もう一つのサンタ事件〜クリスマス配達人の謎 別伝〜
この物語は今回の『クリスマス配達人の謎』(https://ncode.syosetu.com/n9084fv/11/)の別伝ですが、エラリーシリーズの本筋とはまったく関係がありません。独立した一つの話として楽しんでいただければ幸いです。
エラリーシリーズの著者J氏、勝手に別伝を書いたり設定を使わせていただきましたが何卒ご容赦ください。
それではみなさんご一緒に。
いくぞ!(執筆する)英雄たち! 武器の貯蔵は十分か!
さて、皆さん。
本日はお集まりいただきありがとうございます。
私エラリーは、長い修練の末に、新しい天上天下唯我独尊のモードを習得いたしました。ここでそのお披露目をさせていただこうと思います。
それでは。
――天上天下唯我独尊・混沌モード発動
――思探降臨
かつて渾沌譚を生み出し最大級の悪罵と衆目を集めた男を降臨させ、強制的に小説を書かせることができる。どんな縛りを加えてもよいという。
え?そんなこと不可能だって?――覚えておきなさい、混沌に不可能はないと。面白い作品を書くことと、縛りを満足させることとは別論だが。
今回の縛りは。
<もしシタンが「クリスマス配達人の謎 別伝」を書いたら>
やれやれ、どんな話になるのやら。まったく予想がつかないが、即興で普魯西青色の万年筆を走らせてみよう。
==
令和元年――2019年に終わりを告げようとしている師走。光は暗澹たる気持ちだった。日の入りが早まるのと連動するように、毎年この時期になると気持ちが暗くなってゆくのである。その理由はクリスマスにあった。恋人のいないロンリークリスマス……というのではない。光はもう高校生だから恋人がいてもおかしくない年齢だが、男子校で無邪気に育った光自身にまだそのような感情は芽生えていなかった。そもそもクリスマスに恋人と過ごすというのは世界的にみて稀といっていい。統計をとったわけではないが、最も一般的なのは、家族と過ごすということである。そう、家族。
光が小学生の頃、両親が離婚した。父が事業に失敗し借金を重ね、アルコール中毒寸前かと思われるほどに酒浸りとなった。母は苦慮の末にこの選択をした。以来、光とその妹の愛は共に母の元で暮らすこととなった。その直後から、サンタクロースが来なくなった。
プレゼントはサンタクロースが運ぶわけではない。これは常識である。では何も運ばないのかというと、それは違う。サンタクロースは子どもたちに夢を運ぶのだ。自分の思いが届き、それを遥か彼方から持ってきてくれる……そんな素敵なファンタジーは子どもたちの心を満たし、成長するにつれてそのファンタジーから卒業する。一種の通過儀礼のようなものなのだ。
突然サンタクロースが来なくなったらどうだろう。どの子どもにもその瞬間は訪れる。だがそれが明らかに家庭環境の激変のせいだったとしたら。光は完全に人間不信に陥って自分の殻に閉じこもるようになった。妹の愛は持ち前の天真爛漫さで表面上は明るく振舞っていたけれど、やはり心の奥底に翳りが、兄には痛いほどみえた。かつては派手に行なっていた家庭のクリスマスパーティーも、経済的・精神的に余裕がないためか、ほとんどないようなものになっていった。
そんな光と愛に、あのサンタ事件が訪れた。
これは夢だろうか……。愛は目を擦ってもう一度枕元をみた。そこにはまぎれもなくクリスマスプレゼントが鎮座していた。
「ひゃっほーい!!お母さん、サンタさんだよ!サンタさんがきたよ!」
母は目を丸くして答えた。
「あら、ほんとに?!すごいわね、よかったわね〜」
余談だが、愛はそのクリスマス短編集がきっかけで文芸に目覚め、大人になってからはミステリ作家をしている。なんでも本格推理小説の旗手らしい。尊敬する作家はエラリー・クイーンだそうである。
光には何が何だかわからなかった。一体なにが起こったのか。
「お母さん、なんでまた?」
「お母さんにもわからないのよ。ほんとにサンタクロースっていたのねぇ」
光の枕元には何もなかった。どうやら高校生には来ないらしかった。暗澹たる気持ちは濃度を増してゆく。
テレビをつけると、プレゼントをもらった子どもたちがインタビューを受けている。
「『こども自助論』もらった!今日から勤勉に生きたいです(棒)」
どうやら今年のクリスマスは子どもたちに本が贈られたらしい。一体誰が、どうやって。
「お兄ちゃん?どうしたの?」
愛が来たので慌ててテレビを消す。愛には愛だけのサンタクロースであってほしいので、「サンタ事件」のことは愛には内緒!
その時、お母さんが言いにくそうにいった。
「今日、会ってほしい人がいるの」
?!
「誰?」
「会ってからのお楽しみ、よ!」
いつになく機嫌の良い母。母も妹も機嫌が良くてそれは嬉しいのだけれど、光の心に一切の光はなく、ただひたすら闇が続いていた。
「あ、あぁ」
車に乗り込んで、いつもの道を進む。
「どこ行くの?」
「内緒!」
愛は夢中でもらった本を読んでいる。
「酔うからやめなよー」
「わたしが酔わないことを、あなたは知らない」
何言ってんだ、こいつ。
辿り着いたのは高価そうなレストランだった。
「こんなところ来て大丈夫なの?」
「だいじょぶだいじょぶ。光、びっくりするわよー!」
母に連れられてレストランを進むとそこには……見慣れた顔があった。
「光、愛、元気だったか?」
2019年12月25日。人生で一番のアニバーサリー。もう一つのサンタ事件。
人生をやり直して再び母と一緒になった、世界で一人だけのサンタクロースと共に、僕たちは光と愛に満ちた最高のクリスマスを過ごした。
サンタクロースはイギリスではファーザー・クリスマスと呼ばれています。もちろん父親という意味ではないのですが、今回の小説では父親という意味をかけてみました。家族がいるってとても素敵なことだと思います。
拙速に書いたのでクオリティが足りていなくてすみません。
今年の貴方のクリスマスも、世界で一つだけの幸せなクリスマスでありますように。メリークリスマス……




