EPISODE2 鬼達の攻撃(1)
おじいさんとおばあさんを襲撃した鬼へ復讐する為に秘密結社鬼ヶ島にカチコミをかけたものの、多勢に無勢で逃げ出すしかなかったうえに、仲間……いや、成り行きで共闘していただけだから、仲間とはいえないのか?
「おい!」
……ともかく、共闘していたゴリバッカ殿を犠牲にしてしまうという無様を曝したのが昨日の話。
「おい! 聞いてんのか!」
拙者と犬神は追手を撒く為、鬼ヶ島近くの山中に身を潜めていた。
今は腹を満たす為、周囲に何かないか散策している所だ。
「ゴラァ! 話を聞いてんのかって言ってんだよ!」
「五月蠅いぞ。あまり大声を出すと体力を使うし、近くに追手がいれば見つかる恐れもある。おっ、このキノコは……駄目だな、食べると背が縮むキノコだ」
草むらを掻き分ける手を止め、キャンキャンとうるさく吠える犬神へと返事してから再び食料探しに戻る。
「尤もらしい事を言う前にこの縄解けよ! 今すぐゴリバッカを助けにいかないと!」
簀巻きにされた状態で先程の拙者の忠告も聞かず、犬神は相も変わらずキャンキャンと吠える。
「……ハァ」
拙者は溜息を一つ吐き、犬神の元へと歩いていく。
「何の策も無しに助けにいってもミイラ取りがミイラになるだけ。無論、迅速に助けるべきなのは事実だが、まずは準備をする必要がある」
犬神の元にしゃがみ込み、彼女の拘束を解きながら事前準備の必要性を説く。
「……それはそうだけど、お前はどうなんだよ。襲撃かけたくせに、結局アタシといっしょに逃げ帰ったじゃないか」
解放された犬神が、口を尖らせながらボヤいてくる。
「拙者は強いからな。少なくとも建屋内に侵入できれば鬼ごとき難なく殲滅できる。……まあ、犬神達に邪魔された所為で? 建屋に侵入できなかったのは誤算だったな」
「確かに、お前ほどの強さがあれば……ちょっと待て、正門前で堂々と名乗りを上げてたよな? あんな事したら、早々に気付かれて侵入どころじゃないんじゃ?」
……拙者は犬神に背を向け、周囲の散策を再開する。
「おい、こっち見て答えろ。アタシに考えなしって言っておいて、お前こそムグッ――」
性懲りもなくキャンキャンと吠え始めた犬神の口に、鞄の中から取り出した袋から吉備団子を放って黙らせる。
犬神は団子を咀嚼して飲み込むと、口を開く。
「お、おい。今何を食わせた!? 変な物じゃないよな!?」
「……変な物だと思ったら、そのまま飲み込むな。安心しろ、それは昨日、襲撃前にコンビニで買っておいた吉備団子だ。本当は奴らを殲滅した後に食べようと思っていたんだが、この辺に食えそうな物はないみたいだから仕方ない……もぐもぐ。ほら、遠慮せずに食え」
食料を探すのをやめ、近くの岩に腰掛けると吉備団子を咀嚼しながら袋を犬神に差し出す。
「あ、ありがとう? ……いや、よく考えたらコイツに縄で縛られたし、礼を言うほどでも無いか? でも、それだってアタシに無茶させない為だし……」
なにやらぶつくさ言い始めた犬神を尻目に、吉備団子を頬張り続ける。
「やはり吉備団子はいい。昔、おばあさんが作ってくれたのを思い出す……おのれ鬼ども、今度こそ、おじいさんとおばあさんの仇を討つ」
鬼どもへの恨みが、憎しみが、おばあさんの吉備団子を思い出した事で再燃し、必ずや鬼を滅ぼし復讐の完遂を決意すると、鞘から刀を抜き、鈍く光る刃を見据えながら誓う。
「なんの恨みがあってカチコミをかけたかと思えば、そんな理由があったのか」
視線を刃から犬神に移すと、彼女は妙に神妙そうな表情で拙者の事を見つめている。
「おまけに家も襲撃された際に爆破された……そんな理由があったのだ。さて、そろそろ準備を始めるか」
「準備って、何か策があるのか? 良ければ教えてくれ。アタシもゴリバッカを助けないといけないからな。手を貸すぜ」
刀を鞘に納めて立ち上がると、犬神も掌を拳で叩き、小気味いい音を出しながら問いかけてくる。
「……それは、秘密でござる。万が一の事があるから、拙者の内に秘めておく事にするでござる」
「おい、こっち見てもう一回同じこと言ってみろよ。さっきアタシに無策で突っ込むなと言っておいて、自分も同じ――あっ! 逃げるな!」
……再びキャンキャン吠え始めた犬神を背に、再襲撃の準備をする為に下山する事にした。
夕刻。
下山して再襲撃の準備を終えた拙者と犬神は、身を隠しながら鬼ヶ島まで接近していた。
「ここまで近づく事はできたけど、問題はここからだな。嘗めた真似しやがったアイツ等に、思い知らせてやらねえとな」
そう言いながら舌なめずりする犬神の拳には、新たに調達したかぎ爪が装備されている。
「気持ちはわかるが焦るな。無暗に飛び出しても昨日の二の舞だ。こっそりと潜入して破壊工作を行い、奴らが気付いた時には全部終わっているのが理想だ」
「それはそうだけど、お前に言われると何故だかムカつくんだよな。というか、昨日はお前が襲撃してきてアタシ達が巻き込まれた形――うわっ!?」
なにやら寝言をほざき始めた犬神を黙らせる為に、彼女に背負っていたリュックの中身を手渡す。
「お喋りはここまでだ。もう一度作戦を確認しておこう。ここからは各個に侵入し、そいつをばら撒きながら囚われているゴリバッカ殿を救出して脱出。うん、イケメンの拙者が考えた一分の隙も無い完璧な作戦だ。……問題はゴリバッカ殿がどこに捕まっているか分からないという事だが、まあそんなのは後で考えればいい」
パーフェクトな作戦に自分で頷く拙者の事を、犬神は訝し気な表情で見つめていた。
「……どうした? 拙者の顔に見惚れたか?」
「いや、お前は確かにイケメンかもしれないけど、格好と中身で台無しだよ。……アタシは裏口から侵入するけど、お前はどうするつもりだ?」
成程、作戦をより詰めておきたかった訳か。
「拙者は屋上から侵入するつもりだ」
「……いや、どうやって屋上まで登るつもり――」
「企業秘密。さあ、わかったら作戦開始だ」
犬神が何か言っているようだが無視し、彼女と別れて歩き始める。
少し歩き、犬神が完全に見えなくなった所で、ビルを見上げる。
「ふむ。……登るとは言ったが、面倒臭くなってきたな。……よし」
視線を地上に戻すと、再び歩き始める。
……ビルの正門に向かって。
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