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EPISODE5 鬼ヶ島の逆襲(2)

「……何というか、運が極端に悪いのか? いや、企業を見る目が無かっただけか? ……まあ、そう気に病むな。きっと良い事がある、多分」


 今の犬神に励ましの言葉など無意味だろうが、あまりにも哀れで何か言葉をかけてやらずにはいられない。

 しかし、犬神は拙者の励ましを受けても床に崩れ落ちたまま微動だにしない。

 これは重症だな。


「そ、それにしても、拙者と犬神にそんな奇縁があったとはな。雉鳴も同じ会社をマークしていたという繋がりがあったし、ひょっとしたらゴリバッカ殿とも意外な繋がりがあるかもしれないな」


「……ハハハ、それはありませんウホ。桃太郎さんみたいに強烈な人に出会っていたら、絶対に記憶に残っていますウホ」


「……それもそうだな! ハッハッハッ!」


 空気を変えるべく、ゴリバッカ殿へと話しを振ってみる。

 ゴリバッカ殿は此方に振り返る事なく返事を返し、陸地を目指して運転を続ける。

 ……ゴリバッカ殿の言う通り、拙者も喋るゴリラに出会っていたら、間違いなく記憶に残っていただろうな。


「いや、ゴリバッカの話を聞く限り、お前ら昔に会ってるよ……」


 床に崩れ落ちていた犬神は顔を上げ、ボソボソと力無く何かを呟く。


「どうした? 何かあったのか?」


「……いや、何でもない。少し疲れたから横にならせてもらうよ」


 犬神はそう言って立ち上がると、潜水艇内に据え付けられた長椅子の元までフラフラと歩き、椅子の上で力無く横たわる。


「……そういえば、鬼達に捕まってからずっと戦い詰めだったな。疲れるのも無理はないか」


「多分、原因はそっちじゃないと思う。……そんなことよりも桃太郎、お前はこの後どうするつもりだ?」


 ……ふむ。

 次の目的地の手掛かりとなる亀鬼を逃がした以上、鬼ヶ島の次なる拠点を探す手段は無くなってしまった。

 だからといって、ここまで暴れまわった以上、今更諦めるつもりなど毛頭ない。


「無論、鬼達を滅ぼすまで拙者の戦いは続く。それに拙者が戦いを止めた所で、向こうが拙者の命を狙って来るだろうな」


 拙者の言葉を聞いた雉鳴は暫くの間、何かを考えるかのように黙っていたが、やがて口を開く。


「確か、奴等の転売業を潰して恨みを買ったと言ってたな? ……さっきアンタが襲撃したと名前を挙げた企業は、その全てに鬼ヶ島が――」


「偶然でござる。暇潰しに荒らしまわった悪徳企業全てに鬼ヶ島が関わっていたなんて、不思議な事もあるでござる」


「……まだ最後まで言い切ってなかったんだがな……そう言う事にしておこうか」


 拙者の完璧な言い訳に、雉鳴は黙って此方の言い分を認めざるを得ない。

 雉鳴は先程ハッキングに使用した端末を取り出し弄り始め、拙者は刀の手入れを始めた事で沈黙が潜水艇の中を支配し、時間は過ぎていく。


「皆さん、そろそろ陸地が近いですウホ。船から降りる準備をしてくださいウホ」


 数十分続いた沈黙は、ゴリバッカ殿の声によって破られる。


「了解した。おい、犬神、そろそろ地上だ。目を覚ませ」


「……ああ、うん、わかった」


 拙者に声をかけられた犬神は眠たそうに目を擦りながらも上体を起こし、眠気覚ましに背伸びを始める。

「浮上完了まで後少し――ウホ!?」


 ゴリバッカ殿が潜水艇を水面近くまで浮上させた瞬間、潜水艇が強く揺らされ、振動が拙者達を襲う。

 暫くして潜水艇内の揺れが収まると同時に、犬神が口を開いた。


「な、何だ!? 今、何が起こったんだ!?」


「わ、わからないウホ! 兎に角、浮上を完了させますウホ!」


 ゴリバッカ殿が潜水艇の浮上を完了させると、潜水艇上部のハッチが開かれる。

 潜水艇から下船し、近くの砂浜に上陸した拙者達四人。

 暖かい陽の光が出迎えてくれると思ったが、どうやら生憎の曇り空のようで辺りは薄暗く、人気が無い事もあってどことなく寂しい雰囲気だ。

 先程の揺れもあって警戒のために周囲を見渡している内にある違和感に気付くと、雉鳴へ声をかける。


「雉鳴、今何時だ? 後、ここいらの天気を調べてくれ」


 拙者の問いかけに答える代わりに、雉鳴はスマホを取り出して弄り始め、暫くするとその表情は訝し気なものへと変化する。


「昼の十二時。ここいらの天気は雲一つない快晴らしい」


「は? それ、おかしくない? 快晴なら、何でこんなに薄暗い――」


 不思議そうに天を仰いだ犬神は、喋っている途中で言葉を失う。

 拙者も同じ様に天を見上げ、犬神の視線の先にあるであろうソレを指差し、口を開く。


「アレが原因だろうな。天気が晴れの癖に薄暗いのや、さっきの揺れは」


「……な、なんだよ、アレ」


 見た目からして重厚感に溢れる巨大なそれは、まさに巨大要塞と呼ぶに相応しい。

 その巨大要塞が拙者達の頭上に浮かんでいるのだから、犬神がいつものように五月蠅く叫ばず、ただ茫然としているだけなのも無理はない。


「俺が鬼ヶ島の奴等に捕まっていたのは、連中が造っている新兵器の情報を得る為だった。多分、アレがその新兵器なんだろうが……まさか、鬼ヶ島如きがここまでの物を造っていたとは」


「……ちょっといいですかウホ? 私の見間違いでなければあの要塞、動いていませんかウホ?」


 ……ゴリバッカ殿の言う通り、空中要塞はある方向に向け、少しづつだが動いている。


「あの要塞の動いている先、何がある?」


「不味いな。多分、この辺りで一番人口の多い都市部に向かってやがる……クソッたれ! 何をやろうとしているのか知らんが、絶対に碌な事にはならねえ」


 拙者の疑問に答えた雉鳴は、悪態をつくとスマホを耳に当て、どこかへと連絡を取り始める。


「……さて、どうやってあの要塞を落としたものかな」


「お前がそういう奴だっていうのはもう知ってたけど、敢えて言わせて。……正気? どう考えてもアタシ達の手に負える規模じゃないよ!」


 犬神の言う通り、今までとは規模が違うのはわかっている。

 しかし、拙者の中でそれは諦める理由になり得ないのだ。


「例えお主に何と言われようとも、拙者は止まる事はできん。必ずや鬼ヶ島を滅ぼすのが、拙者の宿命だ」


「……まあ、そういう反応になるのはわかってた。だけど、どうやって要塞に侵入するつもり? 流石にごり押しじゃ無理でしょ?」


 ……拙者は犬神の疑問に答えず、その場で身体を動かしてウォーミングアップを始める。


「……おい、何をやろうとしてる?」


 充分に身体が暖まった所で、拙者は勢いよく走り出す。

 脱兎の如く駆け抜けて、そのスピードが最高点に達すると同時に、大地を蹴って空中に浮かぶ要塞を目掛けて跳躍する!

「……うん。充分頑張ったのは認めるよ。普通の人間じゃ、そこまで高く跳ぶのは無理だ」


 地面から三メートル程の高さまで跳ぶ事はできたが、地球の重力は強大だった。

 拙者の身体は自然の摂理に従い、地上まで引きずり降ろされてしまう。


「駄目だったか。……こんなことになるのなら、配管工にでも就職しておけばよかった。そうすれば、あの要塞へも容易に辿り着けただろうに……」


「桃太郎さん、多分、貴方が想定している配管工は普通の人間ではないと思うウホ。配管工に就職するだけでは、あの高さまで辿り着くのは無理ウホ」


 悔しがる拙者にゴリバッカ殿は冷静に突っ込みを入れてきて、犬神にはツッコミすら放棄されてしまう。

 どうしようもないと誰もが諦めたと思った時、通話を終えた雉鳴が口を開いた。


「要塞に乗り込むつもりなら、暫く待ってろ。足は用意できた。……到着したらすぐに発つ。今の内に覚悟を決めておけ」


 雉鳴はそう言うと、どこから取り出したのか分からなくなる程多数の武器を地面に広げ始め、要塞襲撃に備える。


「……だそうだ。拙者はとっくの昔に覚悟を決めているが、犬神とゴリバッカ殿はどうする? ここで降りても、責めはしない」


 拙者は犬神とゴリバッカ殿にそう告げると、遥か上空の要塞を眺める。

 雉鳴のように多数の武器は持ち合わせてないうえ、唯一の得物である刀も潜水艇の中で手入れ済み。

 乗り込む準備はバッチリという訳だ。


「……ここまで付き合わせておいて、それはないぜ。アタシも最後まで一緒に戦うよ。ゴリバッカ、アタシが行くからってアンタは無理に付き合う必要ないからね」


「ウホホ。ご心配いりませんウホ。ここまで関わってしまった以上、最後までお供させてもらいますウホ」


 ……彼らがこれ以上関わりたくないというのならそれでも良かったのだが、まさか二人とも最後まで付き合ってくれるとは。


「雉鳴、全員覚悟は決まった。後どの位で足は到着する?」


「……来たぞ」


 雉鳴の指さす方を見ると、空の彼方から黒い影がプロペラの駆動するけたたましい音と共に此方に近づいてくる。

 黒い影……ヘリコプターが吹き荒ぶ強風を伴い砂浜へ着陸すると同時に、既に開け放たれていた搭乗口に雉鳴が飛び乗ると、拙者達もそれに続いた

今回の話をを読んでいただき、ありがとうございます。

ブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいですが、読んでもらえるだけでとても嬉しいです。

毎週日曜の昼十二時の投稿になるので、次回も読んでもらえると筆者は喜びます。

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