EPISODE3 鬼の復讐(4)
翌日。
鬼ヶ島によって襲撃される予定の工場近くまで訪れた拙者達はその近くの高台に車を停め、車から降りて工場の様子を観察する。
あちこちから黒煙が立ち上り、作業員と思わしき者達が逃げ惑う。
極めつけに、昨日嫌というほど斬り捨てた鬼達が工場の敷地内で暴れまわっている光景が広がっていた。
まさに異常事態と呼んで差し支えないだろう。
「もう襲撃が始まってる……どうする? このまま襲撃が終わるのを待って、
奴等の後をつけるか?」
犬神の提案に、拙者は首を横に振って返事を返す。
「決まっている。この場で鬼どもを殲滅し、奴らの親玉にアジトの場所を吐かせてやる」
「よし、そうと決まったら作戦はどうする?」
……作戦か。
そんなもの、奴らの邪魔をすると決めた時から、既に決まっている。
拙者は自信満々な笑みを犬神とゴリバッカ殿へ向け、心配する必要はないと伝える。
「その顔、何か作戦があるようですねウホ」
「勿論だ。奴等を一匹残らず殲滅する。それ以外に何か作戦が必要か?」
拙者の一部の隙も無い完璧な作戦に、犬神はただ黙って首を横に振る。
「どうした? 沈黙は肯定ととって良いんだな?」
「……とりあえず、アタシとアンタで隠れながら潜入しよう。ゴリバッカは目立つから、何かあった時の為にすぐ逃げれるように車の準備をしておいて。……おかしいな? アタシ、あんまり頭を使うタイプじゃないと思うってたんだけど……」
他に作戦が無いのなら拙者の案も悪くないとは思っていたが、他があるのならそれに従おう。
……そういえば、昨日からずっと気になっている事があったな。
「……まあいいだろう。所で犬神にゴリバッカ殿、拙者の事は桃太郎と呼んでもらって構わない。特に犬神、アンタとかお前とかだと咄嗟の時に気付きにくいから名前で呼べ」
「わ、わかった、桃太郎」
何故だか反応が鈍いような気がしたが、まあ構わないか。
「よし、それじゃあ拙者達は奴等を殲滅してくる。ゴリバッカ殿、後は頼んだ」
「お二人とも、気をつけてくださいウホ。くれぐれも無理はしないように」
無理しないように念押しするゴリバッカ殿に二人で頷き返すと、拙者と犬神は鬼達が暴れまわっている工場への潜入を開始した。
「こんな所にも電子部品があったオニ。奪えば奪うだけ、昇進が近く――」
「そんなに昇進したいのなら、拙者が昇進させてやろう」
集団から離れ、孤立してしまっていた事に気付いていない憐れな鬼を背後から忍び寄って締め落とす。
「良かったな、これで二階級特進だ」
「お前……桃太郎、本当に容赦ないんだな」
まだ拙者の事を名前で呼ぶのに不慣れな様子の犬神が、若干引き気味な様子で拙者に話しかけてくる。
「拙者と鬼はやるかやられるかの関係。容赦などしていては、此方がやられてしまう」
「それはそうかもしれないけどなあ……」
拙者の言葉に犬神は、歯切れの悪い返事を返す。
……犬神の感性を否定する気は無い。
むしろ、彼女の方が拙者よりも余程まともな感性を持っているのだろう。
「拙者の所業に違和感を覚えるのなら、それは人としてまともという事だ……どうした? そんな顔をして」
拙者の話を聞いた犬神は、キョトンとした表情で此方の事を見つめている。
「い、いや、自分がおかしいって自覚があったんだなと」
「失礼な奴め。……犬神、お主は随分とまともな感性を持っているようだが、何故用心棒などやっていた? 普通の人間が就く職業じゃないぞ」
周囲を見渡し鬼がいない事を確認し、親玉を探す為に歩みを進めながら背後の犬神に問いかける。
「……何でなんだろうな。アタシ、去年まで普通の大学生だったのに、就活に失敗し続けてやっとの思いで内定がもらえたと思ったら、入社直前に会社が潰れて気が付いたら用心棒なんてやってて……本当、何でなんだろうな」
どうやら聞いてはいけない事だったようだ。
犬神は今日に至るまでの日を思い返しているようで、空を見上げて遠い目をする。
……この状態のままでは動くのは危険か。
どこか隠れられる場所がないか探す為、近くの建物の窓をこっそりと覗き込み、部屋の中を確認する。
「……ん? ……んんん? おい桃太郎、お前――」
「静かにしろ、この中に人質がいる」
何かを言おうとしていた犬神だったが、拙者の言葉を聞くと口を閉じ、拙者と一緒に窓から部屋を覗き込む。
何人かの作業員と思わしき人達がロープで拘束されており、二匹の鬼によって監視されている。
人質は皆、帽子を深く被り俯いている所為で顔こそよくは見えないが、怪我をしている様子はない。
「……拘束されている他に危害を加えられている様子は無いな。よし、犬神も正気に戻ったようだし、奴らの親玉を探すぞ」
「流石にそれは駄目だろ。彼らを助けた方が良いんじゃないのか?」
……意見が対立したか。
「お主、本当に用心棒なんて金で動く仕事に向いてないな。正義の味方にでもなった方が良いんじゃないのか?」
「……それじゃあ、飯は食っていけないだろ。それよりどうするんだ? アタシはアンタ……桃太郎の意見に従うよ」
……正直な所、ここで彼らを助けようが助けまいが結果はそんなに変わらない筈だ。
彼等を助けた所で外には鬼どもがウロウロとしている以上、結局はここで全てが終わるのを待ってもらう他ない。
そして、助けなくても鬼達が人質に危害を加える可能性は低いだろう。
彼等の目的はあくまで電子部品であって、必要以上の危害を加える必要は無い筈だ。
……よし。
「犬神、彼らを助ける作戦はあるか?」
拙者の言葉を聞いた犬神は、ニヤリと笑って頷いた。
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