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おまけ

 親指を上げた拳を掲げて車が停車するのを待つが、止まってくれそうな車が現れる気配が一向に無い。

 全く、薄情な奴らめ。


「……雉鳴の奴、自分で呼びつけておいて迎えに来れなくなったから現地に直接来いとは、人使いの荒い奴だ」


 何故拙者がヒッチハイクなどするはめになったのか、事の始まりは鬼ヶ島を壊滅させた日まで遡る。

 拙者を地上に降ろした雉鳴は、此方の事情を聞いてタブレットを回収して拙者達に自身の連絡先を渡すと、『後処理があるから先に失礼させてもらう、もしかしたら仕事を頼むかもしれない』と言い残して足早に立ち去っていった。

 犬神やゴリバッカ殿とも一緒に行動する意義が無くなったのでその場で解散し、おばあさんとおじいさんと一緒にかつて家があった場所へと帰宅し、家の再建に取り掛かった。

 ……別れ際に犬神が『何かあったら連絡しろよ。アタシ達はもう仲間なんだから、すぐに駆け付けてやる』と言っていたので手伝いを頼むことも考えたが、共通の目的が無い以上、完全に赤の他人なので何か頼むのも、後々面倒な事になりそうで気が引けてしまう。

 結局、拙者とおじいさんの二人がかりで一週間かけて家を再建し悠々自適のニート生活を再開した……のだが、ここで大きな問題が発生してしまった。

 我が家の貯金が底を尽いてしまったのだ。

 家が爆発して財産もなく、おばあさんのヘソクリも家の再建で使い切った事で拙者が働かざるをえなくなってしまった。

 久しぶりに賞金首を二、三人狩って小銭を稼ごうと考えていた所で雉鳴から仕事を依頼したいという連絡を受け、金払いが良かったのでその仕事を受ける事にした訳だ。


「……全然止まる気配が無い。こんな事になるなら犬神達にも声をかけておくべきだったか?」


 雉鳴は拙者だけでなく犬神とゴリバッカ殿にも仕事を依頼しようとしていたのだが、兎に角お金が欲しかった拙者は三人分働くから報酬を三倍にしろと交渉。

 雉鳴が拙者の要求を承諾してくれたところまでは良かった。

 本来は雉鳴が迎えに来てくれる筈だったのが、当日になって野暮用が出来て迎えに行けなくなったと連絡があり、指定された場所まで自力で来いと言われてしまい今に至る。

 ……恐らくは拙者がイケメン過ぎる所為でドライバーの男が嫉妬に狂い、誰も止まってくれないのだろう。

 見てくれは良い犬神にヒッチハイクをさせれば、ホイホイ釣られた男達から車を提供してもらう事も容易だったであろう事を考えると、犬神達を連れてこなかった事を今更ながら悔やんでしまう。


「……しかし、目的地とは反対に進む車ばかりだな」


 先程から拙者の目的地とは逆方向に向かう車ばかりで、反対車線では渋滞がおきている。

 だというのに、拙者と目的地を同じくする車は数える程しか通らない。

 ……こうなったら、反対車線から一台拝借するほかないか。

 適当な車に目を付け掲げていた拳を降ろし反対車線へ向かおうとした瞬間、拙者の前に一台のバイクが停車する。


「アンタ、この先に行きたいのか?」


 ……飛んで火に入る夏の虫。

 隙を見てバイクを借りてしまおう。


「ああ、この先に野暮用があってな。急いでいるのだ」


「……やめといた方が身のためだ。この先の街で武装集団が暴れている。反対車線の車は皆逃げてきた奴等だ」


 成程、雉鳴から聞いていた話通りだ。


「拙者、その武装集団に用がある。お主も怪我をしたくなければ、武装集団の処理は拙者に任せて大人しくそのバイクを寄こし、家に帰るんだな」


 拙者のお願いを耳にした男は慌てる事こそ無かったが、訝し気な様子で此方を観察する。

 ……もっとも、フルフェイスヘルメットを被っている所為で本当に拙者の事を見ているかはわからんがな。


「……ひょっとして、同業者か?」


 ど、同業者?

 ……そうか、何と奇遇な!

 こんな所でニート仲間に出会うとは!


「ああ! その通りだ!」


 バイクに跨った男は意気揚々と返事をする拙者から視線を外すと、僅かに何かを考えるような素振りを見せてから、再び拙者に注目する。


「わかった、同業者としてのよしみだ。乗せてやるよ」


 男はそう言うとどこからともなくヘルメットを取り出し、拙者に投げ渡す。


「かたじけない、礼を言う」


 早速ヘルメットを被った拙者が男の後部に座ると、バイクが発進する。


「拙者、桃太郎と申す。少しの間だが、宜しく頼む」


「……ああ、宜しく」


 拙者の自己紹介に男は素っ気なく返事をし、街を目指してバイクを走らせる。

 ……ここでふと拙者の中で男に対する一つの疑念が浮かび、雉鳴から受けた仕事の中身について思い返す。

 そもそも雉鳴は拙者に仕事を持ってきたのは、この仕事が鬼ヶ島と深く関わっている事が原因だ。

 雉鳴の話によると、拙者達が壊滅させる前から鬼ヶ島は組織としての機能を殆ど失っていたらしい。

 鬼ヶ島として活動すると何者かに妨害されるという事で、替えの利かない資材や人は全て上位組織のナントカカントカという組織に移転済み。

 どうりでダースオーガ以外の組織のメンバーが戦闘員である鬼や熊鬼、亀鬼のようなダースオーガ自身が失敗作と称していた者しかいなかった訳だ。

 ……あの男、そんな斜陽組織の首魁としてイキっていたのか。

 おばあさんに自身の出自を知らされた時から色々とショックを受ける事もあったが、ダースオーガと同じ遺伝子というのが一番ショックだったのは我ながらどうなのだろうか。

 ……あの野郎の所為で話が脱線してしまった。

 先程の男に対する疑念とは、こいつが何者なのかという事だ。

 説明した通り、この先で暴れているのは鬼ヶ島以上の戦力を持つ組織。

 拙者の様に奴等と因縁がある者や、雉鳴のように何やら公的な組織の人間ならわかるのだが。この男にはどんな事情があるのだ?

 男の背後からその姿を観察して見る。

 赤と黒、二色で彩られたライダースーツとフルフェイスヘルメットを身に付け、スーツとお揃いのカラーリングで塗装を施されたスポーツタイプのバイクを拙者の様子に気付く事なく、深紅のマフラーを靡かせながら運転している。

 ……よく見るとライダースーツやヘルメットにはあちこち細かい傷が付いており、その様相はこの男がそれなりに修羅場を潜ってきたであろうことを想起させる。

 とてもではないが、拙者と同じニートとは思えない。

 ……よし。


「お主、見た所中々の手練れの様だな。先程は拙者と同じニートと言っていたが、本当は何者だ?」


 ストレートに質問をぶつけてやると、男は慌てた様子でバイクを停車させるとこちらに振り向く。


「ちょ、ちょっと待て。ニート? 何を言ってる? アンタ、ヒーローじゃないのか? 桃太郎って、ヒーローとしての名前だろ?」


「いや、吉備桃太郎。純然たる拙者の本名で、ヒーローではなくニートだ」


 拙者の返事を聞いた男は僅かに呆然とした様子を見せるが、すぐに正気を取り戻す。


「……ま、まあそうか。そういう名前の人もいるよな。いや、名前はもうどうでもいい。何でニートが危険に首を突っ込もうとしてるんだよ。同じヒーローだと思ったから乗せて――」


「町で暴れている奴等とはちょっとした因縁がある。安心しろ、そっちが拙者の邪魔をしなければ此方も邪魔はせん。……さっきから拙者ばかり質問に答えているのは不公平だな。此方の質問に答えてもらおうか」


 何か面倒な事を言いそうだったので、拙者の事情を早口で捲し立てて煙に巻いてやる。


「……そ、それもそうか? でもなあ……うーん。まあ、名乗るくらいなら問題無いか」


 男は拙者から視線を外して僅かに悩んだ後、顔を上げて此方に向き直る。


「俺はブレイズライダー。ヒーローだ」

次回作

GUH4 ブレイズライダー ―氷罰の執行者―

12月25日12時より投稿開始



そして


桃太郎は帰ってくる


GUH5 来春投稿開始予定

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