EPISODE1 ファントムピーチ(4)
「……ゴリラ? 何故こんな所にゴリラが?」
目の前に現れたのは、黒々とした体毛を持つゴリラだった。
主にアフリカに生息し、その大柄な肉体とは裏腹に森の賢者と呼ばれて争いを好まないあのゴリラが、何故この日本にいるのか。
「そんなのそいつがアタシの相棒、『ゴリバッカ』だからに決まってる」
……そういう事を聞いている訳ではないのだが。
「ウッホホホ!」
両掌で自身の胸を叩いているゴリバッカという名前のゴリラを見て、拙者は思う。
……この際どうやって日本に来たかなどどうでもいい。
どうせ倒してしまう相手の事だからな。
「ウッホォォォイ!」
雄叫びを上げ、腕を振り上げながら突撃するゴリバッカ。
ゴリバッカは拙者に近づくと、振り上げていた両腕を拙者に向けて振り下ろした。
丸太の様な腕を見て刀では受け止めきれないと判断し、後ろへ飛び退きゴリバッカの攻撃を躱す。
先程まで拙者が立っていた場所にゴリバッカの腕が振り下ろされ、地面が砕けて破片が宙を舞う。
……この破壊力、刀で受け止めていたら折れていただろう。
やはり躱して正解だったか。
「アタシの事を忘れてるんじゃない!」
爪女が吠えながらゴリバッカの背中を踏み台にして跳躍し、拙者を目掛けて飛び掛かる。
まともに受け止めては、動きを止められてゴリバッカの餌食になるな。
突き立てられる爪を受け止めるのではなく時には躱し、時には刀で受け流す。
そして、ゴリバッカの攻撃は大きく飛んで確実に躱していく。
……このままだと長期戦になるな。
体力的には問題無いが、応援を呼ばれても面倒だしそろそろ決めるか。
ゴリバッカが突っ込んでくるのに合わせて、垂直に大きく飛んだ後に突っ込んできたゴリバッカを踏み台にしてさらに大きく跳躍し、刀を大きく振りかぶる。
「ゴリバッカ!」
拙者の動きに気付いた爪女は逃げる事なく爪を前方に向けて突き出し拙者に立ち向かう。
拙者と爪女の軌道が交差する瞬間、刀を二回振り抜く。
……着地すると同時に、拙者の頬に一筋の赤い筋が浮かび、血が滴り落ちる。
「ようやく傷を付けてやった! だけど、まだだ! 踏み台にされたゴリバッカの分もお礼をしてあげないとね!」
爪女は此方に振り向き、勝ち誇ったようにそう言い放つ。
……気付いていないか。
「……勝負ありだな」
拙者はそう言うと、手に持っていた刀を鞘に納めて爪女の方に振り返る。
「は? 何を言って――」
爪女は言葉の途中でようやく異常に気付く。
両拳に装着していたかぎ爪の先端が切断されている事に。
「お主の得物は破壊した。まだ戦うというのなら相手をするが、もうお主に勝ち目は無い」
自身の得物が破壊されていたという事実に暫しの間、唖然とした様子を見せていた爪女だったが、やがて正気に戻り口を開く。
「……やってやろうじゃないか! たとえ素手だろうと、一度受けた仕事は果たすよ!」
爪女はそう言い放つと、爪の無くなったかぎ爪を投げ捨て、拙者に対して拳を構える。
「……少々手荒になるが、気絶させて――!」
刀を抜こうとしたその瞬間、背後からの殺気を感じとり爪女に背を向けて刀を振るう。
……発砲音が響き渡り、どこかから放たれた銃弾を地面に叩き落とす。
しかし、迫りくる銃弾は一発だけではない。
拙者だけでなく爪女やゴリバッカにも銃弾の雨が浴びせられる
「あ、アタシごとコイツを始末しようとしたのか!?」
驚愕の声色を隠せない爪女に返事をする事なく、返す刀で振るい続け、迫る銃弾を次々と叩き落としていく。
……銃弾の雨が止むと同時に近くの建物の自動扉が開き、大柄な男が鬼達を引き連れて姿を現す。
「クマー。使えない用心棒ごと始末してしまえば金を払う必要も無いと思っていたが、まさか全弾叩き落とされるとは。オレ達に歯向かうだけあってなかなかやるクマ」
茶色の毛皮に、大きな斧を持った大男は拙者を見下ろしながら口を開く。
……男には角が無く、肌も赤くない、少なくとも見た目は普通の人間だな。
「ようやくこの会社の人間が出てきたか。大人しくお主達の目的を――」
「おい! アタシ達がまだいるのに発砲するなんて、どういう了見だ!」
拙者の言葉を遮り、爪女が叫ぶ。
その声色は怒りを隠しきれておらず、相当に頭にきているようだ。
「どうもこうも、さっき言った通りクマ。武器を破壊されて後はもう負けるだけの使えない用心棒に金を払いたくないから、まとめて始末しようとしただけクマ!?」
何やら喋っている途中だが、拙者には関係の無い話。
刀の柄を掴むと、一跳びで大柄な男の元へと近づくと、刀を抜いて切りつける。
しかし、大男は拙者の動きに反応して、持っていた斧で刀を受け止めた。
「な、何をするクマ! 卑怯者!」
何やら文句を言っているが、無視して刀で斧を払い、そのまま飛び退く。
……しかし、驚いた。
完全に不意をついたと思っていたのに、まさか受け止められるとは。
先程の爪女といい、世の中にはまだまだ強い奴がいるものだ。
「勝負の世界に卑怯もラッキョウもない。隙を見せた方が悪いと拙者は思う」
そもそも、先に不意打ちを仕掛けてきたのは向こうだ。
卑怯と言われる筋合いなど、一切無い筈。
「……ああそうかい! それじゃあ、お前ら纏めてリンチだクマ! 卑怯だなんて、言わせないぞ! 鬼軍団! 奴等を叩きのめせクマ!!」
「「「オニーーー!」」」
大男の号令と共に、奴が引き連れていた鬼軍団が、拙者達を取り囲む。
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