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EPISODE2 鬼達の攻撃(4)

「なっ、何だとクマ!? どうやって脱出を――」


「随分と余裕が無いようだが、無駄口を叩いている暇があるのか?」


 拙者は溶けた氷を砕いて自由になると同時にゴリバッカ殿へと注意を逸らした熊鬼目掛けて跳び、ドロップキックを炸裂させて着地した後は近くの床に倒れたままの犬神を小脇に抱えて距離を取る。


「ぐっ……な、何が起きている!? 何故氷が――」


「た、大変ですオニ! 社内の各所から出火してるオニ!」


 立て続けに起こった理解の及ばない出来事に加え、部下の鬼から伝えられた情報を聞いた事でようやく何が起きたのかに気がついた熊鬼の表情は驚愕に染まる。


「……ま、まさか、貴様等!」


「ご明察。この糞みたいな会社に火を放ったのは、拙者達だ!」


 ゴリバッカ殿が囚われていたこの部屋に辿り着くまでに鬼達をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返している合間に建物の至る場所に発火装置を仕掛けておいたのだ。

 そして先程、床に倒れこんだ際に点火装置を起動。

 これで奴等の冷凍銃は最早無用の長物と化した。


「……う、あ、アタシは一体……?」


 氷にヒビが入っていたゴリバッカ殿や完全には凍結していなかった拙者とは違い、完全に凍り切っていた犬神も遅れて解凍され拙者の腕の中で目を覚ます。


「目が覚めたか。熊鬼に近づいた所で冷凍銃によって氷漬けにされていた。例の作戦を実行したから、もう凍結する心配はない」


「……ほ、本当に放火したのか。……そ、そうだ! ゴリバッカはどうした? アタシの氷が溶けたって事はゴリバッカも自由になったはずだ!」


 犬神がそう言うと同時に、鬼達を蹂躙していたゴリバッカ殿が此方に気付いて駆け寄ってくる。


「吉備さんに犬神さん。私を助けに来てくださり、ありがとうございましたウホ。お蔭で無事に解放されましたウホ」


「気にすんなよ、そんな事。今までずっとコンビを……組ん……で……?」


 流暢に日本語を操るゴリバッカ殿に気をつかわせないように返事をしようとした犬神だったが、何かに気がついたかのように喋っている途中で固まってしまう。


「……? 急に固まってどうしたのですか、犬神さん。まるで何か信じられないものでも見たかのような……あ。……ウ、ウホホウホ、ウッホホウホ」


「よし、こんな所からはさっさとトンズラするに限る」


 ゴリバッカ殿の言う通り、ここで悠長に話している暇はもう無い。

 火の手は既に近くまで迫ってきている筈だ。


「……ゴリバッカ、人間の言葉が喋れたの!? 何で今まで黙ってた!?」


「ウッホホォイ!」


 喚く犬神に返事を返す事なく、ゴリバッカ殿は雄叫びを上げながら外の景色が見えるガラスへと突撃。

 そのままガラスを突き破って建物の外へと脱出する。


「犬神、近くで大声を出されると五月蠅い。それにゴリバッカ殿の言う通り、すぐにここから離れるべきだ。詳しい話を聞くのはそれからでもいいだろう」


「……ち、近くで大声出したのは悪いかったけど、いつまで抱えているのはアンタだろ!? もう離してもらって構わない! ……というか、脱出って一体どうするつもりだ?」


 先程のゴリバッカ殿に倣い拙者も犬神に無駄な返事をする事なく、ゴリバッカ殿の作った外への出口目掛けて犬神を抱えたまま駆け出す。


「ま、待て待て待て。今いる場所って建物の最上階だよな? 薄々何をしようとしているのか気付いてはいたけど、やっぱりアンタ頭のネジがアアアァァァ!?」


 拙者が外へと飛び出すと同時に、犬神の絶叫が周囲に響き渡る。

 このまま落下して地上に激突すれば、それはもう目も当てられない大惨事の未来が待っているだろう。

 バッドエンド待ったなしだ。


「はぁッ!」


 そんな未来は回避すべく、建物の外壁に刀を突き刺す。

 壁を割り砕って落下速度を落としながら、一気に地上へと落ちていく。

 暫く落ち続けた後、拙者の体が完全に落下を止めてから刀を引き抜いて鞘へと納め、両足で間近に迫っていた大地をしっかりと踏みしめる。


「おい、犬神。地上に着いたぞ。そろそろ離しても大丈夫だな?」


「……あ、うん。大丈夫……」


 何故だか呆けた様子でやたらと大人しい犬神を地面に降ろすと、先に地上に降りていたゴリバッカ殿と共に燃え盛る建物を見上げる。

 それにしてもあの高さから落下して無事とは、流石ゴリラ。


「……爺さん、婆さん、見ていてくれたか? 仇は討ったぞ」


「……ウホホ、ウホ」


 ……確かに感傷に浸っている暇はない。

 このままここに残っていては、拙者達も建物の崩壊に巻き込まれて只ではすまないだろう。


「犬神、いつまで腰を抜かしている? 早くここから――」


「待てやクマァァァ!!」


 未だに腰を抜かして立てない様子の犬神に手を差し出そうとした瞬間、上空から男の雄叫びが響く。

 犬神の手を取り、咄嗟にその場から飛び退くと、先程まで拙者達がいた場所に空から降ってきた熊鬼が着地してその拳で地面を砕く。


「マジか。あの高さから飛び降りるとは……この男、かなりヤバい奴だな」


「お前がそれを言うのか!? ……て、手! もう大丈夫だから早く離せ!」


 ……まだ少し足が震えているようだが、自分で大丈夫だというのなら問題ないだろう。

 犬神の手を離し、刀の柄に手を添える。


「よくもやってくれたクマ! 上司にどう説明すればいいクマ!」


 ……そういえば、この男にまだ聞く事があったな。


「おい、その上司っていうのはどこにいる? そいつにもしっかりと落とし前をつけてやらないといけないからな。居場所を教えろ」


 拙者の問いかけに、熊鬼はフンと鼻を鳴らして口を開く。


「部下達の仇に誰が教えるか! それに、せめて貴様等の首だけでも持って帰らないと、オレの身が只では済まないクマ!」


 熊鬼が吼えると共に、どこからか取り出し投げつけてきた手斧を、刀を振るい弾き飛ばす。


「そもそもお主等がお爺さんとお婆さんを襲撃したのが悪い。しかもその理由がお主等が転売という糞以下の所業に手を染めていたのを、拙者が邪魔したのに逆切れしたというのだから性質が悪い」


「……ん? 襲撃理由はそんな理由だったかクマ? お前、何か勘違い--」


 何事かをボヤく熊鬼を無視し、犬神とゴリバッカ殿へと視線を移す。


「ウホ……」


「……それマジかよ。そんなしょっぱい事やるような奴等にアタシ達、雇われてたのか。……今度から仕事を受ける前に雇い主の素性位は調べるか」


 拙者の口にした言葉にゴリバッカ殿は口を手に当てながら憐れむ様な目で熊鬼に視線を向け、犬神に至っては奴等に手を貸した事に後悔し始める始末。


「犬神、良い心がけだ。自らの行いを反省して次に活かす事で、いずれは拙者の様に素晴らしい人間になれる筈だ」


「……それ聞くと、反省しない方が良い気がしてきた」


「貴様等! オレの前で悠長に話している暇があるクマか!」


 激昂した熊鬼が斧を拙者に向けて振り下ろした斧を、刀で受け止めて鍔迫り合いになる。


「……単細胞な奴め」


 ……拙者と熊鬼の実力は互角と見た。

 恐らくどちらが攻勢に出ても、互いに決定打を与える事はできないだろう。

 故に、本来なら勝負は持久戦に持ち込まれるはずだ。

 ならば、此方から攻め込んで体力を消耗するのは下策。

 ……そう、一対一の戦いなら。


「オラァ!」


「クマ!?」


 突如割って入った犬神がかぎ爪を振るうが、寸での所で気付いた熊鬼は後退して躱そうと試みる。


「ウホ!」


 何とか後退した熊鬼だがしかし、追撃に拳を振るったゴリバッカ殿によって勢いよく吹き飛ばされた。


オトギウォーズを読んでいただき、ありがとうございます。

今回の話が良かったと思っていただけましたらブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいですが、読んでもらえるだけでとても嬉しいです。

毎週日曜の昼十二時の投稿になるので、次も読んでもらえると筆者は喜びます

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