EPISODE1 ファントムピーチ(3)
「そろそろ用事を話してくれると助かるのだが、そのつもりはないようだな」
拙者の問いかけに答える事なく、三人の男が動く。
トンファー男がクルクルと回していたトンファーがスッポ抜けて周囲の男に当たり、鉄球男の振り回す鉄球が店の内装を破壊し、その瓦礫が散乱して店中に散らばり、周囲の男達に刺さる。
「フン!」
筋骨隆々の男が気合を入れると同時に着ていたシャツが破れ、ボタンが弾け飛び周囲に散乱し、周りの男達に当たる。
……何をやっているんだ、こいつら。
内心呆れながら峰打ちで三人の男達を気絶させると、店の中に残っている男達に標的を変える。
「に、逃げろ!」
悲鳴を上げて逃げ惑う男達の前に立ち塞がり、一人、また一人と着実に気絶させる。
……今度は、先程テンバイヤーに仕掛けた時とは違い、本当に峰打ちで済ましている。
ここに来る途中で峰打ちがどんな物なのか調べた甲斐があったな。
店内にいる男達を気絶させ終えた拙者は、元々座っていたカウンター席へと向かう。
「店主、何があったのか教えてくれるか? 拙者は何故アイツ等に狙われた?」
「お客さんが賞金首として手配されてるからですよ。これ、注文の料理です」
カウンター席に座りながら店主に問いかける。
店主は先程まで騒然としていた店内の様子を見ていたにも関わらず冷静に返事をすると、料理と拙者の顔が書かれた手配書を差し出してくる。
「いただきます」
出された食事を頬張りながら、カウンター上に置かれた手配書を眺める。
……賞金百万円か。
中々の金額だが、賞金首になるような奴は余程の悪事を働いているか、他人から恨みを買うような奴と相場が決まっている。
そのどちらでもない拙者に賞金をかけたのは、一体どこのどいつなのだろう?
このタイミングで手配をかけられたというのは、やはり先程の赤肌の角男達と何か関係があるのだろうか?
……知るべき事が増えた。
「うん、中々の味だ。店主、拙者が襲われた理由はわかったが、お主は何故拙者を襲わなかった?」
「私の仕事は料理と情報を提供する事です。それに、互いの力量差はわきまえています」
……前々から思っていたがこの店主、只者では無いな。
店主の素性も気になるが、今は自身の目的を優先しよう。
「そうか、それなら仕事をしてもらおうか。教えてもらいたい事は二つ。赤い肌に角を持った男達の情報と、拙者を手配した奴等が何者かだ」
「……貴方を手配した者達と、赤い肌の男達は恐らく同一の組織でしょう」
店主はそう言って、一枚の紙切れを差し出してくる。
その紙切れ……名刺には『秘密結社鬼ヶ島』という会社の名前と住所、電話番号が記されていた。
……そのまんまな名前だな。
名刺をポケットに仕舞うと、食事を終えて席から立ちあがる。
「ご馳走様。これは食事と情報の代金だ」
財布から十枚程のお札を取り出して店主に渡すと、店主はお札の枚数を数えてから一度だけ頷く。
「先程暴れた所為で発生した店の修繕代は、そこら辺で寝ているアホ共から徴収しておいてくれ。情報、感謝する」
店主に礼を言うと、紙切れに記載されていた住所を目指す為に、店を後にする。
「……さてと」
スマホを取り出すと、紙切れに書かれていた電話番号をダイヤルして電話をかける。
……何回かダイヤル音がした後、通話相手が口を開く。
『お電話ありがとうございますオニ。こちら、秘密結社鬼ヶ島ですオニ。誠に申し訳ございませんオニが、只今の時間はご案内申し上げておりませんオニ。折り返し御連絡致しますオニなので、大変お手数ですがピーっという電子音の後に、お名前、ご連絡先、ご要件をご伝言くださいオニ。ピー』
……本当は直接言いたかったのだが、仕方ない。
「拙者、吉備桃太郎と申す。明朝、御社におじいさんとおばあさんの仇討に向かうので、宜しくお願いいたす」
宣戦布告を伝言に残して通話を切る。
態々襲撃予告をするのはどうかと一瞬思ったが、拙者は奴等とは違う。
非戦闘員を逃がす猶予位は与えてやろうではないか。
……さて、寝床はどうするかな。
「たのもー! 拙者、昨晩連絡した吉備桃太郎と申す。予告通り、仇討に参った!」
翌日、鬼ヶ島の面々に拙者が到着した事を伝える為に正門前で高らかに名乗りを上げる
……しかし、返事がない。
仕方なく正門を乗り越えて、敷地内へと足を踏み入れる。
どうせなら奇襲をかけても良かったのではないかと考えたが、何度も言うように拙者は奴等と違う。
正々堂々、仇討を果たしてやる。
そう決意した時、拙者の頭上に影が差した。
「おらぁ!」
拙者が飛び退いた一瞬後、先程まで拙者が立っていた場所に一人の女が降り立つ。
「お前が脅迫犯だな! 待ちくたびれたぜ!」
女の外見は外はねのミディアムヘアー、へそが見える位丈の短いシャツと太ももの露出したショートパンツ。
活発を通り越してワイルドな印象を抱くが、何よりも目を引いたのは拳に装着された金属製のかぎ爪だった。
「……いきなり襲撃とは、卑怯だと――!」
爪女は拙者の声に耳を貸す事なく、突撃しながら腕を振るいかぎ爪で拙者を切り裂こうとする。
容赦なく振るわれるかぎ爪を躱しながら、拙者は女に再び声をかける。
「……碌に人の話も聞かないのは、人としてどうかと思うぞ」
「五月蠅い! 自分から時間指定しておいて大遅刻かました奴に人の道理を問われたくない! もうすぐ陽が暮れるぞ!」
爪女の言う通り、既に日は暮れようとしており、周囲は薄暗くなってきている。
……昨晩、公園で野宿をして目が覚め時には既にお昼過ぎだった。
どうせ遅刻するのは確定だろうし、昨日は風呂に入れていなかったのを思い出した拙者は近くの銭湯で身を清め、カフェで珈琲を嗜みながら遅めの朝食を済ませて名刺に記載されていた鬼ヶ島の所在地まで移動を開始した。
……誤算だったのは、予想以上に会社までの距離があったという事か。
「少し申し訳ない気はするが、お主等のやっている事に比べれば些細な事だと思うぞ」
「生憎、アタシ達は雇われの用心棒。金さえもらえれば、この会社が何をやっているかなんて、知ったこっちゃないよ!」
拙者の一部の隙も無い正論を聞いて、爪女はまとも反論する事もできない。
爪女は恐らく悔し紛れに、恐るべき速さでかぎ爪を突き立てようとする。
すかさず刀を抜きかぎ爪を受け止め、かぎ爪を弾き飛ばそうと力を込めるがビクともしない。
「アタシの爪を初見で受け止めるなんて、中々やるじゃないか!」
「お主こそ、中々やるではないか」
……速さは申し分ないし、力も強い。
例えば酒場にいたようなチンピラでは何人いようが彼女の相手にもならないだろう。
しかし、相手が悪い。
「なっ!」
刀を手放すと同時に地面を蹴り飛ばして跳躍。
力の均衡が崩れた事でつんのめっている爪女の頭上を飛び超え、背後から手加減して蹴り飛ばす。
「……女を斬る趣味は無い。それに、自身の力に慢心しているようではまだ二流。ここは通らせてもらうぞ」
地面に落ちた刀を手に取りながらそう言う拙者に対し、顔から地面に突っ込んだ爪女はすぐさま起き上がって口を開く。
「アタシが二流? そう言うアンタだって、たった一回の鍔迫り合いを制した位で、油断したね!」
拙者が油断だと?
「……油断というのは二流がやる事。拙者のような一流は油断しない!」
「ウッホォォォ!」
突如として突っ込んできた黒い影を躱しながら彼女に向けて一流とはどういう事か教えてやりつつ、突如として割り込んできた爪女の仲間であろう黒い影を見据えた。
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