EPISODE4 新たなる仲間(3)
先を行く雉鳴を追いかけながら、彼が倒し損ねた鬼を犬神と共に蹴散らして前に進む。
「雉鳴! まだ辿り着かないの?」
「もうすぐ……ここだ!」
痺れを切らした犬神が叫ぶが、雉鳴は此方に振り向く事はなく返事をすると、巨大な扉の前で立ち止まる。
拙者の前を走っていた犬神も同様に扉の前で足を止める。
「お主達、そこをどけ」
声をかけられただけで、二人とも拙者が何をやろうとしたのか察したのだろう。
返事すらせずに、拙者の為に道を空ける。
道を譲られた拙者は扉の前に立ち、刀を抜いて斬りつける。
一度だけでなく、幾度にも渡って刀を振るい、頑丈な扉に次々と傷を増やしていく。
そして、一際強く刀を振るった後で刀身を鞘に納めた瞬間、行く手を阻んでいた巨大な扉は音を立てて崩れ去った。
「……アタシのかぎ爪を斬った時も疑問に思ったんだけどさ、金属ってこんなにスパスパと斬れる物なの? というか、どう見ても刀傷じゃないような……」
扉だった物を見つめる犬神の呟きを聞き流しながら、瓦礫を乗り越えた先の部屋には巨大な空間が広がっていた。
そして、大勢の鬼達が拙者達三人の事を待ち伏せしていた。
「やっと追いついたオニ!」
オマケに背後からやってきた鬼に追いつかれた事で取り囲まれてしまい、完全に逃げ場を失ってしまう。
「カメカメカメ。貴方達がこの部屋に来る事は全て計算済みカメ」
……逃げ場が無くなったとしても、どうという事はない。
とりあえず、近場にいる鬼達目掛けて刀を振るい斬り捨てる。
「脱走したと聞いた時は驚きました。しかし、幾ら貴方達が規格外に強いと言えどこの人数を相手にするのは流石に骨が折れる事でしょうカメ」
最早合図は不要。
犬神と雉鳴も、それぞれ近くにいる鬼を次々と薙ぎ倒していく。
「貴方達? 話を聞いてる――ぐえっ!?」
近くにいた適当な鬼を掴み、鬼達の中心にいるカメカメうるさい男目掛けて投げ飛ばす。
「戦闘員の数が多すぎる。キリが無いな」
「……さっき助けられた借りは返す。アンタ達は、鬼達の親玉を見つけろ!」
雉鳴のぼやくに答えるように犬神がそう言うと、彼女は拙者と雉鳴に取りつこうとしている鬼達の間に割り込み立ち塞ぐ。
「……ここは任せたぞ、犬神!」
一瞬だけ犬神の手助けに入ろうか考えるが、彼女の意志を尊重してやる事にする。
周囲を囲む鬼達の相手を犬神に任せ、拙者と雉鳴は行く手を阻む鬼を斬り捨てながら大群の中に紛れているであろう鬼の親玉を探す為に、前へと進む。
……何か大事な事を見落としている様な気がするが、多分気のせいだろう。
「それにしても、こう数が多いと目当ての相手を探すだけで一苦労だな」
「そうか? 拙者としては適当に刀を振れば鬼を斬れるから、非常に楽だぞ」
周りが敵だらけなお蔭で、刀をブンブンと振り回していれば、鬼をバッタバッタと薙ぎ倒す音ができる。
気分爽快だ。
「……はっ! ひょっとしたら、この混戦の中で親玉を既に斬ってしまったのではないか!? 勿体ない事をした……」
「この亀鬼がそれ位でやられるわけないカメ! これでもくらうカメ!」
まさか既に親玉を倒したのではないかと思い当たった瞬間、鬼の大群の中から一際大きな声が響くと、両手に装着した甲羅を拙者に向けて突き出した男が飛び掛かってくる。
「飛んで火にいる夏の虫!」
飛び掛かってくる亀鬼に合わせるように、刀を振るい迎え撃つ。
……しかし、拙者の刀は亀鬼の躰に届く前に両腕の甲羅によって阻まれ、亀鬼を弾き飛ばすに留まる。
「中々やりますカメ。しかし――」
亀鬼は口を開こうとするが、標的を定めて目にも止まらぬ速さで飛び掛かった雉鳴により蹴り飛ばされ、周囲の鬼の中に埋もれていく、
「……その実力で、お喋りしている暇があるのか?」
「お、おのれ……お前達! 奴等を足止めしろカメ!」
どうやら形勢不利と判断したらしい。
亀鬼は拙者達に背を向け、逃げ出してしまう。
「これだけの数を揃えて逃げるとか、相当に情けない。逃げはしなかった熊鬼がまともに見えてくるレベルだ」
「あんな馬鹿と一緒にするなカメ! 首を洗って待っていろカメ!」
捨て台詞を吐く亀鬼を追いかけようとするが、周囲の鬼達が拙者達と亀鬼の間に立ち塞がった。
「亀鬼様の命令オニ! ここは通さないオニ!」
「お主達、何故そこまでする? あの男に、命を賭ける価値があるのか?」
拙者の問いかけに答える事無く、鬼達は金棒を振り上げ突撃してくる。
……何故こいつらは、ここまで聞く耳を持っていないのだ?
「奴等は下級の戦闘員。単純な思考しかできないように作られている。何を言っても無駄だ」
「……そうか」
雉鳴の言葉を聞き、拙者は思わず臍を噛んでしまう。
拙者の説得が成功して多少なりとも戦力が低下してくれれば楽になったのに、本当に残念だ。
……いや、考え方を変えれば良い。
どうせ改心なんてしない事がわかったのだから、遠慮なく斬る事が出来る。
思考を切り替えて刀を振るい、雉鳴と協力して周囲の鬼達を薙ぎ倒す。
暫く刀を振るい続けていると、いつのまにか拙者達の周囲には生きている鬼の姿が見当たらなくなる。
「これでもくらえオニ!」
鬼を倒し終えたのかと思ったが、どうやら近寄らない事にしただけの様だ。
遠巻きに拙者達を取り囲む鬼が、その手に持った金棒を銃へと変形させてその銃口を拙者達に向ける。
「……中々格好いいじゃないか、あの金棒」
「そうか? 俺はもっとシンプルな方が好みだ」
冗談を言い合いながら拙者と雉鳴は背中を合わせ、正面にいる鬼達と相対する。
「桃太郎、半分任せた」
最初に動いたのは、雉鳴だ。
鬼達が発砲するよりも早く自らに向けられている銃口目掛け、一瞬で数多のクナイを投擲。
そして、自らが投擲したクナイが銃口に辿り着くよりも早く、先程クナイを放たなかった場所にいた何匹かの鬼へと近づいて拳を叩きこみ、蹴りを浴びせる。
雉鳴の放ったクナイが銃口に到達すると同時に鬼達の銃が火を噴けば、クナイの刺さっていた銃が暴発を起す。
拙者は背後から聞こえる爆破音を聞きながら、迫る銃弾に刀を振るって叩き落とす……否、刀の腹で銃弾を鬼達へと叩き返していく。
「ありえないオニ! こいつら本当に人間かオニ!」
銃という圧倒的な暴力に頼ってなお、拙者達に傷一つ負わせる事のできない現実に鬼達は阿鼻叫喚の様相を見せる。
こうなってしまえば、勝負はついたも同然。
弱々しい抵抗しかできなくなった鬼達を、拙者と雉鳴は次々と屠っていく。
「もうこいつらの相手をする必要も無いか。桃太郎、早く亀鬼を――」
恐らくは亀鬼を追いかけようと、そう言おうとしたのだろう。
拙者が頷いた瞬間、閃光が雉鳴とその周囲にいた鬼達を飲み込み、拙者は眩しさに目が眩んで腕で視界を覆う。
腕を降ろして周囲を見渡すと閃光の通った後が焼け焦げており、そこにいた筈の鬼達は跡形も無く消滅していた。
……そして、雉鳴の姿も見当たらなかった。
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