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第19話:ホームルーム

 ◇


 俺とルリアは講堂から遅れて出てきたアリエルと合流して、一年生校舎の最上階にあるSクラスの教室に向かっている。


「あの学院長、とんでもないこと言ってたわね……」


「そうだな。まあ、好意的に見れば一人だけ違う制服であることの説明がないと俺が困るというのも事実ではあるが……」


「だとしても入学式で言うことじゃないですよ! あんなの晒し上げじゃないですか」


 まったくルリアの言う通りだ。

 どんなに好意的に理解しようとしても、学院長の言動は理解できない。


 明確に俺に対して……いや、『庶民』に対して悪意があると考えた方が自然だ。


「まあ、そうなんだが……そうは言っても学院長が考えを改めることはないだろう。ルリアやアリエルみたいに理解者を増やして、地道に居心地を良くしていくしかない」


「確かに、文句を言っていても始まらないですけど……そうですね」


「悔しいけど、それが現実的ではあるわね……」


 そんなことを話しているうちに教室の前に着いたので、扉を開けて中に入る。


 教室の中は日本の中学や高校と同じような配置になっていた。


 前方に大きな黒板があり、黒板の上には時計。

 黒板の前には講師が使う教卓が設置されている。

 教室の大部分は学院生が使う木製の机と椅子で埋められており、列ごとに綺麗に並んでいる。

 後方には学院生用と思しきロッカーが設置されていた。


 言葉にするとまるで日本の学校そのままだが、やはり中世ヨーロッパ風の凝られたデザインが施されている。両者を比べて間違えるということはまずないだろう。


 中には既に28人の学院生が座っており、前後左右同士で談笑している者、静かに座っている者がいた。

 教卓の前では担任であろう講師が名簿を眺めている。


 黒板には座席の割り当てが書かれている。

 どうやら、俺は窓際の一番前の席に座ればいいらしい。


 俺の一つ前がルリアで、その一つ前がアリエルという指定になっている。俺以外は入学試験の成績順に並んでいるようだ。


 俺たちが座席に座るのと同時に、教卓の前の講師が口を開いた。


「全員集まったようですね。それでは、ホームルームを初めましょう」


 緑色の髪をした若い女性講師だった。

 この歳で名門アステリア魔法学院……それもSクラスの担任を任せられるということは、かなりの手練れなのだろう。


「本格的な講義に先立って、今日は自己紹介をしてもらおうと思います!」


 なるほど、まずは親睦を深めようということだな。

 しかし、こういうのは苦手なんだが……どんな風に自己紹介すればいいんだ?


 まあ、他の学院生の自己紹介を参考にすればいいか。


「まずは私、Sクラスの担任であるシルファが自己紹介をしますね」


 シルファ先生が黒板に名前を書いた。


 シルファ・デイトネス。


 おお——!


 と教室にどよめきが起こった。


 あまり教養を与えられてこなかったせいで、貴族だということはわかるが本人がどの程度の人物なのかよくわからないな。


 『賢者の実』によりこの世界の知識を広く手に入れることができたとはいえ、現在進行形の細かな家柄や人物などは網羅されていない。


 仮に網羅されていたとしたら俺の脳が耐えきれなかっただろうが……。


「私の専門は魔法学応用……研究された魔法理論を基に実現させるというものです。皆さんには『理論魔法の習得』講義でご一緒する予定です。私のことはもう皆さんご存知のようなのでこのくらいで。では、次の方は……座席順にしましょうか。ルリアさん」


「は、はい!」


 ルリアの名前が呼ばれたということは、俺は三番目か……。

 なんていうか決めておかないとな。


 第一印象が一番大事なのだ。

 このホームルームの最初の一言で俺の学院生活が決まると言っても過言ではない。


 かっこよく爽やかに、かつ端的に嫌味なく謙虚に謙虚すぎないような理想的な自己紹介……。


 必死に考えていると、ルリアとアリエルの自己紹介を聞く暇はなかった。


「では、アレンくんお願いします」


「え、ああ……もう俺の順番か」


 仕方ない。まだ不完全だが、この短時間でできることの全てを詰め込んだ俺の自己紹介を披露するとしよう——


「俺の名前はアレン・アルステイン。ただの庶民だ。よろしく」


 余計なことは言わない簡潔な自己紹介。

 長ったらしいものよりもよほど伝わるだろう。


 と思っていたのだが——


「………………」


「………………」


「………………」


 ……なんだ? ちょっとみんな静かすぎないか?

 いつまでも立っているのもアレなので、俺は座席に座る。


 すると、ヒソヒソと声が聞こえてきた。


「あの人が学院長が言ってた……」


「ああ、間違いない」


「黒い制服なんて他にいるかよ」


 どうやら、俺の噂をしているようだった。

 もはや、もうお手遅れだったか……と落胆したその時だった。


「入学式で一人やばい奴がいたんだが、まさかあいつなのか……?」


「俺も見たぞ」


「どう考えても入試の順位がおかしかったよな?」


「噂では学院長以外の講師は概ねアレン推しとか聞いたぞ」


「ぜひお近づきになりたいわ!」


 ……どういうわけか、俺の知らないところで俺のことが噂されている。

 しかも、評判は悪くなさそうだった。


 ふむ、よくわからない現象が起こるものだな。

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