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【完結】ズヴェーリ 英雄叙事詩 改訂版  作者: 乘越唯響(のりごえ いおん)
第二章 青山戦争~カラハット武士団編

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第三四話 虎の躍進

Drake(ドレイク)連隊は単独でチロット市まで進撃する。

 青山地区のコタンコロ市を占領(せんりょう)している武士団のダオは、オタスの杜での出来事を知る由もなかった。使者が殺され、武士団の切り札であった先住民会が、自らに牙を剥いて来たのだ。


「殿、なにかをお待ちで?」


「使者から連絡が来ぬのだ……。なにかあったのだろうか……?」


 側近の言葉にダオは、とても訝しむ表情で答えた。


「いずれにせよ、今南下せねば間にあいませぬ。ご決断を」


「ダメだ、今はまだ情報が足りなすぎる。忍耐が必要だ、このまま待機しよう」



 オタスの杜での状況を把握していない彼らを嘲(あざ)笑うかのように、先住民会の面々は町で「逆襲の蜂起」をした。


 「一四万」を越すカムイが、陸空海から街を襲っていった。


「殿、報告が入りました。ポロナイスクで戦いが起こっているようです。機を逃さぬように、今のうちに進軍しましょう!」


「使者から連絡が来ぬことがどうも解せない……。しかし正確な情報を待っていては、それこそ機を逃す。進軍せよ!」


 西区にいた正規軍は、もともとは青山地区から近づいてくる部隊を牽制する役目があった。しかし「ポロナイスク」で発生した先住民会の「暴動」の対処に追われ、西区の兵員は割かれた。


 「ポロナイスク」に最も近い西区の兵が動員されることは、ダオは予想済みだった。


 五万の内「二万五千」が南区の下、「ポロナイスク」まで「南下」していった。東区やチェレミソフグラード、アンドレエフグラードは、武田の一行が中央区へ向かうまでのあいだに「壊滅」した。



 武田騎馬隊は拠点の制圧から維持が完璧といえるほどに迅速で、隙がなかった。それは何度も繰り返された予習や、中央区から外れた地域に出現した際の、対処が用意されていたからだ。


 複数潜んでいた内通者は、「局地戦」で武士団で有利になるように働き、制圧後はそれらを用いて武田騎馬隊は一人の人員を欠くこともなく「進撃」を続けることが可能になった。中央区と一部の北区の軍は、連日の武田騎馬武者たちとの戦闘で、疲弊していた。


 つまり、手が空いているのは西区の軍のみで、彼らが動かざるを得なかった。これは図らずも、ダオの計画した通りの運びとなった。


「我らと敵とでは、この戦いにかける意気込みが違う。命をかけてでもこの島を得たい我々は、死をも恐れぬ……!」


 ウンマで走りながら、武田は手綱を握りしめながら叫んだ。


「それは青い目をした侍たちも同じだ。ともに参戦した親兄弟のために互いに命をかける自己犠牲により、一人辺りの戦意は、敵三人に匹敵するのだ!」


 武田の「騎馬隊」はその速さと高い士気、敵の薄い地点を狙い突破する戦略で一気に敵地を制圧していった。彼らは見ず知らずの指導者や象徴よりも、ともに戦ってきた武田や家族のために、仲間として「一致団結」した。


 結束力は実力以上の脅威を敵に感じさせ、その集合した勇ましさは、自分や仲間を互いに守った。この部隊を含めた武士団が戦争の主導権を握れているのには、目に見えない理由も多々あった。


 その一つは、「同性愛」を認めていたことにあった。武士団内では「衆道(しゅうどう)」と呼ばれる文化があった。これは弥纏の〝戦国時代〟に、上流階級の武士たちによる男性同士の恋愛を指していた。


 ルーシでは「LGBT」の類いは総じて理解が広まっておらず、男は女を、女は男を求めるという価値観が主流だ。そんな国にあるからこそ、男女以外の組みあわせの恋愛を自由に認めるという、カラハット武士団独自の衆道は愛する者を守る自由を生み出した。それが武士団の力の源の一つになっていた。


「御殿(おんとの)のため、我が武士団のため、恥や見栄を捨てて命をかけろ!」


「おう!」


 香坂の檄(げき)で、多くの武士が士気を上げ一致団結した。しかし悩みの種もあった。はやりそれは兵站線(へいたんせん)を軽視した強攻により、半ば孤立していることだ。


 長い時間がかかればかかるほどに物資が尽き、さらに各拠点で圧倒的多数の敵に囲まれ、敗北色が強まることになる。



 ――青山より迫る武士団は、小さな街伝いに進軍していた。敵に王手をかけられないように、全ての拠点を制圧する。地道ながら、当然の出方であるように思えた。


 しかしそれは青山への道封じという作業ではなく、それこそが正規軍の息の根を止めようとする武士団棟梁「ダオ」の直轄(ちょっかつ)軍だった。


 Drake(ドレイク)はただ一人、その可能性に気がついていた。西区に駐屯する自分たちがポロナイスクへ向かえば、青山地区の少数の武士団がカイ市へ侵入し、それが正規軍に王手をかけてくるであろうということにだ。


 ダオがワール市の本隊にいないという彼の仮説も、ダオが青山の部隊を率いていれば辻褄(つじつま)が合う。


「なんて計算高い連中なんだ……。まさか本当に……我が国からの領土の委譲を達成するつもりなのか。本気……なのか。ここまで用意周到に『大国』に牙を剥く覚悟を待っている等、まるで悪魔だ。現世(げんせい)の悪魔だ……!」


 Drake(ドレイク)にとって、利己心からルーシを傷つける敵は「悪魔」に思えた。それから、ポロナイスクの先住民会も武士団の一味であると錯覚した。


 ダオの策略通りに進んでいたのなら、彼はそれを見破った「英雄」だった。しかし、くしくもそれはダオの策略それすらも越えた存在だった。復讐心で満ちていた「先住民会」という勢力だった。


 しかし、それをダオの策略だと信じたDrake(ドレイク)は、上官に伝えた。しかし、それを止めるためにカイ市を無視して青山の行くという英断は、どの将校にもできるものではなかった。


 Drake(ドレイク)にとっても、それは簡単なことではなかった。


「ゲレンスキー将軍が西区からポロナイスクへの救援を命令したら、西区から横腹を突かれてしまう! それではダメだ……。西区の軍勢が南下するよりも前に、青山の敵を叩かなくちゃならない!」 



 命令と策略のあいだで葛藤する彼は、とある人物を思いだした。いつも命令違反をしながら正しい判断をして、正しい方向へ仲間を導く兵士。


 それは虚ろに睨むような目つきの男「ジェル軍曹」のことだ。今ばかりは、彼の真似をするしかないとDrake(ドレイク)は思った。そして彼は、部下に宣言した。


「これより我が独立大隊は、独断行動をとり、青山地区へ向かう!」


 移動を開始した大隊のその行動は、すぐにゲレンスキーの目にも止まった。


「西北の方向……青山の方角か。……敵が本拠地防衛をすっぽ抜かして攻めてくると、本気で……?」


「命令違反で処罰すべきと存じますが、如何(いかが)なされますか。信賞必罰(しんしょうひつばつ)、敵前逃亡として捕らえて処刑という方法もありえます」


「敵もまだ現れてないのに敵前逃亡だと。処罰の是非は結果次第じゃな。彼は頭脳明晰(ずのうめいせき)だ。上奏(じょうそう)されてきた文書にもそれ相応の信憑性を持っていたし、自信があるのかの」


 ゲレンスキーは唇の上に生やした髭を撫でながら思案した。


「儂(わし)も彼の推察を理解できん訳ではない。だが本土防衛戦において、戦いの趨勢(すうせい)をカイ市市外に持って行くなど、そんな決断はできんのだよ」


 ゲレンスキーは、自身の命令で兵を動かして失敗をした際の咎めを恐れて、初期の命令に従い待機していた。しかし敵の動きを読み、失敗した際の咎めを一身に受ける覚悟をもった勇気ある将校に、多大な期待をした。


「Drake(ドレイク)中佐については、黙認する。結果次第では戦闘終了後に厳罰に処す。……ヤナ大佐の二の舞になるではないぞ。儂(わし)は期待しているぞ、Drake(ドレイク)中佐よ……」



 Drake(ドレイク)独立大隊は西へ進み、青山地区を目指した。途中の街にいる武士団は勇ましさこそあれど、熟練の兵士千人の敵ではなかった。


 武士団ダオが状況を把握しかね優柔不断になっていたとき、Drake(ドレイク)独立大隊は、破竹の勢いでチロット市まで進んだ。



「またうちが先鋒ですか……。索敵隊からの情報は、逐一報告しろ!」


「分隊長、索敵隊からの情報です。敵は砦らしき物を二つ保有していて、街を取り囲んでいるようです!」


「北部で、友軍を苦しめているアレか」


「この砦って……あのアレク市にあった奴なのか……。あんなのを運んで来るとか……しかも二つって。あいつら、ただの武装組織じゃねぇよ……」


 アナトリーはジェルがいることによって、分隊に馴染んでいた。同じような色があると、違和感なく溶けこめるのだ。


「それはこれまでの戦いかたや、優勢に立っている戦況を見ると、確かだな」


 レフは新入りがいるからか、いつもと異なり冷静だった。それはバラカを失った悲しみから、心にゆとりがないだけなのかもしれない。彼は「自暴自棄」にはなれないほど、忙しくしていたのだ。


 情報が伝達されているDrake(ドレイク)大隊は、ワール市攻略を阻(はば)む砦の存在を知っていた。そして部下が持ってきた情報に、彼は最初の一手をだした。


「チロット市の砦の一つは改装中だ。ここを強襲しよう……! 強襲部隊の指揮は奴になら任せられる。ジェルならば臨機応変に対応してくれるはずだ!」


 彼は指揮官室で確信をもって、別動隊の指揮官としてこの男を選んだ。


「私が教官として鍛えた愛弟子だ。ジェルはどんなときでも正しく、現場の判断が下せる!」


 Drake(ドレイク)の命令で、ジェル分隊を筆頭にしたチャリオットと騎兵部隊は強襲作戦をおこなった。砦は、突然の奇襲で対応できず、呆気なく制圧された。



 ダオがチロットまで下ってきたときには、すでに砦を制圧していた。そして予想外の敵にダオは困惑していた。


 一方のDrake(ドレイク)は、次なる攻撃をしようとしていた。


「Lineholt(ラインホルト)中佐の報告では、敵は砦の上に遠距離攻撃に特化したズヴェーリの部隊を配置している。それらは四方を向いている。チロット市と、砦の片方さえ無力化しなければ、武士達は埼角(きかく)の勢で、攻略できない……」


 Drake(ドレイク)は顎に手を当てて思案した。とにかく頭を動かした。引き算するように、最適な答えを見つけだそうとした。


「四方を向いた屋上の敵の視線を、一ヵ所にのみ向けられたなら……。そうだあれがある。チロット市にあるガソリン貯蔵タンク。あれを爆発させられたなら……! 一ヵ所に集まった敵の背後を攻め、砦を攻略できる!」


 彼は見つけたのだ。爆発させるには、チロット市に兵士が侵入する必要がある。侵入に必要なのは少数という身軽さ、そして素早さである。


 彼には素早さに特化した部下がいるが、言わずもがなそれはチャリオットである。爆発の陽動を成功させられるかは、ジェル分隊の機動力が必須だった。


 彼はすべての作戦内容を、ジェル分隊を筆頭とした別動隊に、説明した。


「またうちが、危険な役回りなんですか」


「能力不足ではないな? 頼んだぞジェルジンスキー軍曹」


「……あぁそうですか」


 彼らには時間がなかった。今こうしているあいだにも、中央区で味方が戦死している。ダオは臨機応変に対応し、武田に州議会会場を占領させるかも知れないのだ。

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