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EPISODE1 ファントムピーチ(2)

「おじいさん!? 一体何があった! 誰がこんなことを!」


 ゲーム機とリュックサックを床に置いておじいさん元へと駆け寄り、生首を持ち上げながら問いかける。

 勿論その目に光は宿っておらず、当然のように返事もない。

 ちゃぶ台の上におじいさんから漏れた液体が滴り落ちるだけだ。


「何故だ……。何故、こんなにも惨い事を……」


 あまりの惨状におじいさんの頭を抱きしめながら俯くと、おじいさんとの思い出が脳裏に蘇る。

 初めておじいさんに稽古をつけてもらった日、ボコボコにされた。

 おじいさんと一緒に遊んだ対戦ゲーム、ボコボコにされた。

 日頃の訓練の成果を確かめる為に武闘大会に出た後の反省会、案の定ボコボコにされた。

 

「……桃太郎や、帰ってきたのかい」


 奥の部屋から聞こえてきた声に顔を上げてそちらを見ると、傷だらけのおばあさんが床に横たわっていた。


「おばあさん!」


 拙者はおじいさんの頭を放り投げると、おばあさんの傍まで駆け寄り抱え起こす。


「酷い怪我だ……一体、だれがこんな事を!」


「……鬼じゃ、鬼達が急にやってきて、おじいさんは抵抗する間も無くやられてしまったんじゃ。私は何とか抵抗して追い返すことができたが、しくじってしまってこの様だよ……」

 

 まさか、先程拙者が壊滅させたテンバイヤー達か!

 ……こんな短時間で拙者の身元を特定してくるとは、なんて情報網なんだ。


「も、桃太郎。頼んでいた物は買ってきたかい?」


「……ああ。だけど、今はそんな事を言ってる場合じゃあない。早く治療しなくては」


「いや、私は大丈夫。それよりも、必要な物を持って早くここから逃げるよ!」


 そう言うとおばあさんは立ち上がり、更に奥の部屋へと消えていく。

 ……おばあさんには何を言っても通じないだろう。

 今はおばあさんの言う事に従うしかない。

 しかし、必要な物か……やはり、あれしかあるまい。

 拙者は自分の部屋へ戻ると、飾ってあった刀を手に取る。


「……このヒルマウンテンセーバーで、おじいさんの仇を討つ。……殺気!?」


 刀を見つめながら決意を固めた瞬間、殺気を感じた拙者は家を飛び出す。

 そこには身の丈二メートルを超える鬼の姿があった。


「おいお前、ここから出てきた所を見るに、この家の人間だなオニ? 部下たちを――!」


 先手必勝。

 ヒルマウンテンセーバーに手をかけ、鬼に近づく為に駆け出す。

 ひょっとしたら特徴的な外見をしている一般人かもしれないが、そんな事は後で考えればいい。

 鬼に接近すると刀を抜いて斬りつけるが、鬼は手に携えた金棒で刀を受け止めてきて、鍔迫り合いになる。


「まだ話をしている最中だオニ! いきなり切りかかってくる奴がいるかオニ!?」


「そんな事、拙者が知るか。どうせお主は家を襲撃した鬼達の仲間。話を聞く必要など無い!」


 刀を持つ腕に力を込めて金棒を弾き飛ばし、返す刀で鬼を斬りつける。

 斬り裂かれた鬼の身体から血が噴き出ると同時に、鬼は地面に膝を着く。

 ……傷は深く動く事はできないだろうと思うが、一応牽制はしておこう。

 倒れた鬼に刀の切っ先を突き付ける。


「安心しろ、峰打ちだ。しかし、次に動くと斬るぞ」


「お、お前、峰打ちの意味わかってんのかオニ!? どう見てもスッパリと斬れてるオニ!」


 ……この鬼、存外に察しが良い。

 恰好良いから一度言ってみたかっただけだというのがバレてしまうとは。


「そんな事はどうでもいい。お主達の目的を話せ! 何の為に襲撃をかけた? 転売を潰された位でこんな事をしたというのか!」


「……お前が何を言ってるのかわからないが、話す訳ないオニ!」


 オニはそう叫ぶと、怪我をしているとは思えない動きで起き上がる。

 容赦なく斬り捨てようとするが油断していた所為で反応が一手遅れてしまい、拙者は鬼に突き飛ばされて地面に倒れこむ。


「ま、待て!」


 呼び止める拙者を振り返る事無く、鬼は家へと侵入する。

 しまった! 奴の狙いはおばあさんか!?

 すぐさま起き上がり鬼を追いかけようとした瞬間、視界が一際明るくなると共に強い衝撃を拙者が襲い、吹き飛ばされてしまう。


「ぐッ……一体何が――」


 再び起き上がり、何が起きたか確認しようとした拙者は言葉を失う。

 ……家が炎に包まれている。

 まさかあの鬼、自爆したというのか!?


「……そ、そうだ! おばあさん!」


 おばあさんはまだ家の中にいる筈だ。

 何とか助けに行こうと試みるが火の手は既に家全体に及んでおり、中に人がいたとしても多分助からない事が一目でわかる。


「……おばあさん、仇は討つ」


 拙者は今もなお燃え盛る家を背にし、必ず襲撃してきた鬼達への仇討を果たす事を誓いながら、我が家だった場所から立ち去る事にした。




 さて、仇討をすると決めたはいいが、襲撃してきた鬼達の情報が一切ない。

 再びテンバイヤー共が拠点に使っていたビルを訪れたが、もぬけの殻になっており何の情報も得られず。

 先程の鬼から何の情報を得られなかったのが、痛手になってしまった。

 鬼から無理やりにでも情報を引き出さなかった事を後悔していると、自分の腹から音が鳴る。


「……情報収集も大事だが、腹ごしらえもしないとな」


 家に帰った直後にあんな事態に遭遇したため、碌に食事もできていない事を思い出す。

 リュックサックは家に置いてきた所為で燃えてしまったが、幸いな事に財布はジャージのポケットに入ったままだった。

 情報収集も兼ねて、近くにある酒場に足を向ける。

 入り口の扉を開けて店内に入ると、柄の悪そうな奴等が酒を飲んで騒いでいる様子が目に入る。


「……いらっしゃい」


 ……拙者の事に気付いて一瞥した初老の店主がそう言うと、店内の男達の視線が一瞬だけ拙者に集まるが、すぐ何事も無かったかのように再び騒ぎ始める。


「店主、何か腹に溜まる物を頼む」


 空いているカウンター席を見つけて座り食事を注文すると、壁に貼り付けられている貼り紙を眺める。

 見ている物はメニュー表……ではなく、人相の悪い奴等の写真と、金額が書かれている紙……所謂、手配書という物だ。

 この酒場では食事だけではなく情報……それも、アングラな物の取引や、表には出せないような仕事の仲介を行っている。

 拙者も食い扶持を稼ぐために時々、賞金首になっているような犯罪者達の情報を得る為に世話になる事があるのだ。

 しかし、今の目的はいつもと違う。

 手配書に載っている犯罪者達の顔を眺めて、先程の鬼を探す事が目的だ。

 ……しかし空振り。

 拙者の求めている情報は、手配書には無かった。


「よう兄ちゃん。隣、失礼するぜ」


 ……この店はアングラな情報を扱っているからか、品の無い客も多くたむろしているのが、玉に瑕だ。

 如何にもなチンピラ然とした容姿の男達が殺気を隠そうともせず、まるで拙者を逃がさないように両隣の席に座ってくる。

 ……この男達だけではないな。

 店内の男達が皆一様に、拙者に向けて殺気を放っている。

 幾らこいつらがろくでなしとはいえ、何の理由も無く殺気を放ってくる訳がない。


「……まどろっこしい事は抜きだ。本題に入れ!」


 拙者がそう言うと共に、両隣の男達が拙者の顔を目掛けて拳を振るう。

 上体を逸らして拳を躱して両隣の男の頭を掴むとカウンターに叩きつけるが、別の男に羽交い絞めにされ席から立たされると壁際まで引きずられてしまい、正面からは酒瓶を振りかぶりながら男が迫る。

 両足で地面を蹴って宙に浮いた後、脚を正面に伸ばして迫っていた男を蹴り飛ばし、その反動による衝撃で羽交い絞めにしていた男を背中と壁でプレスする。

 羽交い絞めにしていた男が気絶した事で自由になった拙者は、周囲を囲む男達を一瞥する。


「本題に入れと言っただろ、いきなり襲い掛かるなんて常識が無いのか?」


「うるせえ! ジャージに刀をぶら下げてこんな所に来る奴に常識を問われたくねえよ! 黙って寝てろ!」


 男の一人がそう叫ぶと共に、周囲の男達が一斉に拳銃を取り出す。

 そして、拙者が刀に手をかけると同時に、発砲音が鳴り響く。

 ……遅い。

 拙者に向けて放たれた弾丸を刀の腹で全て叩き落としながら前進する。

 拳銃を持った男達の脇を拙者が通り抜けると同時に、男達の持っていた拳銃と着ていた服がパンツを残して細切れにしてやる。


「つまらぬものを斬ってしまったか。……いや、その間抜けな面と今の格好は中々に面白いか」


「こ、この野郎! こっちにはまだまだ数がいるんだぞ!」


 情けない姿で逃げ出していく男達の一人がそう叫ぶと同時に、先端に棘の付いた鉄球が付いているチェーンを持った男と、トンファーを両手に携えた男。

 そして、筋骨隆々で上半身に着ている服がピチピチになって今にも破れてしまいそうな男が、拙者の前に立ち塞がった。


オトギウォーズを読んでいただき、ありがとうございます。

今回の話が良かったと思っていただけましたらブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいですが、読んでもらえるだけでとても嬉しいです。

EPISODE1は毎日投稿になります

次回の投稿も明日の昼十二時になるので、よろしければ読んでもらえると筆者は喜びます

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