で疲れたし、ゆっくり湯船に入れて良かったわ……」


「その後の本探しも結構大変でした……」


「そうね。五分くらいかけて探した本を一分で読んじゃうアレンもアレンだけど……」


 二人だけの時なのに、不思議とアレンの存在が出てくる。

 アステリア魔法学院の学院寮では、同じ部屋に男女が泊まることまでは許されているが、混浴は許されていない。


 そのため、ここは女子風呂でありアレンは男子風呂で寛いでいる。


「あの、気になってたんですけど……アリエルはアレンのことどう思っているのですか?」


「ど、どうって……?」


「その……好きとか好きじゃないとか……ぶくぶく」


 ルリアは自分で質問しておきながら恥ずかしくなり、顔を湯船に沈めてしまう。

 そのせいではっきりとした質問にはならなかったが、アリエルが真意を理解するには十分だった。


「そ、そうね……考えたこともなかったわ」


 アリエルは顔を赤らめ、反射的にそう答えた。

 しかし、これはアリエルの正直な気持ちではない。


 どう答えて良いのかわからず、ルリアの反応を様子見をするつもりでそう答えたのだった。

 明確にアレンのことを好きだと認識するほどに深く考えてはいなかったが、聞かれれば好きという感情しか出てこない。


「ルリアはどうなの?」


「わ、私ですか……私も、そこまで考えてなくて、ちょっと気になっただけです……ぶくぶく」


 質問が自分に返ってくることも想定しておくべきだったが、答えを用意していなかったルリアは急な切り返しによりテンパってしまう。


 ルリアもまたアレンのことが気になる存在だった。ルリアの観測範囲では、自分の他にアレンの身近にいる女性はアリエルのみ。


 そのアリエルの反応次第で、これからどのようにアレンと接するかを考えようと思っていた。


「で、でも」


「な、なんですか……?」


「どんな形になったとしても、ルリアとはずっと仲良くしたいかな……」


「……っ! 私もです……っ!」


 ルリアもアリエルも、言葉と思いが違う可能性があることは分かっていた。

 しかし、二人のどちらか、あるいは両方がアレンを好きでいたとしても、アレンがどのように選ぶのかはわからない。


 まだ出会って長くはないが、一緒に毎朝の修行をこなしたり、寝食を共にしたりと誰よりも密度の濃い時間を過ごしてきた仲間であることはお互いによく理解している。


 だからこそ出てきた言葉だった。


「じゃあそろそろ上がりましょうか」


「そうですね! まだ時間はありますけど、なんだかのぼせちゃいそうです」

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