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EPISODE3 鬼の復讐(2)

「その日以来、私を倒した人間という種族に強い敬意を抱く様になりました。そして、更なる強さを求めて鍛錬を積んだ結果、気が付いたら日本語を習得したのですウホ」


 ゴリバッカ殿はそう言って、日本語を覚えるに至った経緯を締めくくる。


 まさか、そんな経緯があったとは……。


「……うん、アタシには理解できない話みたいだ。そういえば、ゴリバッカの話に出てきた子供って……」


 犬神は一瞬遠い目をした後、訝し気な目で拙者を見つめる。


「どうした犬神。拙者がイケメンだからって、そんな風に見つめられても何もしてやれないぞ」


「……ああ、うん。何でもない。どうせ何を聞いてもまともな返事が返ってこないだろうし、気にすんな」


 遠い目をしながら犬神はそう言うと、再びゴリバッカ殿へと向き直る。


「日本語を喋れるようになった経緯はもうそれでいいけどさ、何でアタシに対して黙っていたんだよ? 正直、そっちの理由の方がアタシ的には問題だな」


 犬神の問いかけにゴリバッカ殿は暫しの間、気まずそうにしていたが、やがて決心したかのようにその口を開く。


「すみません、単純にタイミングを逃していただけですウホ。いきなり私が日本語を喋ると驚かせてしまうと思って、切っ掛けを掴めずに今日までズルズルと……」


「そ、それだけの理由か……。ま、まあ、気持ちはわからないでもないけど、もう少し早く話してくれていたら意思疎通ももっと楽だったのに……」


 ……犬神が何とか自分を納得させた所で、二人に声をかける。


「……そろそろ。近くの駅に到着する。二人はそこで降りるといい」


「お前、これからどうするつもりだ? ……帰る場所、無いんだろ?」


 拙者の事を心配してか、犬神が拙者の今後を問いかける。


「……熊鬼は自分の事を支部長とのたまっていた。ならば他にも仲間が残っている筈。奴等を滅ぼすまで、拙者の復讐は終わらん」


「そうは言うけど、当てはあるのか? まさか、鬼ヶ島の奴等がどこにいるのか闇雲に探し回るつもりじゃないだろうな」


 犬神の問いかけに、拙者は暫しの間考え込む。

 確かに、現状では手掛かりが一切無い。

 情報を聞き出すにも熊鬼以外の鬼達は全員建物の炎上に巻き込まれてしまったし、熊鬼もゴリバッカ殿が彼方まで殴り飛ばしてしまった所為で行方知らずだ。

 ……こんな事なら、人質にとった鬼を斬り捨てなければ良かったか。


「その様子だと、当てはないみたいだな。……これ、何だと思う?」


 黙り込んだ拙者の様子を暫く眺めていた犬神は、悪戯っぽい笑みを浮かべて一冊のファイルを取り出して拙者に見せびらかす。


「……! まさかそれは、拙者の隠し撮り写真を纏めたファイルか!」


「犬神さん、確かに吉備さんの見た目は魅力的です。ですが、隠し撮りするのは趣味が悪いかと……」


 突然のカミングアウトに引き気味になる拙者とゴリバッカ殿の様子を見て、犬神は顔を真っ赤にしながら口を開く。


「バカ! そんな訳あるか! お前、どれだけ自分の容姿に自信があるんだよ!」


 余程鬱憤が溜まっていたのか、犬神は暫くの間キャンキャンと喚き続け、拙者は適当に相槌をうちながら受け流す。

 やがて疲れてしまったのか、犬神が肩で息を始めたタイミングを見計らって声をかけてやる。


「冗談はこの位にしてそのファイルの中身は何なんだ? どこから手に入れた?」


「……これはアタシがお前と別れて潜入していた時に見つけた、奴らの計画表だ」


 ほう、拙者と別行動していた間に、そんな物を手に入れていたのか。

 犬神からファイルを受け取り、パラパラとページを捲ってその中身に目を通す。


「……前半は兎も角、後半部分には覚えがあるな。資金や物資の調達か」


「お、おい! 運転中だろ!? ちゃんと前を見ろ!」


 犬神は慌てた様子でファイルをひったくると、拙者の頭を掴んで正面に向ける。


「……お前、さっきから注意力が散漫すぎないか? よくそんなんで運転免許を取得できたな」


「……拙者、おじいさんやおばあさんと時々テレビゲームをする事があったんだ」


 脈絡のない拙者の言葉に、犬神とゴリバッカ殿は訝し気な目で此方を見る。


「吉備さん、いきなり何を――」


「色んなゲームをしたけど、その中でも一番記憶に残っているのは、『ヒゲヲカート』というゲーム。他のゲームではおじいさんやおばあさんに勝てなかった拙者も、このゲームでは太刀打ちできたんだ」


 拙者の話を聞くうちに、何かを察した様子の犬神の顔が段々と青ざめていく。


「お、おい、お前まさか……」


「安心しろ。運転免許を持っていないとはいえ拙者、今話した通りレースゲームには多少の嗜みがある。アイテムが落ちていなかったり実際の運転とは多少違うところはあるが、今まで事故を起こした事は片手で数えるほどしか――」


「止めろ! 今すぐこの車を止めて運転席から降りろ!」


 今日何度目かになる犬神の叫び声が、車内と拙者の頭の中に響き渡った。




「運転できないのならもっと早く言ってくださいウホ。私、こう見えてゴールド免許なんですよ」


 ゴリバッカ殿は窮屈そうにしながらも運転席に収まり、まるで自分の手足かの様に巧みに車を運転しながら後部座席の拙者に声をかける。


「……拙者、先程も言った通り運転にはそれなりに自信が――」


「免許も持ってない奴が何を言ってるんだ。大人しくファイルでも見てろ」


 拙者の開いているファイルの中身を横から覗き込みながら突っ込んでくる犬神を無視して、ファイルに一通り目を通していく。

 ……ファイルの中身を拙者なりに纏めると、熊鬼達は資金や物資の調達を主に担当していたらしく外部とのやり取りも多い関係か、あのような割と目立つ建物を拠点としていたらしい。


「……他の奴等の拠点としている場所までは、わからないみたいだな」


 犬神は残念そうにそう言うが、このファイルは先ほども彼女が言った通り奴等の計画書である。

 拠点の場所に関しては、そこまで期待していなかった。


「そう気を落とすな。このファイルがあれば、奴らの次の目的がわかる。お主のお蔭だ」


「ほ、本当? それなら、良かった」


 意気消沈していた犬神を慰めつつ、ファイルの中身に再び目を通す。

 ……鬼ヶ島の次の目的を理解するには、拙者が奴等と本格的に対峙する原因となったPSOの転売から話を始めなくてはならない。

 そもそもPSOが品薄になっているのには、大きく二つの理由がある。

 一つは、鬼ヶ島のが転売を行う為の組織的なPSOの買い占め。

 市場に出回っている品物が全て買い占められ、市場に品物が出回らなくなれば買いたくても買えない人が増えるのは当たり前のことだ。

 そして、もう一つの理由はPSOの生産数自体が少ない事にある。

 その理由は今まで分からなかったが、PSOは供給自体が市場の需要に比べて極端に少なく、ネット等ではメーカーによる品薄商法とまで噂されている始末。


「……まさか、PSOの供給が少ない理由にこんな事情があったとは、やる事がみみっちいわりに、無駄によく考えている……」


 PSOの供給が少ない本当の理由。

 それは、PSOに使用されている電子部品の品薄だ。

 部品が足りなければ、そもそも生産する事が出来ないのは自明の理。

 では何故、電子部品が品薄になっているのか。

 ……部品を製造するのに使用する原材料が貴重品というのもあるが、そこにはもう一つ、別の理由が存在した。


「……工場の襲撃計画か。過去何度か襲撃してるみたいだけど、近々また襲撃を計画していたみたいだな」


 犬神の言う通り鬼ヶ島が電子部品の生産工場を襲撃し、略奪を行っていた事実が計画表に記されていた。

 つまり鬼ヶ島はPSOに使用されている部品を強奪したうえで、市場に出回っている数少ないPSOの買い占めも行っていたのだ。

 需要を高めて、供給を絞る。

 この二つを同時に実行してPSOの転売を成り立たせていたという訳だ。


オトギウォーズを読んでいただき、ありがとうございます。




今回の話が良かったと思っていただけましたらブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいですが、読んでもらえるだけでとても嬉しいです。




毎週日曜の昼十二時の投稿になるので、次も読んでもらえると筆者は喜びます。

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