EPISODE3 鬼の復讐(3)
「おのれ鬼ヶ島! 拙者が一か月間もPSOを求めて各地をさまよう羽目になったのは、完璧にこいつ等の所為ではないか! しかもカチコミかけてPSOを全部奪い返したら逆恨みしてきおって……この桃太郎、絶対に容赦せん!」
「ちょっと待て。事の始まりはゲーム機の転売なのか!? ……確かに許せないけど、そんな事でここまで大事になるなんて……」
……まったく、犬神の言う通りだ。
「犬神もそう思うか。拙者はちょっと奴等の事務所を一つ潰して、そこに置いてあったPSOの在庫を根こそぎ持ち出して必要な分以外は店に返品しただけなのに……たったそれだけで復讐するなんて、誰が考えてもやりすぎだ」
「……どっちもやりすぎだと思うんだけどな」
何やら遠い目をしながらぼやく犬神を横目で見つつ、ゴリバッカ殿に対して声をかける。
「ところでどこまで行くつもりだ? 奴等の拠点からはもう大分離れただろうし、そろそろ解散しても問題無いだろう」
拙者の言葉を聞いたゴリバッカ殿はその場に車を停車させ、犬神の方に視線を移す。
……どうやら、犬神の言葉を待っているようだ。
「……そのファイル、お前にやるなんてアタシは一言も言ってないよ」
「散々見せてくれておいて、今更そんな事を言うのか?」
拙者の呈した疑問に対し、犬神は口を開く。
「アタシ達もアンタに付いていくよ。鬼ヶ島の奴等はアタシ達の事を使い捨てにしようとした訳だし、もう少し痛い目をみせてやらないと。……それに、アンタに付いていった方が用心棒をやってるよりも面白そうだしね。ゴリバッカ、アンタも構わないよね?」
犬神に問いかけを受けたゴリバッカ殿は、ニヤリとした笑みを浮かべながら頷き返す。
「ええ、犬神さんがそうしたいのなら、私はついていきますウホ。……しかし、犬神さんも素直ではない。本当は、彼の事が心ぱ――」
犬神の頼みを快諾した後、続けて何かを言おうとしたゴリバッカ殿の口を犬神は慌てふためきながら塞ぐ。
「ゴリバッカ! 日本語を喋る様になってから余計な事を口走る様に……。と、兎に角! アタシ達はアンタについていくことに決めたから! 断るなんて言わないよな!」
「……断る理由も無いか。いいだろう。拙者と共に鬼ヶ島の鬼どもを滅ぼそうではないか」
申し出を承諾した拙者は、二人と順番に握手を交わす。
「そうだ。ゴリバッカ殿、お近づきの印にこれを」
そして、リュックから残り少なくなった吉備団子を取り出し、ゴリバッカ殿へと手渡す。
「これはご丁寧に、どうもウホ」
ゴリバッカ殿が吉備団子を頬張るのを眺めながら、犬神が口を開く。
「それで? 次の目的地はどうする?」
犬神の問いに、拙者はファイルのとあるページを開いて答えを指し示す。
「この計画表の中身、ほとんどが既に実行されてしまっているらしい……だが、一件だけまだ未実行の襲撃計画がある……明日、実行される予定だ」
「その襲撃先に、アタシ達も向かうって訳か。……拠点の一つが壊滅させられた事で、予定を変えてないと良いんだけどな」
犬神の懸念は尤もで、拙者も同じ事を憂慮はしていた。
正直、この計画書に書かれている事がそのまま実行に移されるかはわからない……実行されない可能性の方が高いだろう。
だがしかし。
「他に手掛かりが無い以上、記されている襲撃先に向かうしかあるまい。ゴリバッカ殿、次の襲撃予定先に向かってくれ。住所は――」
他にやれる事が無い以上、選択肢はない。
拙者と犬神は、ゴリバッカ殿の華麗なドライビングテクニックを目の当たりにしながら襲撃予定の工場へと向かう事にした。
*
秘密結社『鬼ヶ島』本部の司令室。
その無意味にだだっ広い部屋の中心部にいる一人の男を囲むように三つのモニターが宙に浮いており、モニター上にはサウンドオンリーと表示されている。
「……これより、緊急会議を始める。議題は、つい先ほど三人……いや、二人と一頭……?まあいい、資金調達支部が僅か三人の手で壊滅させられた件についてだ」
部屋の中心にいる、黒いローブを身に纏った男が口を開く。
その声色は感情を抑えており、顔には仮面をつけている為にその表情を知ることはできない。
ローブの男の話を聞き、三つのモニターの向こう側にいるであろう人物たちが、それぞれ口を開く。
『資金調達支部……熊鬼がやられおったか』
『四天王の面汚しめ』
『仕方ないでしょう。熊鬼は四天王の中でも最弱……とはいえ、それなりの実力者ではあるし、部下の鬼達だっていた筈ですカメ。資金調達支部を壊滅させたのは、一体何者なのですカメ?』
たった三人に壊滅させられた熊鬼を詰る二人を最後の一人が宥めた後、ローブの男に疑問を問いかける。
「資金調達支部を壊滅させたのは刀を持った男に、かぎ爪を身に付けた女。そして、ゴリラが一頭だ」
『……ご、ゴリラですカメ?』
ローブの男から襲撃者達の情報を聞いたモニターの向こうにいる男が、困惑と共に聞き返す。
「そう、ゴリラだ」
ローブの男が返答すると共に、場を沈黙が支配する。
「……本題に入ろう。支部は壊滅してしまったが、幸いな事に資金調達用の在庫は既に他の部署に振り分けてある。再編が終わるまでは、各支部で任務を遂行すると共に在庫を販売してほしい」
『……まあ、仕方ありませんね。マニュアルはあるから、そこまでの負担でも無い筈ですカメ』
モニターから聞こえる返事に、ローブの男は少しだけ安堵したような様子を見せる。
「質問が無ければ、緊急会議を終了する……我ら鬼ヶ島に、栄光を!」
『栄光をカメ!』
黒ローブの男は質問が無いと判断して会議を終了すると共に、三つのモニターの内、一つのみが消灯する。
「しかし、まさかあの男が我らに反旗を翻すとは……しかし、奴もいずれは本当の使命を思い出し、我々の仲間にならざるをえない。それまでは精々、仮初の自由でも謳歌させてやろうじゃないか」
黒ローブの男は虚空を見上げて独り言をつぶやいた後でようやく、二つのモニターが未だに起動している事に気付く。
「お前達、早く自分の仕事に戻れ」
黒ローブの男は部下の二人に仕事に戻る様に促すが、返事が返ってくる事はない。
「……どうした? もう会議は終わったから、自分達の業務に――」
『た、大変ですオニ! 突如として何者かに襲撃を受け、支部長がやられてしまい――オニィィィ!?』
残った二つのモニターの内、片方から鬼の断末魔が聞こえると同時にモニターの画面が真っ黒になり、通信が切断されたと表示される。
「な、何があった! 返事を――」
『ほ、報告ですオニ! つい先程、武装した集団による攻撃をうけ、迎撃に向かった支部長が倒されましたオニ! 既に他の鬼達もほとんどがやられてしまい、最後に残ったこの支部長室が陥落するのも時間の問題ですオニ! せめて、情報が渡らないように自爆するオニ! 我ら鬼ヶ島に、栄光を!』
最後に残ったモニターからも生き残った鬼からの最後のメッセージが流れると共に、先程と同じ様に画面が真っ暗に変化してしまう。
突如として二つの支部が壊滅するという異常事態に見舞われた黒ローブの男は、暫しの間呆然とその場に立ち尽くしていたが、やがて正気を取り戻す。
「……最初に熊鬼を嘲ってから一言も喋らないと思ったら……一体、何が起きている? ……いや、今はそんな事はどうでもいい。三つの支部が壊滅させられた以上、もはや時間はない。急がなくては……」
黒ローブの男は一人呟きながら、司令室を後にした。
オトギウォーズを読んでいただき、ありがとうございます。
今回の話が良かったと思っていただけましたらブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいですが、読んでもらえるだけでとても嬉しいです。
毎週日曜の昼十二時の投稿になるので、次も読んでもらえると筆者は喜びます。




