EPISODE4 新たなる仲間(4)
「雉鳴!」
「ざまあみなさいカメ! この私をコケにするから無様に消え去ったのですカメ!」
尻尾を撒いて逃げ出したとばかりと思っていた亀鬼の声が辺りに響く。
奴は亀の甲羅を模した装甲服を身に纏い、腹部に装備された砲塔からは硝煙が立ち上っている。
この装甲服を用意する為に逃走した振りをしていたという訳か。
「仲間ごと撃つとは……なかなかやるな」
味方の鬼ごと始末するとは、手段を選ばない相手は厄介だ。
……とはいえ、拙者のやるべきことに変わりなし。
刀の柄に手を添え、亀鬼の元まで一気呵成に駆け抜けると、装甲服を破壊する為に刀を振り抜く。
「……何!?」
しかし、拙者の放った刃は、亀鬼の装甲服に届く事は無かった。
「この『シルトクレーテ』の防御は、装甲だけではないカメ!」
装甲の表面に生じ、拙者の攻撃から装甲を保護した光の壁。
一度刀を引くと光の壁は消失するが、追撃の為にもう一度刀を振り下ろすと、刃が装甲に触れる前に再び発生した光の壁によって装甲を傷つける事を阻まれてしまう。
「この光の壁ごと、叩き割ってくれる!」
幾度となく刀を振るい、装甲服の防壁を突破しようとするが、光の壁が砕ける様子はない。
ただ、此方の体力を消耗するだけだ。
「チャージ完了カメ!」
亀鬼から一度離れた瞬間、亀鬼が叫ぶと同時に、腹部の砲塔に光が集まる。
「危ない!」
拙者は亀鬼の動きに構う事無く再び刀を振るおうとするが、突然犬神に横合いから飛びつかれ、二人で床に倒れこんでしまう。
そして、先程まで拙者が立っていた場所を強い閃光が通り過ぎて行った。
「残念、外しましたカメ。次は外しませんカメ!」
「どうした犬神。鬼達の相手をしてくれているんじゃなかったのか?」
拙者の上から慌てた様子で飛び退きながらも、何とか此方に向けて差し出したであろう犬神の手をとり、起き上がりながら問いかける。
「どうしたはアタシの台詞だ! 周りの鬼を全員倒して駆けつけてみたら、どう見ても危ない状態なのに何で避けなかった! それに、雉鳴はどこに行ったの!」
「何をペチャクチャと喋っているカメ!」
此方に近づいていた亀鬼が、拙者目掛けて腕を振り下ろす。
……その動きは遅く、拙者や犬神ならば容易く避ける事ができるだろう。
しかし、拳が床に触れると同時に、床が砕け散る。
当たれば只では済まないな。
拙者と犬神は亀鬼の動きを見逃さないようにしながら、距離をとる。
「……雉鳴は、先程の光線に吞み込まれて消えた」
「嘘!? ……ちょっと待って、そんな攻撃が来ると分かってて避けなかったの!?」
雉鳴が消えたと聞いた犬神は動揺を隠すことができずに狼狽えるが、すぐさま拙者を怒鳴りつける。
「……ああいう手合いは、大体攻撃中は防壁を張れないと相場が決まっている。故に、避けずに隙を伺っていたのだ」
「……今の話を聞いてる限り、アンタは確証も無いのにあんな無茶してたの!? 馬鹿なの!? 死にたいの!?」
真横で罵詈雑言を喚き散らされると、五月蠅くてかなわん。
……面倒だが、仕方あるまい。
「一度だけ説明してやる。奴が背負っているジェネレーター。あのタイプだと、先程の火力の光線のチャージは兎も角、発射中に防壁を展開できるほどの出力はない。だから奴が光線を放つと同時に、攻撃を当てれば防壁を突破して奴の装甲に拙者の刃が届いていた筈だ……どうした? 鳩が豆鉄砲を食らったような顔して」
態々面倒臭い説明をしてやったというのに、犬神は何のリアクションも起こさず、ただ目を丸くして拙者の事を見ている。
「……いや、アンタがそんな知識を持っていたのが、意外過ぎて。……アンタ、本当に桃太郎なんだよな? まさか、アタシが目を離している隙に偽物に入れ替わられたとか――」
「そんな訳あるか。お主、拙者を何だと思っているのだ? 失礼な奴め」
折角拙者が奴の身に付けている装甲服の弱点について解説をしてやったというのに、そんな下らない事を考えていたとは嘆かわしい。
「例えそこまで理解していたとしても、貴方達にこの『シルトクレーテ』の防御は破れませんカメ! そしてチャージ完了! これでとどめカメ!」
正直、格闘戦においては装甲服を着ていないときの方が手強いのではないかと思うほど緩慢な動きの攻撃を躱す。
奴の腹部に光が集まったのを確認して、亀鬼へと斬りかかりながら、犬神へと指示を出す。
「犬神! 拙者が奴の気を引く! お主がジェネレーターを破壊しろ!」
「無駄だカメ! 捕まえたカメ!」
振るった刀を掴まれてしまった事で、拙者は逃げる事が出来なくなる。
このままでは、先程の鬼達同様に光線へ呑み込まれて跡形も無く消えてしまうだろう。
しかし、拙者が囮になっている隙に犬神が亀鬼の背後へと回り込んで飛び掛かる。
「う、嘘!? 防壁が展開した!? 桃太郎、逃げろ!」
ジェネレータの背面に展開した防壁によって、突き立てようとしたかぎ爪を防がれた犬神が声を荒げ、拙者に逃げるように叫ぶ。
「読みが外れましたね。腹部粒子砲を使用していても。一ヶ所ならばバリアーは展開可能カメ! さあ、まずは貴方から地獄に送ってさしあげますカメ!」
砲塔に集まる光が強まり、その目前で逃げ場の無い拙者の命運はまさしく風前の灯と言っても差し支えないだろう。
……だが、拙者達の勝ちだ。
「……読みが外れたのはお主の方。地獄に行くのは其方だ……そうだろう? 雉鳴」
「二人とも、囮の役目ご苦労。上出来だ」
拙者の背後から勢いよく跳躍して拙者を飛び越して、防壁の展開していない亀鬼の頭上からジェネレーター目掛けてクナイを放ち、犬神の襟首を掴んだ男……今まで息を潜めていた雉鳴はその場から離れる。
同時に拙者は刀を掴んでいる亀鬼の腕を蹴り上げ、亀鬼が思わず刀を手放すと同時に後方へと飛び退く。
その瞬間、装甲服のジェネレータが爆発して制御の効かなくなった腹部の砲塔も暴発し、その意味を成さなくなる。
爆発が収まると拙者の隣に雉鳴が現れ、抱えていた犬神を床に降ろす。
「ききき、雉鳴!? お前、死んだんじゃなかったのか!? ま、まさか、幽霊!?」
「……何を言ってるんだ? 今まで隠れて、機を伺っていただけだ。桃太郎は気付いていたと思うが?」
犬神は死んだと思っていた雉鳴が現れた事に動揺し、素っ頓狂な事を口走るが、雉鳴の言葉を聞くと、顔を真っ赤にして拙者の方を睨みつける。
……また面倒な事になりそうだ。
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