EPISODE5 鬼ヶ島の逆襲(3)
「パイロットはいないのか。無人操縦か?」
ヘリコプターの中には拙者達四人しか乗っておらず、操縦席には雉鳴が座っている。
「このコプカン社製ヘリコプターにはオートパイロットが搭載されている。流石に戦闘は無理だけど、座標を指定すれば人間無しでも動いてくれる。……俺一人ならこいつを使う必要も無かったんだがな。……よし! 離陸するぞ!」
操縦席で何やら色々な機器を弄りながら、無人で動かせる事を態々説明してくれた雉鳴が合図すると同時にヘリコプターが離陸。
拙者達は空に浮かぶ要塞への侵入を開始する。
「……こいつで近づくのはいいけどさ、どうやって着陸するんだ? 奴等が簡単に侵入させてくれるとは思えないんだけど」
ヘリコプターの中から要塞の様子を伺っていた犬神が疑問を呈し、拙者も一緒に様子を伺う。
……成程、ヘリコプターが着陸できそうな甲板は幾つか存在するが、いずれの場所も鬼達が忙しなく動き回っており、まともに着陸するのは難しそうだ。
そもそも要塞の外壁には対空火器が装備されており、普通に近づいては蜂の巣にされてしまうだろう。
「雉鳴、奴等に気付かれないように高度を目一杯上げて、要塞の――」
『アー、アー、マイクチェック。アー、アー』
雉鳴に指示を出そうとするが、刻一刻と市街地へと近づいている要塞から聞こえてくる大音量の声に搔き消されてしまう。
『ゴホン! 愚かな人間共に告ぐ! 我らは秘密結社鬼ヶ島! 今日この時より、貴様等人間には我らの支配下に入ってもらう!』
「……随分とまあ、使い古された脅し文句ですウホ」
「……子供向けのアニメや漫画でも、もっとマシな文言を考えるぞ」
鬼ヶ島のチープな宣戦布告に犬神とゴリバッカ殿が呆れ果てる中、要塞の対空火器が全て此方に向けられている事に気付き、声を張り上げる。
「雉鳴! 上昇しろ! 狙われているぞ!」
『抵抗しようと思うな、人間共。今から我らに反抗する者達がどうなるか、周囲を飛び回っている鬱陶しいコバエを使って見せてやろう!』
拙者の指示が早いのか雉鳴の腕が良かったのか、あるいはその両方か。
対空火器から放たれた弾丸の雨を間一髪で躱して上昇する。
しかし、対空火器は要塞の至る所に設置されている。
上昇していくヘリコプターを補足した火器が火を噴き、着弾の振動によってヘリコプターが激しく揺らされ装甲が剥がれ落ちる。
「くっ……こいつでどうだ!」
雉鳴がヘリコプターからミサイルを発射して要塞の破壊を試みるが、要塞へと届く前に銃弾の雨霰に晒され空中で爆発してしまう。
……損害を与える事はできなかったが、時間は稼ぐことができた。
奴等の注意がミサイルに向いている隙に、要塞へと近づいて着陸できそうな甲板の上空まで辿り着く。
「う、うわっ!? 扉が取れた!?」
「この機体はかなり頑丈な筈だが、流石にこの対空砲火じゃ長くは持たないか……」
しかし、ミサイルによる陽動も長くは持たない。
ヘリコプターへの攻撃は熾烈さを増して機体が次々と損傷していき、犬神が叫んだ通り扉まで外れてしまった。
「ここまでか! 下の甲板に着陸――うおっ!?」
ヘリコプターは限界に達したと判断して甲板に着陸するように促そうとするが、要塞から放たれたミサイルが着弾し、ヘリコプターが大きく揺れた事で指示が中断されてしまう。
「きゃあっ!」
おまけに機体が振動によって傾いた事で、扉のあった場所から犬神が外へと投げ出されてしまう。
「待てっ!」
どうせ脱出する必要がある。
放り出された犬神の後を追い、拙者も空中へと飛び出す。
先に外に出た犬神に追いつく為、外に出ると同時にヘリコプターを蹴り飛ばして勢いをつける。
「掴まれ!」
拙者が差し出した手を犬神が掴み彼女を引き寄せて小脇に抱えると、空いている手で刀を抜く。
甲板にいる鬼達の銃撃や対空砲火を刀を振り回して斬り払い、甲板へと華麗に着地を決め、抱えていた犬神をその場に降ろしてやる。
「……た、助かった。ありがとう」
「犬神! さっさと立て! 敵は多いぞ!」
甲板上に座り込んで呆けている犬神に発破をかけながら、周囲の鬼をバッタバッタと斬り倒す。
「あ、ああ! わかってる!」
我に返った犬神は立ち上がり、迫る鬼達を拙者と協力して斬り伏せていく。
しかし、ここは敵の本拠地。
幾ら鬼を倒しても、後続が次々と湧き、拙者達を追い詰める。
「落ち着けばなんて事ないオニ! 数はこっちのほうが圧倒的に多いから、囲んでしまえば――」
鬼の中の一匹が仲間の指揮をとろうとするが、突如として頭上から降ってきた影によって哀れにも圧し潰されてしまう。
「お二人とも、無事でしたかウホ」
鬼の頭上に着地したゴリバッカ殿は、周囲の鬼を蹴散らしながら拙者と犬神の元へ駆け寄ってくる。
「ゴリバッカ殿も無事だったか。雉鳴は――」
「貴様等! よくも仲間をやってくれたオニ!」
雉鳴の所在をゴリバッカ殿に問おうとするが、鬼の叫びによって拙者の声はかき消されてしまう。
鬼の声が聞こえた方向へと注目するとそこには、両腕にガトリングを配した装甲服を身に纏う鬼の姿があり、その照準を拙者達に向けていた。
「仲間達の仇! このガトリングで蜂の巣に――」
……鬼にとっては残念だろうが、ガトリングが火を噴く事は無かった。
上空から墜落してきたヘリコプターに巻き込まれ、鬼は装甲服諸共爆発炎上する。
「狙いはバッチリだったな」
「ああ、助かった」
拙者の背後に降り立ち、声をかけてきた雉鳴へと返事をする。
ヘリコプターが鬼の上に墜落したのは偶然ではなく、雉鳴が狙って落としたようだな。
「こ、こんな奴等の相手をしていたら、命が幾つあっても足りないオニ! 街の制圧を優先するオニ!」
「ま、待つオニ! 俺達も行くオニ!」
パラシュートを背負った何匹かの鬼が甲板から地上目掛けて落下すると、他の鬼達も我先にと甲板から逃げ出そうとする。
「待て! 一匹たりとも逃がさん! 街の奴等は割とどうでもいいが拙者の宿命の為、お主等を斬る!」
「……私怨全開なのはどうかと思う。まあ、それは兎も角このまま逃がす訳ないでしょ!」
「ウッホホォ!」
拙者と犬神、ゴリバッカ殿は逃げ出す鬼の追撃にかかろうとするが、雉鳴が拙者達を制するように行く手を遮る。
「……何のつもりだ? 邪魔をするというのなら――」
「そう怖い顔せずに話を聞け。地上に降りた戦闘員は俺の仲間が対処してくれる。俺達は要塞の制圧を急ぐぞ」
雉鳴の仲間……やはり、忍者なのだろうか?
地上で忍者達が鬼の大群を屠る光景を想像してしまい、思わず吹き出しそうになるのを何とか堪えながら雉鳴に問いかける。
「お主の仲間は強いのか? 幾ら鬼どもがそんなに強くないとはいえ、相応の実力が無ければあの数を処理するのは難しいぞ?」
「フフフ……心配するな。彼らの実力は、俺が保証する」
拙者の問いかけに、雉鳴は不敵に笑いながら返事を返す。
どうやら仲間の実力に余程自信があるようだ。
「お主がそこまで言うのなら問題は無いな。よし、要塞内に突入するぞ!」
雉鳴に向けていた刀を収めると要塞への入り口となる場所を探して周囲を見渡し、視界に入った手近な扉へと歩み寄り、扉に手をかけた。
今回の話を読んでいただき、ありがとうございます。
ブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいですが、読んでもらえるだけでとても嬉しいです。
毎週日曜の昼十二時の投稿になるので、次回も読んでもらえると筆者は喜びます。




