EPISODE4 新たなる仲間(5)
「おい桃太郎。どういう事だ? お前、雉鳴が死んだって言ったよな?」
「拙者、雉鳴が消えたとは言ったけど死んだなんて一言も言ってないでござる。お主が何か勘違いしてるなとは思ったけど、敵を騙すには味方からというし悪いが利用させてもらったでござる」
「成程、そういう事か。……信じて良いんだよな? アタシに黙っておいた方が面白そうだなんて考えてた訳じゃないんだな? ……おい、なんで視線を逸らす? ちゃんと目を合わせろよ!」
犬神は拙者の襟首を掴むと、がくがく揺さぶりながら詰問する。
……自分で答えを出せているのだから、態々拙者に聞く必要もあるまいに。
「お、おのれ……このお『シルトクレーテ』が、まさか破壊されるなんてカメ……絶対に許しませんカメ!」
……どうやら、あまり漫才を繰り広げている時間もないようだ。
しぶとい事にあの爆発から生還していた亀鬼が、破壊された装甲服の中から這い出て装甲服に残されていた装備の甲羅を引っぺがすと、自らの腕に取り付けて拙者達と相対する。
「絶対に許さないというのは此方の台詞。ここでお主に引導を渡してくれる!」
襟首を掴んでいた犬神を振り払うと、刀を構えて亀鬼目掛け突撃するが、亀鬼は腕に取り付けた甲羅で拙者の刃を防ぐと、懐から拳銃を取り出して拙者に照準を定める。
「させない!」
「カメ!?」
亀鬼の持つ拳銃が火を噴くよりも早く、犬神がかぎ爪で拳銃を持った腕を切り裂くと、亀鬼は痛みに悲鳴を上げてその場に拳銃をとり落とす。
亀鬼が怯むと、拙者は刀を持つ手に力を込めて甲羅を弾き飛ばし、返す刀で亀鬼を斬り付ける。
「グゥッ……」
そして、更に怯み片膝を地に着いた亀鬼を雉鳴が蹴り飛ばして床に転がすと、そのまま亀鬼に馬乗りになり、その首筋にクナイを突き付けた。
「これで詰みだ。さあ、お前の知っている事を洗いざらい話してもらおうじゃないか」
「ククク……カーメカメカメカメ!」
絶体絶命の状況だというのに、亀鬼は雉鳴の問いに答える事なく狂ったように笑いだす。
「何がおかしい? 狂った振りをして逃げようなんて考えても――」
「貴方達が私から情報を聞き出せたとして、何の意味も無いという事に未だに気がついてないのが可笑しくてたまらないんですよカメ。……貴方達、ここがどこかわかっていますカメ?」
ここがどこかだと?
……言われてみれば、最初に捕まった部屋には窓が無く、外の様子を確かめる事が出来ていないのを思い出す。
そういえば、この施設に窓はあったか?
……いや、窓自体は存在していた筈だ。
しかし、どこも一様にシャッターが下げられており、外の景色を拝むことは叶わなかった。
この部屋のシャッターも他の部屋と同様で、外の様子を伺い知る事はできない。
「その様子だと、わかってないようですねカメ!」
亀鬼は指を鳴らすと、窓のシャッターが上がり、外の景色が明らかに……ならなかった。
拙者達の目の前に広がった外の景色は、一面の暗闇。
結局ここがどこかという答えの出ないまま時間だけが過ぎていくように思えたが、突如として建物内に轟音と振動が響き渡る。
「何だ!? 今の音!」
「知りたいカメ?」
……どうでもいいが、雉鳴に馬乗りにされている状態では亀鬼が如何に格好をつけようとも情けなさの方が勝るな。
「ここは水深千メートルの地点に作られた海中基地カメ。そして、先程の私の合図によってこの基地は自爆シークエンスに入ったカメ。この基地に配備されている潜水艇は全て、鬼達が脱出に使っている筈ですカメ。貴方達は、私と一緒にここで――」
拙者が考えている事を知りもせず、朗々と喋り続ける亀鬼。
その横っ面を雉鳴が思い切り殴りつけて気絶させると、立ち上がり口を開いた。
「脱出するぞ。まだ残っている潜水艇があるかもしれん」
「……無駄かもしれんが、やれるべきことはやるべきか。異論はないが、その男も連れて行くのか?」
雉鳴によって拘束され、彼に背負われた亀鬼を指差し問いかける。
「こんなのでも、貴重な情報源だからな。それに戦闘は終わった。助けれる奴は助けてやるさ」
「中々にまともな倫理観だ。犬神、お主も見習うべきではないか?」
「何でアタシにそれを言う――おい、待てよ!」
亀鬼はこの拠点を爆破させると言っていた。
こんな所で無駄話をしている暇はないので、雉鳴と共にさっさと廊下に脱出した拙者を犬神が喚きながら追いかけてくる。
「俺についてこい、潜水艇のある場所まで案内する」
男一人を背負っているとは思えない程に速く走る雉鳴の後を追い、拙者と犬神も全力で廊下を駆け抜ける。
時折基地内に響く爆音や振動を気にも留めずに走り抜け、やがて拙者達は開けた場所に出る。
どうやら格納庫の類のようで、作業していた鬼達が慌てて逃げ出したらしく、床には工具や機械の部品が散乱している。
「奥だ! まだ一隻、潜水艇が残っているぞ!」
格納庫の最奥。
幸運な事に、一隻の潜水艇が水面に浮いているのが視界に入る。
「うぅ……ここは? ……ば、馬鹿な! まだ潜水艇が残っていたカメ!? 予算が無いから基地の人員分を計算して最低限の数だけを用意していたというのにカメ!?」
気がついた亀鬼が状況を把握すると同時に、自身が想定していなかった状況に慌てふためき始める。
……拙者達が暴れたうえに、亀鬼自身も鬼達を巻き込んでいたのだからその分余裕ができるのは当たり前だろう。
「起きたか。命だけは助けてやるから少し黙ってろ」
雉鳴が背中の亀鬼に警告するなか、犬神が訝し気な表情を浮かべて口を開く。
「……ちょっと、出来過ぎじゃないか? ひょっとして、この潜水艇は罠なんじゃないの? 中で鬼が待ち伏せしているとか、潜水艇自体が壊れているとかさ」
……犬神の疑念は尤もだ。
だが、他に道が残されていないのも純然たる事実。
「……乗り込むぞ。あの潜水艇を使う以外に道は――」
警戒して武器を構えた犬神に声をかけた瞬間、潜水艇上部のハッチが、まるで拙者達を招き入れるようにゆっくりと開く。
拙者も刀を構え、犬神と二人でゆっくりと潜水艇へと近づいていく。
そして、潜水艇まで残りわずかとなった所で、潜水艇の中から黒い体毛に包まれた人影が姿を表した。
「犬神さんに桃太郎さん、無事ですかウホ?」
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