EPISODE4 新たなる仲間(2)
「ああ、あれならハッキング出来るはずだ。……しかし、厄介だな」
雉鳴の言う通り、厄介な事に見張りの鬼が二匹、扉の横に待機している。
……暫く様子を伺ってみるが、どこかに移動する様子も見受けられない。
「恐らくあの扉が出口か、あるいは別の区画に続いているんだろうな」
「だから見張りを立てていると。……雉鳴、お主どれほど自分の腕に自信がある?」
拙者、忍者という人種は初めてお目にかかる。
力づくで通るにしても、雉鳴がどれほどの戦力になるか把握しておかなくてはならない。
「期待に応えられるかはわからないが、少なくとも戦闘員数人程度に後れをとる気はない」
「なら上出来だ。見張りを叩くぞ」
雉鳴の返事を聞くと同時に拙者達は物陰から飛び出すと、見張りの鬼達へと駆け出す。
拙者達に気がついた鬼は何かを叫ぼうと口を開くが、声を出すよりも早く刀を振るい鬼を斬り伏せ、雉鳴も拳の連打を浴びせた後に蹴り飛ばして鬼をノックアウトする。
二匹の鬼が声を上げる暇も無く地面に倒れこむと同時に、雉鳴は懐から取り出したクナイを天井目掛けて投げつけた。
「監視カメラに見られていた。奴等が駆けつけてくるぞ」
天井から吊り下げられた監視カメラはクナイによって破壊されているが、先程の映像は記録に残っているだろう。
……そもそもカメラが映らない事で異常事態だとわかるか。
「拙者が見張っておく、急げ」
「もうやってる」
拙者が急かすよりも早く雉鳴は電子ロックの外パネルを取り外し、タブレット端末とケーブルを取り出し電子ロックの基盤に接続していた。
雉鳴が作業を続ける中、拙者は周囲の見張りを続ける。
「いたオニ!」
「観念するオニ!」
いち早く拙者達の事を見つけた三匹の鬼が、金棒を振りかぶりながら此方に駆け出す。
「来るぞ!」
鬼達が近寄ってくると同時に刀を抜き、二匹の鬼を斬り付ける。
「まだオレが残ってる――」
そして、残しておいた最後の鬼も雉鳴が投じたクナイによって倒された。
「桃太郎、余裕があるならクナイを回収しておいてくれ。無くすと給料から天引きされるんだ」
「……忍者も世知辛いな」
雉鳴に僅かな憐憫の情を抱きつつ、二本のクナイを回収すると同時に扉が開く。
「よし、この拠点のマップは読み込めた。ついでに扉も開けておいた。この先は別の区画に繋がっている」
「待て、この区画はまだ全て見回っていない。犬神が捕まっていそうな部屋はないのか?」
先を急ごうとする雉鳴を呼び止めると、彼は此方に振り向き口を開く。
「マップが正しければこの区画にはもう、人を捕らえておけるようなセキュリティのある部屋は無い。元々人を捕える為に作られた施設じゃないだろうから、セキュリティのしっかりした空き部屋は数えるほどしかないと思う。それに、いつまでもこの区画に残っているとまた鬼達の相手をしなくちゃいけなくなる」
「話は長いが大体わかった。次に行くとしよう」
拙者と雉鳴が扉の内側に入ると同時に雉鳴がパッドを操作すると、扉が閉まりガチャンという音が響く。
「……それにしても手際がいい。最近の忍者というのは随分とハイテクなのだな」
雉鳴を先頭に犬神のいそうな部屋を目指しながら、先程のハッキングに対して率直な感想で称賛する。
「時代と共に技術は進歩していく。それは俺の様な忍者でも変わりないって事だ」
雉鳴は誇る様子も無く、事も無げにそう口にして足を止める。
「どうした? 少し休憩でもするのか?」
「それもいいかもしれないが、この部屋のセキュリティはしっかりしてる。ひょっとしたら――」
雉鳴が話を終えるよりも前に、部屋の中から聞き覚えのある声が響いて、雉鳴の声を掻き消した。
「やめろ! アタシのかぎ爪をそんな所に入れるな!」
「オー二オニオニ。自分の武器をこんなふうに使われるのは、さぞ屈辱だろうオニ」
……どうやら、この扉の先に犬神は捕らわれているようだ。
「ちょっと待ってろ、今扉をハッキングして――」
「どけ」
雉鳴のハッキングでも時間はかからないだろうが、扉の向こうでは一刻を争う状況かもしれない。
雉鳴を押しのけて刀を抜き、金属製の扉を数回斬り付ける。
数秒の後、扉が音を立ててバラバラに崩れると同時に、拙者は部屋の中へと乗り込む。
「ククク、タマゴがいいオニか? それとも、がんもどき? いや、やはりここは定番の大根オニ!」
「ああ! アタシのかぎ爪におでんの汁が!」
部屋の中へと乗り込んだ拙者が見たのは、椅子に縛り付けられて半べそになりながら喚く犬神と、濛々と湯気立つ熱々のおでんに犬神のかぎ爪を突っ込んで楽しそうに具の品定めをしている鬼の姿だった。
……あの鬼、扉の崩れる音にも気がつかないとは、余程の集中力をしてこの拷問に向き合っているようだな。
「や、やめろ! 近づけるな!」
「オーニオニオニ。さあ、あとちょっとで熱々の大根がお前の顔に――」
このまま眺めていても面白そうだが、早いとこ助けてやって犬神に恩を売っておくか。
鬼の背後から犬神のかぎ爪を奪い取り、先端に刺さっていた大根を頬張りながら鬼を片手で斬り倒す。
「モグモグ……ゴクン、味が染み込んでないな。犬神、助けに来てやったぞ」
「……あ、ありがとう」
情けない所を見られて、余程恥ずかしかったのだろう。
犬神はきょとんと此方の事を見つめたかと思うと、すぐに顔を赤くしながら、消え入りそうな声で礼を言う。
「彼女が噂の犬女か。その様子だと無事みたいだな。ところで桃太郎、おでんは残ってないか? ここに潜入するまでに食料が尽きて、何も食べてないんだよ」
「すまない、全部食べてしまった。代わりと言っては何だが吉備団子をくれてやろう」
「いきなり何!? 人の事を犬女呼ばわりするなんて、失礼な奴――忍者!?」
キャンキャン五月蠅い犬神を他所に拙者は雉鳴へと吉備団子を手渡し、雉鳴は吉備団子を頬張る。
「もぐもぐ、ゴクン……既に桃太郎には本名が割れてるし、構わないか。俺の名は雉鳴志信。先程そこの男に助けられて、今は一緒に行動している……見ての通り、忍者だ。暫くの間だが宜しく頼む」
吉備団子を食べ終わった雉鳴は一瞬何かを躊躇うような仕草をみせるが、食って掛かる犬神に対して怯む事無く涼しい顔で自己紹介を済ませる。
「お、おう、宜しく……じゃない! まずは、さっきの非礼を詫びろ!」
「いやあ、すまなかった……しかし、桃太郎の言う通り、犬みたいにキャンキャン喚くな」
これは面倒だ。
雉鳴の言葉を聞き、犬神は拙者の方にターゲットを変えてしまう。
「桃太郎! 折角、アンタの事を少しだけ見直した所だったのに、色々と台無しだよ!」
「まあそう喚くな。ほら、かぎ爪に汁が付いているから、これでも舐めて落ち着くといい」
拙者は犬神を宥める為、先ほどまでおでんの汁に浸されていたかぎ爪を犬神に差し出しす。
「いらないよ! というか、アンタちょっと落ち着きすぎじゃ--」
「見つけたオニ! 報告! 女を捕らえていた部屋に、脱走した男達が――」
犬神のツッコミを遮るように部屋の入り口から仲間に連絡する鬼の声が聞こえたかと思うと、いつのまにか鬼の背後に回り込んでいた雉鳴が、その後頭部に手刀を放ち気絶させる。
「今ので俺達の居場所が奴等に割れたな。じきに奴等がここへ駆けつけるぞ」
雉鳴の言う通り耳をすませば多くの足音が聞こえ、段々と大きくなっているのがわかる。
「問題ない。犬神も助け出した事だし、これで遠慮なく暴れる事ができるな」
襲い来る鬼達を返り討ちにする為に、拙者は部屋の外へと飛び出し、刀の柄に手を携える。
「よし! さっきの恨みだ! アタシも暴れてやる! ……ん? 今の言い方だとアタシの救出を優先してくれたのか……?」
拙者の後に続き、かぎ爪を装着しながら外に出てきた犬神だが、途中から小声で何やら呟き始めてしまう。
……少し助けてやっただけで、この反応。
悪い男に引っかかったりしないか心配になるチョロさだ。
「隠れる気は無いようだな。どうする? ただ暴れるだけの腹積もりか?」
「動くなオニ! 大人しくしていれば、反抗する気も起きないくらいに痛めつけるだけで許してやる――」
鬼の大群が拙者達の元まで辿り着いて喚き散らす中、雉鳴は慌てる素振りを見せる事もなく、クナイを投擲して鬼の数を減らしながら問いかけてくる。
「それも良いが、まずはこの拠点のトップの居場所が知りたい。小物の相手をしている間に逃げられるわけにはいかないからな」
近づいてくる鬼を犬神と一緒に斬り倒しつつ、雉鳴に返事を返す。
「奴等の頭がどこにいるか、正確な場所まではわからん。だが怪しい場所の目星はつけておいた。俺についてこい!」
その瞬間、雉鳴の姿が消えたかと思えば拙者達を取り囲んでいた鬼の一角が崩れ、その先に目的地を目指して疾走する雉鳴の後ろ姿があった。
「はやっ! さ、流石は忍者って言うべき? ……アタシも速さには自信があったけど、あの速さを見せられると自信無くすな……」
「拙者の見立てでは、お主と奴にそこまでの違いはない。さあ、レディファーストだ。見失ってしまう前に追いかけるぞ」
落ち込む犬神に発破をかけながら、行く手を阻もうとする鬼達を斬り伏せ、道を開いてやる。
「アタシはレディって柄じゃないと思うけど、お言葉に甘えてお先に失礼!」
発破が効いたのか、多少は威勢のよさを取り戻した犬神が雉鳴の後を追い、拙者も殿を務める役目として、倒れた鬼の金棒を拾い上げて背後から邪魔しようとする鬼に投げつけてから二人の後を追いかけた。
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