ⅰ.アルビディ・ファルコネス(Albidi Falcones)- 1
沈む夕日が地平線に掛かって二つの月の光が鬱蒼とした木の葉の間に漏れる頃、
紙をめくる音が虫のささめきと共に車輪の軌跡に当たっていた。
老御者の客はよそ者の青年一人だけ。
手綱を緩めた御者が低めに口を開いた。
「スランブル(Slumble)のようなド田舎に行くなんって、あんた、かわりもんだな。」
青年は構わなく薄い本をめくりながら答えた。
「そこに発令されましたからですね。」
「ああ、哀れだね、そこは本当何もいない。然も最近の何年かは探検かなんかで皆旅立って、残りさえいない。」
嘆く老人に青年は何も言わなかったが、めくる音は一層と大きくなってくだらない苦情を沈めた。
短い冬日が完全に去って夜が降りてくると、森の闇と静寂だけが二人を包み始めた。
「まったく、こんなに静かな訳がないのにな…」
『ドカン』
御者の独り言に答えでもするように目の前が光った。
余りのもの轟音に高い枝で微睡む鳥たちが驚きで羽ばたいた。
御者が何度も手綱を逃がしながら興奮した馬たちをやっと鎮めて止まった時、
三人の男が馬車をふさいでいた。
「え…え…!」
凍ったようにびびった御者に最も背の高い男が近づいて、人差し指で御者の顎を差し上げながら話した。
「オイ、上手くした方がいいぞ、死にたくなければな。」
哀れな老人の顎を上げたまま、男は後ろを向いて残りの二人に叫んだ。
「金目の物は全て持って来い!」
一人が辻強盗の身分を忘れたようにおどおどと震えてる間に、残り一人は楽しむようにぴょこぴょこと馬車の荷室に駆け付けた。
苦労に満ちた顔が中を除く瞬間、髭の生えた鼻の下に拳が飛び込んだ。
髭の男は鈍重な打撃音と共に2メートルくらい飛ばされて落ちた。軽度肥満の体が地ドサッと落ちる音がすると、背の高い男は指を引いて馬車の後ろへと進んだ。青年が彼の視界に入った時、青年は困ったような独り言をしていた。
「めんどくさくなったね、こうだと規定違反かな…」
「オイ、」
盗賊は呼んだが、青年は先から呼んでいた規定集に夢中で全然構う気がなかった。
「無視すんな!」
盗賊は腰辺りの刀で青年の脳天を潰した。だが次の瞬間刃が割ったのは冷たい夜の空気だけだった。
「こうだと…大丈夫だったかも…」
青年はその横で怒らせるよう呟いた。
腹が立った盗賊は顔を歪みながら叫んだ。
怒りで頭の上まで伸ばした手の刀から月の光が崩れた。
「このクソガキがぁ!」
「あ、もういい、何とかなるだろ!」
『ブスッ!』
高く伸ばした手から力が抜けて、金属が地に当たる音がした。盗賊は鳩尾を抱えたまま、ろくな音も出せず倒れた。
巨躯が完全に倒れながら大きな音を出すと、御者は漏れたような及び腰で青年に近づいて話した。
「あんた…大丈夫かい…?」
「はい、見ての通りですね。」
「どうやって…」
呆然とした御者に青年は胸元のバッジを指した。
「一応、エイド(AID)は持ってましてね。」
青年のバッジを見た御者は目を大きくした。
「白金製に鷹の印…これはギルド直属探検隊「アルビディ・ファルコネス(Albidi Falcones)」の…?」
青年が即答した。
「はい、新入りですけど。」
話を終えた青年が首を回すと、御者も首を回した。目が合ってしまったおくびょうの盗賊は手遅れの逃走をしよとしたが直ぐ転んだ。その音が寂寞となった森の中に広がった。
以前からの構想を具体化したものです。
タイトルの「アウデンス」はラティン語で「冒険する(者)」といういみで、
本文の「アルビディ・ファルコネス」という団体の名前は同じくラティン語で「白い鷹たち」っていう意味です。
よろしくお願いいたします!