第二〇話 第一次コタンコロ攻防戦
Lucas大隊長は、Lineholtや部下の士官を含めた作戦会議をおこなった。議論の結果、Drake立案の作戦を採択し、迫る武士団を迎撃する布陣をした。
Drake中隊配下のイーゴリ小隊」と「ジノヴィ小隊は、敵が迫る城外の入り口の左右に布陣し、入り口を守るように展開した。
彼らから二キロメートルほど離れた位置で武士団は一時停止をした。隊列を整えてジノヴィ小隊に食いつき、五千の部隊が、総突撃してきた。
距離が近づき、敵の火炎放射から逃れるように全力疾走する騎兵とチャリオットたち。彼らは敵との数の差からくるその圧倒的な火力にも怯まず駆けつづけ、街の中へと撤退していった。仲間を庇う余裕もなく、数名が被弾して戦場にとりのこされた。
逃げられず置いてきぼりを食らったのは個人単位の兵士のみならずイーゴリ小隊もだった。踵を返して向かってくる敵兵士をかわし、街を目指した。だが結局は「正面衝突し、圧倒的な数の力に攻められ多大な被害をおっていた。
すると突如再出撃してきたジノヴィ小隊。彼らはイーゴリ小隊に夢中になり、完全に背を向けている武士を強襲した。
背後を突かれた武士たちは、混乱し多数の戦者をだした。混戦の中で武士団の戦力を削減した兵士らは、多勢に無勢であるために颯爽と逃げまわり、退却を始めた。
退却するイーゴリ小隊に追いつこうとする武士団は、追撃には大軍の塊ではなく小勢が当たった。少数づつが追いかけていき、武士団の大軍は線のように伸びきっていた。
イーゴリ小隊はたびたび、その細い線をハサミで切るように突撃して敵に損害をあたえた。武士団の先端は後続らと分断され、混乱の境地に達し追撃不能に陥った。イーゴリ小隊はその隙をついて、コタンコロ市の街へ一時退却した。
「少数という不利な条件を逆手にとり、その速さを利用するとは……。兵は神速を尊ぶとはいえ……実戦でここまで臨機応変になれるのはさすがだ。Drake少佐はかなりの策略家だな!」
イーゴリ小隊隊長のイーゴリ ダーイナイプトンニーニは、戦場の興奮と相まり、声高らかにDrakeを賞賛した。
いっぽうのDrakeは城の中から戦場を眺め、思案していた。
「予想とおりだ。街の中へは入ってこない。このコタンコロ市は、NIsによって大きく発展した街だ。自分たちの手で造りあげたという意識が、この街を戦場にしたくない思いを生みだしてしまっているんだなこれを上手く利用し最後まで民兵たちを隠しておければ、彼らを活用して『勝機』を得ることができる……!」
彼の頭の中にある戦場の流れは、神算というべき正確性があった。それを証明するように、戦場では武士団が狼狽えていた。しかし指揮官はこう叫んだ。
「窮鼠猫を噛むか。してやられてもうたわ。敵ながらあっぱれじゃ!」
彼は置かれている状況とは異なり、敵を褒める余裕を見せた。大音声で笑う声は武士にも広がり、部隊は和やかにまとまった。
「じゃっどん、おいどんも漢じゃ。島ば不当に奪った北方の天狗どもに、天罰ば下してくれようぞ! 武士は己の領地、その一所に命を懸けるのじゃ。一所懸命に、必ず島ば取りかえしもんそ!」
こんなにも破滅的な状況でも乱れずにまとまっていられるのが、彼ら弥纏人の脅威的なところである。
彼らは意気揚々と高音で叫び、その奇声にも思える声は、少なからず街中の民兵たちを萎縮させた。隊列を整えた武士団は、街へ向かい猪突猛進してきた。攻撃する振りをして、敵の戦意を削ごうとしたのだ。
それを背後の丘から見つめる兵士がいた。
「ふ、武士団の全軍は突撃していったか。突撃しか能のない猪武者め、後方を襲われたことからなにも学習していないんだな。五百名の兵士を五十名づつにわけて、五〇〇メートル四方に展開させる!」
冷静に指示をたました彼女は、ウンマの手綱を握りしめ、悲哀の目を向けた。
「バカな上官に従わざるをえなかった哀れな侍たちよ……。上や周りへの利口さが、己を殺すことになったのだぞ……」
ヤナ連隊長はシュシュ湖に近づく敵影がないことを斥候の偵察で確認し、交戦中のコタンコロ市付近へ駆けつけた。作戦の要、最終攻撃の位置についたDrakeは、Lucasの指示を仰いだ。
「出撃、だな」
「私の配下がさきほどは主戦力となって戦ってくれました。今度は私も出撃し、陣頭指揮を執ります!」
知のみならず勇を兼ね備える士官、Luis Drake。彼を信用したLucasは、戦場を彼に託した。最終局面、Lucasは腰に拵えたサイフォスを抜剣してそれを翳し、命令を下した。
「全軍、突撃だ!」
街から出てきた三千の兵士に困惑する武士団。しかし、それでも彼は、勇猛果敢に包囲殲滅をはかり動きだす。共に戦力が「拮抗」し、軍勢に穴があれば互いにそこに侵食し、各個撃破をはかるだろう。そうならないように、両勢力は双方とも横との団結を強め、相手を包囲しようと互いに横に伸びきった。
そんなときだった。
「分隊長! くそ……野生のズヴェーリのお出ましだ!」
煙草で肺を汚し声がしゃがれているHarrisは、かなりのハスキーボイスでそう叫んだ。
「構うな! 敵とだけ向きあっていろ! 命令とおりにしていれば、必ず勝てる!」
周りをよく観察するジェルはそれを瞬時に確認したが、任務を優先した。
ズヴェーリは自分たちの住みかを燃やし血肉を撒き散らして、荒廃させる者たちを許さなかった。そこには敵味方に別れる人間たちの都合など無関係だった。
ただあるのは、人と共存し先住民に何世紀にも渡って祈られてきた自然。そして圧倒的な物量で襲いかかってくる、獣とも呼ばれるカムイの群れだった。
自然を相手にする人間はあまりに無力であった。人間同士で睨みあいながら、確実に迫るズヴェーリの驚異に怯える。人間とは自然を踏みにじり、誰の物でもない大地を炎につつんできた。それに対する代償に、彼らはなす術もなく襲われ、殺されていった。
チロットでは小規模で短期間の戦闘であったため出てこなかっただけで、これが野外戦闘での基本だ。
またカムイにはあらゆる種類がいる。アッコロカムイのように炎を吐く者や、ほかにも毒を吐いたり、強靭な顎で岩をも噛み砕く者もいる。様々なカムイがいて、ときには協力して外敵から身を守ってきた。それらはときと場合には人間や、他のズヴェーリさえも苦しめ殺すこともある驚異でもある。
それは、この戦場も例外なはかった。肉つきの良いウンマの足に食らいつき、骨を砕くズヴェーリ。兵士たちに有害な飛沫状の毒で神経を麻痺させ、苦痛をあたえ死に絶えらせるズヴェーリがいた。
兵士らは、死なずとも落馬したところを後続の仲間に踏み殺されるなどした。自然の化身とも言えるズヴェーリは、巡る因果の中で、無抵抗な人間たちに牙を向いたのだ。
しかし、その犠牲も報われるときがきた。懸命に睨みあいをしていた甲斐があった。兵士は最も守りが厚い箇所を特定し、そこに指揮官がいると断定したのだ。
その情報を「Lucas」を通して受けとったヤナ連隊長は、広く展開させていたお陰で発見されていなかった五〇◯名の兵士に、背後から奇襲させた。狙うは、指揮官ただ一人であった。
兵士たちが野生のズヴェーリに対して自分の身を犠牲にしてまで、武士団を薄く線のように伸ばしたことで、敵の指揮官を護衛する側近の侍は最低限しかいなかった。
そこを背後から突かれた指揮官は、思いもよらない奇襲に倒れた。そして指揮官という頭を失った武士団は、瓦解していった。
「敵指揮官を討ったか。よし彼らを使うぞ! 民兵を出撃せ!」
Lucasの命令で、ついに出撃のときがきた。
「民兵たち。本官はリディア ウラジーミロヴナ リトヴァク曹長であります! これから我が軍の攻撃作戦に貴様らの力を借りる。攻撃目標は、戦場で逃げまどうカラハット武士団のみだ。初陣だが、諸君らの奮戦に期待する!」
震える民兵に彼女は簡潔に言葉をかけた。
「声を揚げろ! 叫べ! 勝利に貢献しろ! 出撃せよ!」
街で買収されたウンマに跨がる民兵たちが、疎らな陣形で進撃した。ウラァァァァ(Ураааа)と吶喊する兵士らは、震えながらも戦う決意をした。
それを上空から見守るリディア分隊を初めとした空戦部隊も、ただ眺めているだけではない。上空から、散り散りとなっている敗残の武士らを攻撃していった。
「前回はあれだけ空戦部隊に力を入れていたのに、今回は一人も空にいないなんて、やけに消極的じゃない」
街から出てきた兵士らを視認したDrakeは、前線にいる兵士たちを対ズヴェーリの陣形にし、武士団への攻撃を止めた。
武士たちは逃げだそうとした。しかし、自らの足で走って野生のズヴェーリから逃げられるはずもなく、また背後から襲う民兵に対処することも出来なかった。
Drake」が考えた民兵を活用した勝機というのは、瓦解した武士団の蹂躙で、武士団本隊の士気を削ごうというものだった。武士団の本隊が他にいると発覚した時点で、目的は彼らの足を止めることとなっていた。
戦わずして彼らを降伏させるには、容赦のない攻撃で自分の末路を想像させることのみである。故に、降伏しようとする武士諸共、容赦なく殺戮することを命令したのだった。
アナトリーは思った。子供のころから自分を痛めつけてきたNIsの人間たちが、今こうして目の前で逃げまどっている。私怨を晴らすように彼は、武士を手にかけた。そこには、一切の躊躇はなかった。
そういった民兵の姿を見て、Wagnerは真面目にもその姿を分析した。
「民兵はちゃんとした訓練を積んでいないため、役に立つ前に戦死してしまう。それを改善する方法はただ一つ実戦をつむのみ。それが今回のように逃げまどう敵を一方的に攻撃するのみであれば、誰もが自信を持つだろう。Drake少佐は、ここまでお考えになっていたのだろうか……?」
こうしてコタンコロ攻防戦は、チロット市につづきカラハット正規軍の勝利におわった。激戦の傷は深いものだが、一日で終結したことで戦う余力は残っていた。
イーゴリ ダーイナイプトンニーニ少尉(Игори даинаиптоннини)
二二歳
士官学校を新卒したばかりの優等生であり、先住民ウィルタの血を引く
学校では座学を首席という好成績で卒業した
身長一七三センチメートル
体重五九キログラム




