表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/31

EPISODE3 鬼の復讐(1)

 熊鬼を倒して鬼ヶ島を壊滅させた拙者達三人は近くに置いてあった車に乗り込み、炎上する建屋から拙者の運転で離れていく。


「ウホッ、ウッホホウホウホ」


「気にする事はない。そもそも最初に拙者達を庇ったのはゴリバッカ殿。助けに向かうのは当然の事だ。いや、むしろこっちが感謝してもいいくらいだ」


 改めて助けにきてくれた事に感謝の意を表す後部座席のゴリバッカ殿へと振り向き、返事を返す。


「馬鹿! 前を見て運転しろ! ……それで、ゴリバッカ、そろそろ聞かせてくれてもいいんじゃないか?」


 助手席に座っている犬神に言われて拙者が前を向くと、次はゴリバッカ殿に深刻な様子で何事かを聞き始める。


「……ウホ?」


「……犬神、お主が何を言いたいのかわからない。まさか、ゴリバッカ殿が何かを隠しているとでも思っているのか? 彼に限ってそんな事ある訳ないだろう!」


 急にゴリバッカ殿を詰め始める犬神を宥めようと声をかけるが、犬神は止まる様子を見せない。


「お前もさっき聞いただろ! ゴリバッカが日本語を喋っているのを!」


「……何だ、そんな事か。よくある事だろう、多分」


 犬神がやけに深刻そうな様子だったから何事かと思ったが、存外にどうでもいい事だったので運転に戻る。


「そんな事で済ませるのか……いや、百歩譲ってよくある事だったとしても、長い間コンビを組んでいたアタシに黙っていた理由が知りたい!」


「……」


 拙者の言葉を聞いて、なおも止まる気配の無い犬神を見て溜息を吐くと、拙者は再び口を開く。


「犬神、人間誰しも言いたくない事や、知られたくない事の一つや二つや三つあると――」


「大丈夫ですウホ、桃太郎さん」


 ゴリバッカ殿を庇おうとする拙者を遮り、先程まで沈黙していたゴリバッカ殿が重たい口を開いた。


「……やっぱり、アタシの聞き間違いじゃなかったのか」


「すみません、本当はもっと早くに話しておくべきでしたウホ。……少し長くなりますが、お話ししましょう。私が何故、人の言葉を話せるようになったかを」



 あれは今から十年以上前の事。

 そのころの私は森で悠々自適に暮らし、師匠や仲間と共に鍛錬に励む日々を送っていました。


「……遂にこの日がやってきたウホ。師匠、今年の『森乃一武道会』で優勝して、優勝の栄誉を私の物にしてみせます!」


「何を言ってるんだ。優勝するのはこのリスリンに決まってるリス。ですよね、師匠」


 師匠の山羊仙人様へ、兄弟弟子であるシマリスのリスリンと共に大会への意気込みを伝えると、師匠は一度だけ頷いてから口を開く。


「うむ、お主達の意気込みはよくわかったメー。しかし、武道会で優勝する事も大事じゃが、本当に大事なのはこの大会で学んだ事を如何に自分の身にするか――」


「ククク、弱小流派の奴等は目標が低いな。無様を曝す前に、さっさと帰った方が身のためじゃないかゴリ?」


 師匠からのありがたい説教に耳を傾けている途中、耳障りでうざったらしい声によって説教を遮られる。

 声のした方に視線を向けるとそこには、嫌味な笑顔を浮かべた一頭のゴリラ……名門流派の師範代である、ゴリータの姿がありました。


「おいゴリータ! お前今何て言ったリス!」


「止めなさい、リスリン。こんな奴の相手などする必要はありませんウホ」


 ゴリータに突っかかっていこうとするリスリンの頭を掴んで持ち上げ制止する。


「ゴリバッカ、随分と弱気じゃないかゴリ。お前みたいな落ちこぼれが同族にいると、エリートである俺様が恥をかくから早くこの森から出て行ってほしいゴリ」


「それは此方の台詞ですウホ。貴方のように品性の欠片も無い人が同族だなんて、顔がニホンザルの様に真っ赤になってしまいますウホ」


 お互いに嫌味を言いあうと暫くの間、睨み合う。


「おいゴリータ! そんな奴等の相手をする暇があったら、ウォーミングアップをするカッパ!」


 一触即発の張りつめた空気に場が緊張するが、ゴリータが同輩のカッパに声をかけられた事で、緊張が解ける。


「ふん、大会で直接叩きのめしてやればいい話ゴリ。……尤も、お前達の実力じゃ俺と戦う前に脱落するのが落ちだゴリ!」


「……クソ! ゴリータの奴、ちょっとばかし家が裕福だからって俺達の事を馬鹿にしやがってリス」


 捨て台詞を吐き立ち去るゴリバッカの背を見ながら、リスリンが悔しそうに言葉を発する。


「ゴリバッカ、リスリン。挑発に乗るんじゃないメー。儂が教えた事を忘れなければ、必ず勝ち残る事ができる。その時こそ、奴らに目にもの見せてやる時だメー」


「「はい! 師匠!」」


 師匠の激励に、私とリスリンは自信を持って返事を返した。




 森乃一武道会の闘技場に出場選手が全員集められる。

 大会のルールは単純明快なバトルロイヤル、最後に残ったただ一匹が勝者だ。

 単純な武力だけでなく、最後まで力を温存する戦略性も求められる……正しく真の強者を決める大会。

 周囲を見渡せば、この大会の為に鍛えた猛者たちが戦いの始まりを今か今かと待ちわびている。

 そんな猛者の中、一人の参加者が私の目を引いた。


「……あれは人間の子供?」


 まさか、あの人間の子供も参加者だというのだろうか?

 この戦いは危険だ。

 もし迷い込んでしまったというのなら、早く安全な場所へと非難させなくては。


「これより、森乃一武道会を開催する!」


 私が少年の元へと向かおうとした瞬間、主催であるクアッカワラビーが大会の開催を宣言すると共に、戦端の幕が切って落とされる。


「ゴリゴリ。何だ? あの弱そうな人間?」


「まずは弱そうな奴等から狩る事にするカッパ!」


 ゴリータと、その同門のカッパが子供に目を付けてしまい、始末しようと近づいていく。


「待て――」


「そこのゴリラ! 儂の相手をしてもらおうか!」


 ゴリータたちを止める為に、彼らの元へ駆け寄ろうとする私の前に、一匹の動物が立ち塞がる。


「この威嚇を見よ! 恐れおののくがいいタヌ!」


 私の前に立ち塞がったアライグマは後ろ足で立ち上がり、両前足を天に掲げてその躰を大きく見せる。

 所詮は大きく見せかけているだけなので、本来はどうという事は無い筈だ。

 しかし、アライグマから発される異常な気迫に私は足を止めてしまい、その場で睨み合いになってしまう。


「儂の威嚇に動く事はできまいタヌ! このまま貴様は他の参加者にやられるのを待つのみ――」


「キエェェェ! リスパンチ!」


 威嚇を続けるアライグマの脳天を、跳躍したリスリンの振り下ろした拳が穿ち黙らせる。


「リスリン!」


「ゴリバッカ! 事情は大体わかっているリス! ここは俺に任せて、早くいけリス!」


 再び立ち上がろうとするアライグマを押さえつけながら、リスリンが私に向けて叫ぶ。


「すまない、リスリン。ここは頼みますウホ!」


 この場にいる猛者達の相手をリスリンに任せ、拙者は子供の元へと急ぐ。


「怯えて動く事もできないカッパ?」


「恨むのなら、貧弱な人間の分際でこの大会に参加した自身の愚かさを恨むゴリ!」


 駄目だ! 間に合わない!

 私が駆けつけるよりも早く、ゴリータ達の魔の手が子供に及ぶ……筈だった。

 ゴリータ達が飛び掛かると同時に、子供が目にも止まらぬ動きで腰に差していた刀を振るい、ゴリータ達が宙を舞う。

 落下して動かなくなったゴリータ達を見て、思わず私の脚が止まる。

 子供は刀を鞘に納め、一言呟く。


「……弱い」


 ゴリータ達は私たちが棲んでいる森の中でも、名門と言われている流派に所属していた。

 そんな彼等が油断していたとはいえ人間の子供にあっさりと倒され、あまつさえ弱いと評されるなど到底信じる事はできない。

 しかし、目の前で起きた事は全て現実。

 私はその光景を目にして、身体が震えているのに気付く。

 恐怖によって震えているのではない。

 思ってもみなかった強者と出会えた喜びによって、武者震いを起こしているのだ。


「コケーッ! クックドゥルドゥ!!」


「邪魔ウホ」


 私は背後から飛び掛かってきた雄鶏を拳で払って吹き飛ばし、今もなお周囲の動物達を次々と薙ぎ倒す子供……いや、男の元へと急ぐ。


「どいつもこいつも弱い。おばあさんの命令で腕試しにこの武道会に参加したが、ここまで歯応えがないと――!」


「ウッホォ!!」


 拳を合わせて男を目掛けて振り下ろすが、男は飛び退いて私の拳を躱す。


「流石に躱しますかウホ。私の名はゴリバッカ。人間の子供と侮っていましたが、先程からの様子を見るに中々の手練れのようですウホ。お手合わせ願う!」


 両拳を地面に叩きつけて衝撃波を発生させて男を襲わせるが、男は躱す事なくその場で刀を振るい、斬撃によって衝撃を相殺する。


「雑魚ばかりと思っていたが、中々できる奴もいるみたいだな。 しかし、拙者の刀の錆になるのは変わりない!」


 男が私に向けて駆け出すと共に、私もまた男に向けて駆け出す。

 先に動いたのは、私の方だった。

 男の胴を穿つ為に拳を勢いよく振り抜くが、男が立ち止まった事で私の拳は彼に届く事なく空を切る。


「ウホッ!?」


 そして、伸び切った私の腕を目掛けて男は刀を振り下ろす。

 一瞬、腕が切断されるかもしれない恐怖に怯んでしまうが、私を襲ったのは腕を叩かれる痛みだけ。

 腕が切断されるどころか、切り傷すらつく事はなかった。


「安心しろ、今日使ってるのは模造刀だから切れる事はない……尤も、お主はここで脱落だがな」


 私が一瞬怯んだ隙をついて、男は私の胸に掌底を放つ。

 肺の中にある空気が一気に吐き出される感覚と共に意識が遠のいていき、少し遅れて私の武道会が終わったのを悟ると目の前が真っ暗になった。




 次に目を覚ました時、既に武道会は終了していた。

 最終盤まで残っていたらしいリスリンと、観戦していた師匠に話を聞くと武道会は私を倒した男の優勝で幕を閉じたらしい。

 正攻法では敵わないと悟ったリスリンは死んだ振りまでして奇襲をかけようとするが見破られて敗退。

 ……最後に残った動物達もあっさりと倒した男は、表彰式に姿を現す事なく立ち去ったらしい。

オトギウォーズを読んでいただき、ありがとうございます。


今回の話が良かったと思っていただけましたらブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいですが、読んでもらえるだけでとても嬉しいです。


毎週日曜の昼十二時の投稿になるので、次も読んでもらえると筆者は喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ