EPISODE2 鬼達の攻撃(2)
正門には二匹の鬼が見張りに立っていた。
最初の内は暇そうにしていたが拙者が近づいているのに気付くと、一瞬唖然とした表情になる。
しかし、すぐに正気を取り戻して口を開いた。
「ば、馬鹿オニ! また馬鹿が性懲りもなく正面から――」
失礼な事を言う鬼を黙らせる為に一刀の元に斬り伏せた後、もう一匹の鬼が何か言う前に斬りつけて黙らせる。
そのまま正面扉から侵入しようとするが、自動扉は開く事は無かった。
ガラスの向こうでは、騒ぎに気付いた鬼達が何やら慌てた様子で準備をしているのが見える。
このまま奴等が扉を開けてくれるのを待っていてもいいが、少しだけ本気を出すとしようか。
「ハァッ!!」
気合をいれて叫ぶと同時に、刀を抜いて扉を何度も斬り付ける。
一瞬の後、目の前のガラス扉が粉みじんになって周囲に散乱。
道が開いたのを確認すると、散乱するガラス片を一跳びして、拙者の事を呆然と見つめる鬼達を次々と斬り捨てていく。
「オ、オニー!」
如何に拙者と言えど、多数の鬼を一瞬で全滅させることはかなわない。
ある鬼達は金棒を取り出し、またある鬼達は先日の冷凍銃を取り出して拙者をとり囲む。
しかし遅い。
拙者が刀を振るうだけで金棒は砕け、冷凍銃はその銃身が切り落とされた。
「ひ、怯むなオニ! 武器が無くても、此方の方が数は――」
味方を鼓舞しようとした鬼を……いや、周囲の鬼達を全て斬り捨て、駆逐していく。
周囲に鬼が山の様に積み重なった辺りで、一つの事実に気付いてしまう。
「……しまったな、一匹残してゴリバッカ殿の捕まっている場所まで案内してもらえばよかった。……まあいい、他にも鬼はいるだろう」
刀を鞘に納め、一階の各部屋にリュックから取り出した例のブツを置いていくと、二階へと向かう。
「ば、馬鹿な! 下の階の奴等は全員やられたというオニ!?」
二階に上がると、階段近くにいた鬼がすぐさま拙者の事に気が付く。
当然、抵抗の為に武器を取り出そうとするが、それより早く鬼を斬る。
「おい、鬼ども! 拙者が態々来てやったんだ! 大人しくゴリバッカ殿の元へ案内しろ! そうすれば、楽に逝かせてやる!」
拙者が声を張り上げると同時に各部屋の扉が開き、鬼達が雁首揃えて姿を現す。
「ば、馬鹿がいるオニ! 態々自分からこの人数を相手にしようなんて、一体何を考えているオニ!?」
何を考えているか? そんなの決まっている。
貴様らを、根絶やしにしてやるのだ。
というか、馬鹿がいるとはこちらの台詞だ。
何故拙者がここまで来れたのか。
下にいる奴等がどうなったかを考えれば、そんな台詞を吐く事もできないだろうに。
「ククク、拙者の刀が血に飢えて――」
「何やってんだ!」
鬼達に相対し刀を構えようとした瞬間、キャンキャン五月蠅い声と共に拙者の後頭部が叩かれる……寸前で、犬神の手を躱して彼女の方に視線を向ける。
「犬神、こんな所で何をやっている? こっそり侵入する手筈はどうした?」
「それはこっちの台詞だ! 裏口から侵入して息を潜めながら進んでいたら、急に騒がしくなって……。何事かと思って様子を見たら、何だよお前! 屋上から潜入するんじゃなかったのか!」
そんな事言われても、態々屋上まで登るのが面倒になったのだから、仕方ないではないか。
「……敵を騙すには、まず味方というだろう。それに、拙者が囮になれば、犬神が侵入しやすいと思ったのだ」
「そ、そうなのか。……悪かったな、怒鳴っちまって」
拙者の言い訳を聞いた犬神は、何やらばつが悪そうに謝罪してくる。
……中々にちょろい。
「……馬鹿が一人増えたオニ。あんなの、口から出まかせに決まって――」
「そぉい!!」
余計な事を口走り始めた鬼を斬り、その躰を他の鬼達に蹴り飛ばして怯ませる。
「犬神、過ぎた事は気にするな。それよりも、もうコソコソと侵入する意味は無いな。ここからは正面突破だ!」
「……お、おう! 足を引っ張るな――話を聞け!」
犬神が喋り終わるよりも早く、鬼達の元へ飛び込み斬りつける。
「無駄口を叩く暇があったら、さっさと鬼を片付けるぞ」
「……こいつ、いつか絶対吠え面かかせてやる」
拙者が吐き捨てた台詞に対して犬神は苛立たし気にポツリと何事か呟くと、鬼達を両手のかぎ爪で屠っていく。
……数分後、山ほどいた鬼達は一匹を残し、山の様に積み重なって動かなくなっていた。
「い、命だけはお助けをオニ! 何でもしますから!」
そして、唯一の生き残りになってしまった哀れな鬼は腰を抜かし、刀の切っ先を突き付けられて身動きすら取れない状態だ。
「おい、こいつ今何でもするって言ったよな」
「……それじゃあゴリバッカ殿の居場所まで案内してもらおうか。そうすれば、この場では見逃してやろう」
鬼に対して要求を告げて刀を鞘に収めると、鬼は情けなく震えながら立ち上がる。
「そ、そうすれば助けて貰えるオニ!?」
「拙者、約束は守る男。それよりもさっさと案内しろ。今すぐ斬り捨ててもいいんだぞ?」
再び鞘から刀を抜いて突き付けると、鬼は怯えた様子で声を出す。
「は、はいぃ! こ、こちらですオニ!」
拙者達はゴリバッカ殿の元へと向かう。
案内を始めた鬼の背に刀を突き付けたまま。
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